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計画停電により自宅待機〜賃金はどうなる?

テーマ:労務一般

2011年3月31日

解説者

弁護士 島岡清美

 最近の計画停電、交通機関の麻痺などの混乱を受けて、社員に自宅待機をさせた会社も多いことかと思います。
 その場合、賃金はどうなるのでしょうか?
 今回は、労働者の労務提供が不能になった場合の賃金の取扱いについて、法律上どのように定められているかについて見たうえで、実際の問題を検討してみたいと思います。


【民法の原則】

 労働契約を規律する法律は、民法と労働基準法が基本になります。
 民法では、契約において、当事者双方の責に帰すことのできない事由で、債務を履行することができなくなった場合は、その債務者は反対給付を受けることができない(民法536条1項)と定められています。どちらも悪くないのだから、何も求めることはできないということです。


 これを雇用に当てはめると、労働者にも使用者にも責に帰すべき事由がなく、労働者が労務提供という債務を履行できなくなったときは、その反対給付である賃金の支払を受けることができないという意味になります。


 しかし、債務を履行できないことが、「債権者」(この場合、使用者のこと)の責に帰すべき事由によるときは、反対給付を受ける権利を失わず(民法536条2項)、労働者は賃金を請求できます。
 たとえば、不当な解雇によって就労不能になったような場合や、使用者の過失によって工場が消失し就労不能になった場合には、労働者は賃金請求権を失いません。


【労働基準法(休業手当)】

 一方、労働基準法は、「使用者」の責に帰すべき事由による休業の場合には、賃金の6割以上の休業手当を支払わなければならないとしています(同法26条)。


 民法536条2項と労働基準法26条とが同じようなことを定めているように見えますが、民法536条2項は、一般的な「過失」と同じ概念であって使用者側の過失がある場合をいうのに対し、労働基準法の「使用者」の責に帰すべき事由は、労働者の生活保障の観点から民法のそれより広く解釈されています。


 具体的には、不能になった理由が、使用者に過失のない経営上の障害であっても、その原因が使用者の支配領域に近いところから発生しており、賃金保障の観点から相当と認められる場合には休業手当の支払義務が認められます。
 要は、休業の理由が、使用者側の領域で生じたものであるか、休業手当を支払わせることが相当であるかどうかという観点から考えることになります。


 したがって、たとえば、親会社の経営難のため必要な資材資金の提供が受けられず、他からも調達できないために休業になった場合などは、使用者からすればどうしようもできないことではあるのですが、これは「使用者の責に帰すべき事由」に該当し、休業手当を支払わなくてはならないということになります。


 さて、そうなると、今回の自宅待機というのはどう考えればよいのでしょうか?
 おそらく企業側に過失責任がある場合はないでしょうから、民法上の賃金請求権が問題になることはほとんどなく、問題は労働基準法上の休業手当を払わなければならないのかということだと思います。場合を分けて考えてみましょう。


【計画停電の対象である場合】

 計画停電による休業については、厚生労働省がホームページで発表している基監発0315第1号が参考になります。
 これによれば、計画停電の時間帯を休業にする場合は、使用者の責に帰すべき事由には該当せず、原則休業手当は必要ありませんが、計画停電の時間帯以外も休業にする場合は、事情によって異なってきます。


 計画停電の時間帯のみを休業とすることが企業の経営上著しく不適当と認められるときには、それ以外の時間帯を休業にしても使用者の責に帰すべき事由には該当せず、休業手当は必要ありませんが、基本的には停電がないなら営業できるはずですから、このような事情がないのにそれ以外の時間帯も休業にした場合は、原則休業手当が発生することになるでしょう。


【節電協力の場合】

 では次に、計画停電の影響で節電に協力したとか、交通機関が麻痺して出勤できないとか、派生的な出来事が理由になった場合はどうでしょうか?
 この点は、インフルエンザに対する企業の対応について厚生労働省が発表しているQ&A(PDFファイル)が参考になります。


 このQ&Aにおいて「インフルエンザの感染者と近くで仕事をしていた労働者や同居する家族が感染した場合にその労働者を休業させる場合」については、「職務継続が可能である労働者であるから、これを使用者の自主的判断で休業させる場合には、一般的に「使用者の責に帰すべき事由による休業」にあたり、休業手当を支払う必要があります」と回答されています。
 また、「大規模な集団感染が疑われるケースなどで保健所等からの指導により休業させる場合には、一般的には「使用者の責に帰すべき事由による休業」には該当しないと考えられ、休業手当を支払う必要はありません」と回答されています。


 これを参考にして今回のケースを検討すると、節電協力による場合については、企業側は営業することは可能であり、労働者側も職務継続は可能なのですから、要は、企業の「自主的」判断といえるかどうかにかかってくるものと思われます。


 したがって、たとえば電力の大口利用者であるため、行政から強い指導が入って節電協力をせざるを得ないような場合には、使用者の責に帰すべき事由とはいい難いですが、そのような指導もなく、自主的に休業したような場合には、使用者側の領域に属する事由となり、休業手当が必要となる可能性が出てくるでしょう。


【計画停電の影響で交通機関が麻痺し出勤困難な場合】

 出勤困難な社員のみ自宅待機させる場合、労働者が労務提供できない理由は、交通機関の麻痺であって、使用者側の領域に属する事由ではないので、休業手当は必要ないと思われます。


 しかし、出勤困難な社員がいるため一律に自宅待機にしたような場合は、計画停電の場合の考え方やインフルエンザのQAの回答を参考にすれば、出勤可能な社員のみでは営業が成り立たないような事情がある場合は使用者の責に帰すべき事由ではなく、休業手当は不要であるが、営業が成り立つ場合には使用者の責に帰すべき事由に該当し、休業手当が必要ということになると思われます。


【まとめ】

 こうして見てみると、労基法26条にいう「使用者の責に帰すべき事由」というのは、使用者にとってみると多少厳しい運用がなされているのかもしれません。しかし、そもそも休業手当というものが、労働者の生活保障を目的として設けられていることを考えると、それもやむを得ないことであり、使用者側としては、このようなリスクがあることを念頭に置いて、休業にする場合には、従業員とよく協議をして対処法を決めることが肝要であるということになるのでしょう。


氏名:島岡清美

生年:1973年生

弁護士登録年・弁護士会:
2002年弁護士登録、東京弁護士会所属

学歴:
1996年3月 中央大学法学部卒業

得意分野等:
多種多様な事件を手がけておりますが、基本的には、社会から理解されないことによって苦しんでいる方の手助けをすることが多いです。これまでの経験において比較的取扱いの多い業務分野あるいは特徴的な分野を挙げるとこのようになります。
 ・一般民事事件(賃貸借、請負、貸金、売買、不法行為等)
 ・企業法務(契約書作成・確認、法務相談への対応等)
 ・離婚、婚姻費用分担、DV(保護命令申立)、セクハラ訴訟
 ・刑事事件(示談交渉、刑事弁護、被害者参加)
 ・農地法関係(行政との交渉等)
 ・子どもの人権関係(体罰事件、親子関係不存在確認訴訟等)
 ・児童福祉法関係(児童相談所と親権者との関係調整、行政不服審査請求手続等)
 ・破産、個人再生、任意整理

所属事務所:
堀法律事務所 http://hori-laws.jp/

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