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従業員の電子メールの閲覧・監視とプライバシー権

テーマ:労務一般

2004年9月 9日

解説者

弁護士 土谷喜輝

最近は、職場で従業員が電子メールを利用するのが一般的になっており、個々の従業員にメールアドレスを与えている企業も増えています。電子メールは、企業の効率的な業務運営に不可欠となってきている反面、従業員が職場の電子メールを私的に利用したり、あるいは、会社情報を外部へ流すという不正行為に用いたりするケースも発生しています。企業としては、従業員の電子メールを閲覧・監視したいと感じることもあり、現に、実行しているところも少なくありません。しかし、会社に与えられたメールアドレスであったとしても、これを勝手に閲覧することは従業員のプライバシー権を侵害するのではないかが問題となります。


F社Z事業部事件(i)

上司(被告)からセクハラ行為などを受けていた部下(原告)が、これを告発しようとして、そのような内容の電子メールを社外の者に送っていたところ、被告が原告の電子メールを監視し続けていたという事案について、従業員の電子メールを閲覧することの当否が争われた日本における初めての訴訟です。裁判所は、まず、「社員による電子メールの私的利用の禁止が徹底されたこともないような会社においては、職務の妨げにならず、会社の経済的負担も極めて軽微なものである場合には、社員による電子メールの私的利用も必要かつ合理的な限度の範囲内において社会通念上許容されている」と判示しました。しかし、「電子メールは、社内ネットワークシステムのサーバーコンピュータや端末内に記録されるものであることから、通常の電話装置の場合と全く同程度のプライバシー保護を期待することはできず、当該システムの具体的状況に応じた合理的な範囲内での保護を期待しうるに止まる」として、電子メールを私的に利用する場合のプライバシー保護の範囲は、通常の電話よりも相当低減されると判断しました。そして、「監視目的、手段およびその態様等を総合考慮し、監視される側に生じた不利益を比較衡量の上、社会通念上相当な範囲を逸脱した監視がなされた場合に限り、プライバシー権の侵害となる」という基準をたて、本件における被告のメール閲覧行為は、相当な範囲であると結論づけました。


いくら会社における上司であるとはいえ、自己のセクハラ行為が問題となっている場合に、その上司が電子メールを閲覧することが社会通念上相当であるといえるのかという疑問は残る判決です。しかし、企業側の必要性や手段の相当性と従業員のプライバシー権との比較衡量という基準は、参考になると思われます。


日経クイック情報事件(ii)

ある社員に誹謗中傷メールが送られてきた事件を調査する過程で特定の社員(原告)の電子メールを閲覧・調査したとして、原告が不法行為に基づき損害賠償を請求した事案です。裁判所は、「企業は、企業秩序違反行為に対応するため必要な命令や事実関係の調査をすることができるが、その命令や調査も、企業の円滑な運営上必要かつ合理的なものでなければならない」とした上で、会社が行った従業員のメールの閲覧は、相当な範囲内であると結論づけました。本件も、上記F社事件と同様、従業員の電子メールの監視・調査を認める社内規程は無いにも拘らず、会社に、相当な範囲内でこのような監視・調査権限があることを認めています。
また、本判決は、「私用メールは、送信者が文書を考え作成し送信することにより、送信者がその間、職務専念義務に違反している」とも判示していますが、業務に支障なく私用メールがなされることも現実としてはあり、全ての私用メールが職務専念義務に違反するとする点には、異論を唱える声もあります。


米国の状況

米国では、電子通信プライバシー法(Electronic Communication Privacy Act、通称「ECPA」(iii) )が電子メールなどの電子通信を傍受することを禁止しています。しかし、雇用主がその通常の業務において自己の権利や財産を保護する場合などには、例外的に、企業による従業員の電子メール監視も許されています。
また、米国の企業は、「企業のパソコンや電子メールは企業の所有物であり、私的に利用することは許されず、また、企業はその電子メールを監視することができる」という趣旨の社内規程をおいているところが多く、このような規程があれば、企業による従業員の電子メールの閲覧も許されるとする裁判例がいくつか出されています。(iv)


企業として行うべき対策

従業員が予め同意したからといって、そのプライバシー権を完全に奪うことができるのかについては問題がありますが、少なくとも、事前に会社に閲覧されるかもしれないと知っていれば、プライバシーの期待は低くなるでしょうから、上記のような社内規程を策定した方がよいでしょう。また、どのような場合に、どのような方法で、誰が閲覧できるのかということも規定しておくことにより、閲覧の手段の相当性も担保しておくべきでしょう。


(i) 東京地判平13.12.3労判826号76頁
(ii) 東京地判平14.2.26労判825号50頁
(iii)http://caselaw.lp.findlaw.com/casecode/uscodes/18/parts/i/chapters/119/toc.html
(iv) 例えば、Nancy K. Garrity v. John Hancock Mutual Life Ins. Co. Civ. Act. No. 00-12143-RWZ (D. Mass., May 7, 2002)


土谷喜輝
ニューヨーク州法曹資格

主要著書
 『個人情報保護法Q&A』
  <部分執筆> (中央経済社 2001)
 『インターネットをめぐる米国判例・法律100選<改訂版>』
  <共著>(ジェトロ 2001)
 『ビジネスマンのためのインターネット法律事典』
  <部分執筆> (日経BP社 2001)
 『米国弁護士によるビジネスモデル特許事例詳説』(ジェトロ 2000) 等

このコンテンツは「法律情報メールマガジンLIMM」より提供されております
e-hoki.com LIMMにおける掲載時点(2003年4月6日掲載分)での執筆物であるため、その後の法改正等により、情報が古くなっている場合も、あり得ます。

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