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公益通報者保護法

テーマ:企業統制・リスク管理

2005年1月13日

解説者

弁護士 松村昌人

平成16年6月18日、公益通報者保護法(平成16年法律第122号。以下、保護法)が公布されました。同法は、私企業に全面適用されますので(保護法第2条。保護法第7条で公務員関係を除外)、企業としては、同法の施行日までに、同法への対応(企業内通報制度の構築、社内教育、不当外部告発を抑制するための対策整備、就業規則の改訂等)を進める必要があります。同法は、公布後2年内に施行予定です(保護法附則第1条)。


第1、保護法の概要

保護法では、「公益通報をした労働者」(保護法第2条第2項)が「通報対象事実」(保護法第2条第3項)が生じ、又はまさに生じようとしている旨を、労務提供先等、行政機関、その他第三者に対しておこなうことを、保護しており(保護法第3条ないし第5条)、具体的には、かかる公益通報者を解雇しても無効となり(保護法第3条及び第4条)、不利益取扱をすることをも禁止しています(保護法第5条)。保護要件の詳細は、以下のとおりです。


1、対象企業
事業者(法人その他の団体及び事業をおこなう個人)は、労務提供先として保護法の規制対象となります。具体的には、当該労働者を自ら使用している事業者(保護法第2条第1項第1号)、労働者派遣の提供を受ける事業者(保護法第2条第1項第2号)、請負元事業者(保護法第2条第1項第3号)が対象となります。


2、通報対象事実
労務提供先(事業に従事する役員、従業員、代理人等を含む)に、所定の通報対象事実が生じているか又はまさに生じようとしている旨を通報することは、公益通報として保護の対象となります(保護法第2条第1項柱書、保護法第3条以下)。通報対象事実としては、刑法、食品衛生法等に規定されている犯罪事実等が含まれています(保護法第2条第3項、別表)。


3、公益目的
公益通報といえるためには、「不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的」でないことが必要です(保護法第2条第1項)。


4、通報先
通報先については、労務提供先等(当該企業、当該企業指定の弁護士等の外部者)、行政機関、第三者(消費者団体、マスコミ等)が、保護法2条では挙げられています。但し、保護法は、労務提供先等を第1次的な通報先としており、行政機関や第三者に対する通報が保護されるためには、一定の要件を加重しています。


第2、企業の対応措置

1、法令遵守
法令遵守(コンプライアンス)は、企業が安定的に営業活動を継続するうえで、重要な条件となりつつあります。特に、商流上、一般消費者に近い業態に位置する企業にとっては、保護法に規定されるような通報対象事実(個人の生命又は身体への危険、消費者利益や環境保全に対する侵害)が大規模に発生し、かつ、それが隠蔽されていたような場合には、急激な売上の落ち込みを発生させ、企業の存続自体を危うくさせることが、近時の実例でも証明されています。企業ぐるみや経営陣主導で、かかる違法な事態を発生させていた場合は論外ですが、企業の一部門やグループ子会社が、短期的利益を優先するため違法行為に及んで、結果的に、企業全体やグループ全体に大きな危害を与えることは、あり得るところです。したがって、公益通報者保護の対象となるような通報対象事実が、そもそも発生しないように、日頃から法令遵守のための仕組みを、企業内で機能させておくことが重要となります。法令遵守を社是とすることは、通報制度を構築することによって、社内に疑心暗鬼の状態が生まれて事務効率が落ちることを防止するという点でも、重要です。


2、企業内通報の奨励
仮に、企業の一部門において、公益通報者保護の対象となるような通報対象事実が生じた場合であっても、それを経営陣が速やかに発見することで、違法行為を惹起している部門の職員活動を是正させ、企業に与える損失を最小限に抑えることが可能となります。このためには、社内の査察系部門にのみ依拠するのではなく、現業部門の個々の職員の申告を活用することが効果的です。保護法上も、職員が通報対象事実を通報する場合でも、その通報先については、第1次的には、労務提供先等としています。すなわち、「通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると思料する場合」という程度の確度の比較的低い段階であっても、労務提供先等に対する通報を保護対象としています。
これに対して、行政機関に対する公益通報については、通報の保護要件として、「...信ずるに足りる相当の理由がある場合」との要件を加重しており、一定の根拠を要求しています。第三者に対する公益通報については、更に要件を加重しています。具体的には、当該第三者への通報が通報対象事実の発生・被害拡大防止のために必要であること(保護法第2条第1項柱書)、当該第三者が労務提供先と競争関係にないこと(保護法第2条第1項柱書)、労務提供先等や行政機関に対する通報では功を奏しないこと(保護法第3条第3号イ乃至ホ)といった要件を、対第三者公益通報には要求しています。
安易な外部への通報は、企業全体の損失を拡大する場合もありますので、企業としては、できるだけ企業内通報を奨励することになるでしょう。このためには、証拠が整っていない段階であっても積極的に公益通報を受け付けて社内調査に乗り出す用意があること、外部への通報には上記のとおり法律上一定の要件が必要となること等について、社内規則を整備し、セミナーを開催する等して、社内で周知しておく必要があるでしょう。もっとも、企業内通報を奨励することが、行政機関に通報しないよう正当な理由なく要求していると判断されると、かえって、第三者への通報要件を充足する可能性がありますので(保護法第3条第3号ハ)、注意が必要です。


