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ウィルス作成罪-イカタコウィルス器物損壊罪起訴を受けて

テーマ:インターネット一般

2010年9月 2日

解説者

弁護士 森山裕紀子

【イカタコウィルス作成と器物損壊罪】

 平成22年8月23日、東京地検は、ウィルスに感染するとパソコン内のファイルをイカタコに書き換えてしまう通称「イカタコウィルス」を作成した男性を、器物損壊罪(刑法261条)で起訴した。
 現在の日本の法律では、ウィルス作成をしたこと、それ自体を罰する法律はない。新聞報道によると、ウィルス作成に関連して立件したのは、今回を含めて3回目とのことで、ウィルス作成者として2008年に初事例として起訴された者と今回の作成者は同人物とのことである。
 ウィルスに関する初事案である2008年の事件では、ウィルスに感染するとテレビアニメの一画面等が現れ、ハードディスク内の既存のデータが消去されるというウィルスを作成していた。感染した際にディスプレイに表示されるアニメが著作者の許諾を得ていなかったことから、著作権法違反で起訴され、有罪判決を受けているとのことである。


 今回、同人はイカタコウィルスを作成するにあたり、第三者の著作物を利用する形態は避け、ウィルス感染後にディスプレイ上に映し出される絵を自作のイカタコなどの絵としたものである。その結果、今回は前回の起訴のように著作権法違反では起訴できなかった。
 今回の事件では、東京地検は「器物損壊罪」で同人を起訴としている。一度イカタコウィルスに感染すると、新たにハードディスクにデータを書き込んでも、データはイカタコに変更され、実質的にハードディスクが使用不可能になる点にあることを理由としている模様である。
 器物損壊罪(刑法261条)は「他人の物を破壊し、又は傷害」したことを必要とする。ここで規定される「損壊」とは、判例上「物質的に物の全部、一部を害し、又は物の本来の効用を失わしめる行為」とされている。今回はハードディスク自体を物理的に損壊したものではないが、ウィルスに感染するとデータがイカタコに変更されてしまい、ハードディスクの本来の効用を失わせていることをもって、「損壊」を観念していると考えられる。


【ウィルス作成と電子計算機破壊等業務妨害罪】

 現行法上、ウィルスに関連している刑法規定としては、刑法234条の2「電子計算機損壊等業務妨害罪」などがある。この罪は、パソコンなどの電子計算機などに不正な指令を与える、つまりウィルスなどを送付し感染させて異常な動作などを引き起こさせ、業務を妨害した場合などを処罰の対象として予定している。本罪の成立には「業務」を妨害したことを必要としているが、同罪は業務妨害罪の加重規定とされていることから、その業務性も比較的大規模なものが想定されている。下級審判決においても、パチンコ遊技台に組み込まれたロムは機械的制御作用があるにすぎず、制御の及ぶ範囲も当該パチンコ遊技台にとどまるとして、本罪の「業務に使用する電子計算機」には該当しないとしたものもある(福岡高裁平成12年9月21日、判時1731号131頁)。
 今回も、個人が被害者であることから同罪を構成するのは難しいとの判断があったのではないかと考える。


【ウィルス作成罪】

 業務妨害罪にせよ、今回初めてウィルスに適用された器物損壊罪にせよ、ウィルスに感染した結果として物が損壊されたことや、業務が妨害するに足りる行為がなされることが必要となる。このため、ウィルスを作成すること自体やウィルスを投与することだけでは処罰の対象とすることはできない。しかし、コンピュータは現代社会においては極めて重要な役割を担っており、ウィルスの作成・投与はそれ自体で十分にコンピュータ・プログラムの信用性を害する行為であり、処罰の必要性が高いと言えよう。


 このような法の不備に対応すべく、ウィルス作成それ自体を処罰するためのウィルス作成罪の制定を試みる動きは、すでに平成15年ころからあった。平成22年には、現行刑法の改正案として、ウィルス作成罪を含めた刑法改正案が国会に提出されている。この法律案では、「人の電子計算機における実行の用に供する目的で」「人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又は意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録」を作成したこと、つまりウィルスを作成したことや実際にウィルスを「実行の用に供した」ことに対して、「3年以下の懲役又は50万円以下の罰金」を科すことができるとされている。また、同様の目的をもった上で「電子的記録その他の記録を取得し、又は保管した者」に対しても、「2年以下の懲役または30万円以下の罰金」を科することができるとされている。


 この点、コンピュータのセキュリティをチェックするためのプログラムを作成・提供するなどの行為は、「人の電子的計算機における実行の用に供する目的」を欠くことになるだろう。また、感染したにすぎない者も同様に目的を欠いているといえる。したがって、これら行為は処罰の対象とはならない。
 提出された刑法改正案は、ウィルス作成罪のみならず、共謀罪など刑法上の議論が多い条文も含まれており、成立を見ていない。現在、ウィルス作成罪を他の刑法の改正から分離して提出するという動きもあるようである。
 今回のイカタコウィルス被害においても、被害相談や被害届が遅れ被害が拡大した模様である。今回のような被害の拡大を阻止するためにも、ウィルス作成の段階で処罰の対象とするウィルス作成罪等の早期成立が望まれると言えよう。


 本稿執筆後の平成23年6月、「情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律」が成立し、刑法犯として、いわゆるウイルス作成罪(刑法168条の2)が設けられました。改正法は同年7月から施行されています。
 同罪に該当する場合、「3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」とされています。


氏名:森山裕紀子

弁護士登録年・弁護士会:
2008年弁護士登録、第二東京弁護士会所属

学歴:
1998年 明治学院大学法学部卒業、2000年 横浜国立大学大学院国際経済法学研究科修了(国際経済法学修士)、2003年 大宮法科大学院大学法務研究科法務専攻修了(法務博士・専門職)

経歴:
2008年 大宮法科大学院大学非常勤講師(至現在)

得意分野等:
IT法、個人情報保護法、企業法務、一般民事他

所属事務所:
法律事務所フロンティア・ロー http://frontier-omiya.jp/index.html

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