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債権回収のノウハウ(2)

テーマ:契約・取引

2004年8月26日

解説者

弁護士 小川義龍

1、担保の取り方

債権回収のノウハウ第2回目である。
相手先から売掛金などの支払いが焦げ付いて、どうやら直ちに満額の支払いはしてもらえない場合に、大抵の方は、「支払いに代わる何か」を取ることをお考えになるだろう。これを広い意味で担保という。
本来であれば担保は、契約の前に取っておくべきものだ。例えば、銀行から高額の事業資金融資を受ける際に、無担保で貸し付けてくれることはまずあるまい。大抵が、不動産であるとか保証人といった担保を事前要求されるはずだ。しかし、銀行と違って、日常商取引を行っているものにとって、日々生起するあわただしい商取引でいちいち担保を要求することは不可能に近い。そもそも契約書自体が作成されないことも多いだろう。
とはいえ、高額かつ継続的取引にわたって、相手の与信評価も困難であるような場合には、予め担保を要求する努力はすべきだ。少なくとも、会社(法人)と取引をする場合に、その会社の代表者の個人保証(連帯保証)を盛り込んだ基本契約書くらいは作っておきたい。
しかしそのような取引ではなく予め担保が取れなかったとしても、売掛金の支払いが焦げ付きそうな異常事態において、支払いを猶予する代わりに担保をよこせと要求することは、こちらとしては当然の行動であるし、そうであるからこそ、相手としても仕方がないこととして受け入れられやすい。黙って支払いを猶予することは、よほど相手に親切心を持てる場合でない限り事業者としては回避したい。


2、完璧な契約書は担保になるか。

そこで支払いが焦げ付いて担保を要求しようと言う時点で、念書や契約書などの書類を取り交わすことが担保になるだろうか。これまでしっかりした契約書をかわしていなかったような場合に、なんとなく書類がないことに不安を覚えて、書面の差し入れを求めようとする経営者は多い。
一般論として、こういった書面を改めて作成して差し入れてもらうこと自体は、別に構わないし、もちろん無いよりはマシだ。しかし、それで安心するのは全く早計だ。
以前、契約というのは口頭の合意で成立するもので、契約書の存在自体は一つの証拠にすぎないという話をさせていただいた。したがって、取引当初に作成するような契約書を、この期に及んで改めて作ったとしても余り意味がない。なぜなら契約の存在自体は相手も認めるところであろうし、その内容の重要な要素は、取引の実態(注文書、請け書、帳簿、入出金履歴等)から容易に推測できる。契約書などなくてもどうにかなるのだ。
だから、相手に実印を押してもらって印鑑証明書を付けてもらって、そういう完璧な契約書を改めて作っても担保としては余り意味がなく、全く安心できない。


3、物的担保と人的担保

要するに有効な担保といえるものは、一般的に言えば、不動産などに抵当権設定すること(=物的担保)と、保証人を付けてもらうこと(=人的担保)になる。
ただ、売掛金を焦げ付かせるような事業者は、大抵金融機関から事業資金融資を受けており、この時に所有不動産に抵当権ないし根抵当権を設定してしまっていることが圧倒的に多い。物的担保は、相手が不動産を所有している限り、別に金融機関が先に担保に取っていたとしても追加設定できないものではない。しかし、物的担保は、設定した日時の順番に(正確に言えば、不動産登記の順序)、その物の価値から債権を先取りできる担保だから、俗にオーバーローンになっているような不動産に追加担保を設定しても、実際の回収にはならないことが多い。
そこで実際には、保証人の追加をお願いするという人的担保を要求することが多くなってくるはずだ。この場合、保証人の頭数はさほど重要ではない。評価すべきは、保証人の資力だ。年金生活者である社長の母親を保証人に追加したいという申し出があっても、軽々にそれで安心すべきではない。年金は法律上差押禁止資産だから、社長の母親が年金収入以外に何も資産がなければ、保証人がいないのに等しいからだ。やはり、実際に労働収入や事業収入のある者や、固定収入はなくとも不動産などの手堅い資産を無担保に近い状況で有している者を保証人にすべきだ。少なくとも、会社との取引であれば、資産状況にかかわらず、社長の個人保証は取っておくに越したことはない。


4、現実的な担保はないのか?