3、迅速な調査と回答
通報を受けた後に、調査が遅滞していると、通報対象事実を発生させた部門における証拠散逸が進んだり、通報対象事実に起因する被害が拡大する可能性があります。また、通報対象事実が存在しないような場合には、調査の結果、問題がないことが確認された旨を早期に明らかにするすることで問題とされた当該部門の志気を維持する必要があります。法律上も、是正措置をとったときはその旨を、通報対象事実がないときはその旨を、当該公益通報者に対して、遅滞なく通知する努力義務が課せられています(保護法第9条)。また、書面による労務提供先通報をした日から20日を経過しても、当該通報対象事実について、当該労務提供先等から調査を行う旨の通知がない場合や、正当な理由なく調査をおこなわない場合には、対第三者公益通報を誘発する可能性があります(保護法第3条第3号ニ)。対第三者公益通報がなされると、企業の是正対応コストは急激に上昇し、他部門の業績に対しても悪影響が出る可能性があります。そこで、企業としては、通報を受けた場合に、迅速に調査、回答をおこない得るような体制をあらかじめ整えておく必要があるでしょう。


4、握りつぶしはしない
調査の結果、通報対象事実があることが実際に確認された場合には、速やかに是正措置を講ずるべきです。万が一、経営陣が特定部門の不祥事の報告を受けていたにもかかわらず、隠蔽工作をしたり、通報者を不利益に扱うような措置を採った場合には、当該問題が根本的には解決されないまま、将来、大きな被害を企業にもたらす可能性があります。また、一旦、通報対象事実の処理を不適正におこなってしまうと、その後は、いくら企業内通報を奨励しても、職員は、違法状態の是正に非協力的となるでしょうし、通報の相手方としても外部への通報を優先的に選択するようになるでしょう。法律上も、外部通報の要件である、「公益通報をすれば解雇その他の不利益な取扱いを受けると信ずるに足りる相当の理由がある場合」(保護法第3条第3号イ)、「公益通報をすれば当該通報対象事実に係る証拠が隠滅等されるおそれがあると信ずるに足りる相当な理由がある場合」(保護法第3条第3項ロ)に該当する一事情とされる可能性があります。


5、不当利用の抑制策
公益通報の形をとっていても、実際には、それが不当利用される場合もあり得ます。例えば、派閥争いの手段として用いられたり、上司に対する不満等が理由であったり、他の理由で退職を早晩余儀なくされる状態にある労働者が解雇を防止するため公益通報を行う場合等が考えられます。法律上は、公益通報の要件として、「不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的」でないことを要求していますので(保護法第2条第1項)、同要件に抵触すると思われる通報がないか、実際には確認作業が必要となる場合も多いと思われます。
また、労働者の単純な誤解に基づいて、外部通報要件がないにもかかわらず、外部通報をおこなったりすることも考えられます。このような単純な誤解に基づく外部通報問題については、企業内において内部通報を行いやすい環境を形成するとともに、外部通報制度の説明(外部通報は例外的要件を充足する必要があり、要件を満たさない外部通報は、就業規則に違反するばかりか、企業秘密の漏洩となり法令違反等を構成する場合もあること等)を定期的に行うなどして、従業員に認識を深めてもらうことが重要となるでしょう。


松村昌人
 第二東京弁護士会 倒産法制検討委員会委員(1999年4月〜)
 法律扶助協会相談登録弁護士(1999年10月〜)
 第二東京弁護士会 広報委員会委員(2000年4月〜)
 日弁連法務研究財団事務局員(2001年4月〜)
   
主要著書
 『民事再生法書式集[新版]』
  <共著>(二弁倒産法制検討委員会,信山社 2001)
 『ビジネスマンのための インターネット法律事典』
  <部分執筆> (日経BP社 2001年)
 『インターネット事件と犯罪をめぐる法律』
  <部分執筆>(オーム社 2000)
 『詳解民事再生法の実務』
  <部分執筆>(第一法規出版 2000)
 『法律業務のためのパソコン徹底活用BOOK』
  <部分執筆>(トール 1999)
 『債権管理回収モデル文例書式集』
  <部分執筆>(新日本法規出版 1996)    等

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e-hoki.com LIMMにおける掲載時点(2004年7月9日掲載分)での執筆物であるため、その後の法改正等により、情報が古くなっている場合も、あり得ます。

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