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メンタルヘルスと法的責任

テーマ:メンタルヘルス

2012年1月26日

解説者

弁護士 高橋弘泰

 前回までは、職場でのメンタルヘルスケアへの取り組みの必要性及びそれに関わる法改正についてお話ししてきました。今回からは、メンタルヘルス(心の健康)の問題に起因する労働者の精神障害や自殺などについて、具体的な裁判例を紹介しながら、企業が法的に賠償責任を負うのはどういう場合かについて説明したいと思います。


 もちろんこうした事態にならないために、これまでのコラムで解説したように、職場において普段からメンタルヘルスケア対策に取り組むことが必要なのであり、今後の説明は、ある意味で「こうなってはいけない」という反面教師的ケースの説明といえるかもしれません。


【安全配慮義務】

 労働者(従業員)の精神障害や自殺についての賠償責任は、事業主の「安全配慮義務違反」に基づくものとされます。安全配慮義務とは、「労務の提供にあたって、労働者の生命・健康等を危険から保護するよう配慮すべき使用者の義務」をいいます。この義務を怠ったために労働者が損害を被ったときは、事業主は損害を賠償する義務を負うことになります。


 法律的には、労働者がうつ病などの精神障害になったとき、事業主の責任が問われるのは、労働者の従事した業務と精神障害との間に相当因果関係がある場合です。労働者が自殺してしまった場合、従業員の自殺について事業主が損害賠償責任を負うのは、従業員の従事した業務とうつ病などの精神障害との間に相当因果関係があり、かつ、その精神障害と自殺の間に相当因果関係が認められること、つまり、二重の相当因果関係が認められる場合ということになります。その他にも、自殺等の重大な結果を招くことの予見可能性と回避可能性、また必要な措置を講じなかったことについての過失も必要になります。ただし、過失については、法律により事業主にメンタルヘルス対策が義務付けられるようになれば、今後はそのような対策をとっていなかったこと自体が事業主の過失を基礎づける事実となる可能性があるので注意が必要です。


【裁判例その1】

 精神障害や自殺に関する賠償責任についてのリーディング・ケースは、最高裁まで争われた以下の事件です。今回はこの事件について、一審、控訴審、上告審のポイントを説明していきます。


 この事案は、広告会社に就職した社員が、長時間労働により、睡眠不足になり疲労困憊し、うつ病になり自殺したとして損害賠償を請求したというものです。


 一審(東京地裁平成8年3月28日判決)は、その社員の上司が被害者の長時間労働を軽減する措置を取らず、また、被害者が疲労困憊しているのを認識しながら何らの軽減措置も取らなかったとして、使用者に上司を履行補助者とする安全配慮義務の不履行責任を認めました。


 一審判決の認定した事実によると、この社員はしばしば翌朝まで徹夜して残業をしており、直属の上司がこれを知って直属の班長に告知したものの、自らは長時間労働軽減のための措置は何ら取らず、班長も同様でした。また、社員の言動がおかしくなり、顔色が悪く明らかに元気がない等の症状があらわれていることに気付きながら、なお何ら措置を取らなかったとされます。


 控訴審(東京高裁平成8年9月26日判決)は、会社の安全配慮義務違反を認めましたが、その社員のうつ病罹患ないし自殺という損害の発生及び拡大について、社員自身の心因的要素等被害者側の事情も寄与しているとして、過失相殺により損害賠償の7割を会社に負担させるのが相当と判断しました。


 最高裁(平成12年3月24日判決)も、会社の安全配慮義務違反を認めましたが、その社員のうつ病罹患ないし自殺という損害の発生及び拡大に、社員自身の性格や業務遂行態様が寄与した場合においても、「その性格が同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでないとき」は、これを損害賠償額の決定に際して斟酌することはできないと判断しました。


 最高裁の認定によれば、この社員の性格は、一般の社会人の中にしばしば見られるものの一つであり、上司らもその性格を積極的に評価していたとされます。「その性格が同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでないといえる」という基準は、目立った異常性格でない限り自殺した社員の事情を考慮すべきでないという考え方に立つものといえるでしょう。この最高裁の判例からは、裁判所は、会社側に要求される安全配慮義務を厳格に見る傾向にあるといえると思います。


氏名:高橋弘泰

生年:1970年生

弁護士登録年・弁護士会:
2009年弁護士登録、第二東京弁護士会所属

学歴:
1994年東京大学法学部卒業

得意分野等:
東京都に勤務の後、大宮法科大学院に入学し、法曹を目指す。行政事件、刑事事件など公益的な活動に力を入れる一方、民事分野でも敷居が低く利用しやすいと同時に、内容的には決して妥協しない良質な法的サービスの提供に努めていきたいと思います。

所属事務所:
法律事務所フロンティア・ロー http://frontier-omiya.jp/index.html

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