とはいえ、物的担保はとれない、人的担保といっても危ない会社の保証人になってくれそうなのはそれこそ年金受給の母親程度というのが実態だろう。担保を取りたくてもとれないという場面は極めて多いと思われる。
それでも次のような工夫はしておくべきだろう。
まず、手形や小切手などを振り出している会社が相手なら、これらを振り出してもらう。これは新ためてアイデアとして伝授することでもなく、普通に行われていることだろう。契約書はそれに従わなくても、商売上のペナルティはないが、手形や小切手に従って支払いをしないと、不渡処分という大きなペナルティが待っている。相手先としても、契約書だけの会社と、手形や小切手を振り出している会社と、どちらを優先して払いたいかというと、後者であろう。この時、手形の場合は、満期日の記載が必要であるから、いつでも差し入れることはできない(満期日までに割引に出そうにも、そのような会社振り出しのものを無担保で割り引いてくれる業者はいないだろう)。そこで、振出日白地の小切手を受け取っておくというのも一つの方法だ。危なくなったら、振出日を埋めて取立に回してしまえばよい。実際、そのような取立をしてもただ不渡りになるだけの話が殆どで実回収は期待できないが、そのような小切手を相手に渡していると言うだけで、相手先は精神的に優先して何とかしようと言う意識になろう。
次に、手形や小切手などを振り出していない会社の場合は、取立委任や債権譲渡を受けるという方法がある。生きている会社である以上、相手先は相手先で、第三者に対する売掛金などの債権を持っているはずだ。これを取得してしまうわけだ。その第三者に対する内容証明郵便一本でこの手続はできるから、検討に値する。ただ、相手先の第三者に対する手前もあるため、なかなかこれは難しいだろう。
最後に、公正証書を作成するという方法がある。契約内容を公証人役場で公正証書にしておくだけだ。これがタダの契約書とどう違うのかというと、いざという時に、裁判を省いて直ちに強制執行することができる。公正証書の意味についてはいずれ詳しくお話しすることにしよう。


5、いずれにせよ決算書は取得すべし

相手先の会社の支払猶予をする際に、有効な担保が取れなければ、少なくとも相手先の会社の直近の決算書(附属明細書類が付いた税務申告用の決算書類一式)のコピーはもらっておきたい。
なかなか相手先も出さないだろうが、ご承知のとおり、税務申告用決算書類の中には、相手先の具体的な資産や売り掛け先が記載されている。多くは過去のデータであり、粉飾であったり過少であったりという不正確さもありうるものの、基本的な情報には満ちている。
担保は取れなくとも、手がかりくらいは確保しておくと、打つ手が見えてくることもあるのだ。


小川義龍
昭和39年生  東京都出身
東京都千代田区立番町小、同区立麹町中卒
早稲田大学高等学院卒(昭和58年)
早稲田大学法学部卒(昭和62年)
司法試験合格(平成3年)
最高裁判所 司法研修所 46期修了
弁護士登録(東京弁護士会所属)

東京弁護士会
常議員(平成7年度)
広報室 嘱託(平成13年度〜)
広報委員会 副委員長(平成9、10年度)
広告調査委員会 副委員長(平成13年度)
インターネット協議会 副議長(平成9年度)
業務改革委員会 コンピュータ部会長(平成12年度〜)
司法修習委員会、財務委員会、刑事弁護委員会 各委員
法友全期会副代表幹事(平成14年度)
春秋会(法友8部)事務局長(平成15年度)

 東京商工会議所 法律相談員(平成9年度・荒川支部)
 東京弁護士会 クレサラ・商工ローン闇金相談担当(四谷・神田センター)
 財団法人クレジットカウンセリング協会 カウンセラー(平成11年度〜)
 財団法人法律扶助協会新宿支部審査員(平成12年度〜)
 日本弁護士連合会 法務研究財団事務局(情報部会担当)
 早稲田経営学院(Wセミナー)専任講師(刑事訴訟法)
 日本刑事政策研究会(法務省)正会員
 東京弁護士会インターネット法律研究部部会員

著書・講演等
 「法律事務所のためのパソコン導入大作戦」(株式会社トール刊)
 「弁護士のための広告のススメ」(株式会社トール刊)
 「弁護士のためのパソコン導入ガイド」(東京弁護士会法友会刊)
 「パソコン事件簿」(月刊DOS/V Special連載・毎日コミュニケーションズ)
 「最新現代法務全集」第4巻・債権回収(全日法規研究室)
 「困ったときにすぐわかる 内容証明の書き方・出し方」(OS出版)
 「困ったときにすぐわかる インターネットの法律(仮題)」(近刊予定)
 「中小企業のための倒産回避マニュアル(仮題)」(近刊予定)

 「破産と会社更生手続の概要」
   ※厚生労働省 労働研修所での講義(平成14年度より)
 「法律の基礎」 「コンプライアンス」 「借地借家法」 「インターネット法務」
   ※いずれも大手上場企業での定期公演
 「若者の破産」 「非弁提携弁護士被害」その他
   ※フジTV「スーパーニュース」出演

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