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「労働者」性について―最近の裁判例から

テーマ:採用・雇用

2011年4月21日

解説者

弁護士 今泉亜希子

【労働契約の成立と「労働者」】

 事業主が、従業員など、他人を使用する場合、法律的にはどのような手続が必要でしょうか。通常は「労働(雇用)契約書」を作成して、業務内容や給料、就業場所や勤務時間などについて取り決めるものですが、契約書は作成せず、単に雇用条件説明書を交付したり、口頭の説明で済ませるだけのケースも少なくありません。ただ、いずれの場合であっても、事業主と使用される側との合意が成立し、労働契約が締結されれば、使用される側は「労働者」という法律上の地位を得ることになり、使用者は、法定労働時間の定めや(労働基準法。以下「労基法」32条)、時間外・休日割増賃金(労基法37条)、年次有給休暇の定め(労基法39条)など、法律上一定の制限を受けることになります。また、労働者を雇用している場合、使用者である事業主には雇用保険や労災保険の加入の義務が生じます。


 では、「労働者」とは具体的にどのような人を指すのでしょうか。労働基準法第9条は「この法律で『労働者』とは、職業の種類を問わず、事業または事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう」と定めていますが、他方、労働契約以外でも「請負契約」における「請負人」や、「業務委託契約」における「受託者」など、当事者の一方が何らかの労力を提供し、それに伴って金銭を受け取るという形態の契約は他にも存在します。これらは、法律上は一応区別されているものの、実際の適用の場面ではいずれか判断がつきにくい場合もあります。特に、稼働の実態がどちらともつかない中間的な内容の場合、当事者間で契約形態に関する認識が異なる場合もあり得ます。


【裁判例】

 この点について、平成22年4月28日東京地方裁判所判決が、興味深い判断をしています。いわゆる「ソクハイ事件」と呼ばれる事案で、(株)ソクハイのバイシクルメッセンジャー(以下「メッセンジャー」)兼営業所の所長であった原告が、会社側からの所長職の解任通告、メッセンジャーとしての無期限の稼働停止通告、契約の解除などの無効を争ったという事案です。


 本事案の主な争点は、メッセンジャー及び営業所長が労働基準法上の「労働者」か「個人事業主」か(本件契約が労働契約といえるか)という点にありました。労働者に該当するとなれば、解任通告等の有効性はすなわち、解雇の有効性の問題となりますので、単に契約上解任が有効かを判断するだけでは足りず、その通告が解雇権濫用(労働契約法16条:旧労基法18条の2)に該当するかどうかを判断する必要がありますし、また解雇予告手当の支払(労基法20条)が問題となることも考えられます。


 本事案において、東京地裁は、労働者に該当するかどうかの判断は「契約の形式のみによって行うのではなく、契約の形式や内容と併せて、具体的な労務提供関係の実態に照らして使用従属性があるかどうか、具体的な報酬の支払実態に照らして労務対償性があるかどうかによって行うのが相当である」として、具体的な勤務実態を詳細に認定し、メッセンジャーとしての原告は、労働基準法上の労働者には該当しないと判断し、他方、営業所の所長としての原告は、労働者に当たるとの判断を示しました。


 事業の多様化、複雑化に伴い、他人を使用するにあたって、多様な契約形態・実態が現れていますが、事業者としては、その契約が果たして労働契約として労働基準法上の制限を受けるのかそうでないのか、単なる契約書の題名や内容だけでなく、稼働の実態に照らして判断する必要があるでしょう。


 次回は具体的な裁判の内容についてお話しします。


氏名:今泉亜希子

弁護士登録年・弁護士会:
2000年弁護士登録、東京弁護士会所属

学歴:
1996年立教大学法学部卒業

得意分野等:
中小企業に関する企業法務一般、医療事件

所属事務所:
倫総合法律事務所 http://www.rinsogo.com/

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