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物のパブリシティー権

テーマ:著作権

2004年9月 2日

解説者

弁護士 小川義龍

「パブリシティー権」とは、著名人の氏名や肖像などを第三者に使用されない権利をいい、米国の判例から始まってわが国でも裁判例や学説によって認められてきた権利をいいます。このパブリシティー権の本質については議論途上ということができ、定説はありませんが、一般的には肖像権やプライバシー権に由来する人格権の側面を持つと考えられています。すなわち、著名人は、社会的に著名であるがゆえにその氏名や肖像は顧客吸引力を有するようになり、一個の独立した経済的価値をもつようになると考えられ、正当な理由なく第三者に使用されない保護が要請されることになります。そして、この経済的価値は、氏名や肖像という人格的属性に対して生じるものであるため、経済的な権利でありながら人格権としての側面も持ち、無断使用に対しては損害賠償の他、差止請求も認められると理解されています。


ところで、パブリシティー権の保護の由来を考えると、顧客吸引力に行き着くとするのが判例や学説の大勢です。プライバシー権は、みだりに私生活を覗かれたり公開されない権利と考えられ、憲法上の個人の尊厳や幸福追求権という基本的人権に由来するとされています。タレントやプロスポーツ選手なども私生活の側面ではプライバシー権があることは当然です。ところが、タレントやプロスポーツ選手は自己の名前や肖像が有名になることで職業としての成功につながり、経済的対価の獲得にもつながることになります。そこで、芸能人等はその職業ゆえに氏名や肖像が有名となることを望むものであり、その利用は利用方法、態様によって社会的評価の低下をもたらすものでない限り社会的に許容され、プライバシーの侵害とはならないと考えられます。反面、芸能人等の氏名や肖像は商品に付されたり宣伝広告に利用された場合に顧客吸引力を持つことになり、それゆえに経済的価値をもつようになるのであって、芸能人等はこの経済的価値をみだりに第三者に使用されない権利を有するものであり、これがパブリシティー権であるといわれています。つまり、経済的権利としてのパブリシティー権の源泉は氏名や肖像の顧客吸引力にあるということになるわけです。


そこで、次の問題が生じます。それは、顧客吸引力が保護の源泉であるのなら、芸能人等の人間に限られず、物の名前でも著名となれば顧客吸引力を有するのであって、物にもパブリシティー権が認められるべきであるという議論です。競走馬の名前のパブリシティー権について本年2月13日に出された最高裁判所判決(※)は正にこの点が争点となったものです。著名な競走馬の名前を馬の所有者に無断でゲームソフトに登場する競走馬の名前として使用できるかということが争点となったこの事件では、名古屋地裁と高裁が馬の名前にパブリシティーの権利を認め、東京地裁と高裁がこれを否定するという相反する判断がなされていました。最高裁は、物の所有権は物の名称等の無体物の面を直接排他的に支配する権能に及ばないと判断し、物に対するパブリシティーの権利を否定しました。


物に対するパブリシティーの権利を認めることは所有権を根拠にする限りは難しいと思われます。所有権は有体物を支配する権利で、名称は所有権の及ばない無体物だからです。また、パブリシティーがプライバシー同様に人格権に由来すると考えた場合にも物のパブリシティーは無理があります。しかし、顧客吸引力という観点からは物の名称でも人間の名前でも差異はありません。情報という無体物の経済的価値の増大に伴い物のパブリシティーに類似する問題は様々な事象として現れ、裁判例も増加しています。何らかの立法的解決が必要なのかもしれません。


(※)
平成16年2月13日 第二小法廷判決 平成13年(受)第866号,867号 製作販売差止等請求控訴,同附帯控訴事件


小川憲久
役職
(財)ソフトウェア情報センター 主任研究員
法とコンピュータ学会 理事
   東京工業大学非常勤講師(1998-2002)等

このコンテンツは「法律情報メールマガジンLIMM」より提供されております
e-hoki.com LIMMにおける掲載時点(2003年3月26日掲載分)での執筆物であるため、その後の法改正等により、情報が古くなっている場合も、あり得ます。

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