本文とサイドメニューへジャンプするためのナビゲーションスキップです。

トップページ  >  経営をよくする  >  法律コラム

特集一覧 中小企業に役立つ記事や施策をトピックスごとにまとめています。

裁判に勝つことと取れること

テーマ:契約・取引

2005年1月20日

解説者

弁護士 小川義龍

1,勝てるとか勝てないとか・・・

ありがちな法律相談の一つに、お金の請求問題がある。
ある会社と取引をしたのだが、支払期日を過ぎても売掛金の入金がない。どうしたらいいだろうか、というような相談だ。
大抵の社長が、まずは取引先の不誠実さをまくしたてる。もっともなことだろう。こちらの商品なりサービスなりを文句なく受け取るだけ受け取っておきながらお金を支払わないわけだから、頭にも来るはずだ。ひととおりまくしたてて多少冷静を取り戻した社長が次に何を話すかというと、おもむろに契約書だとか納品書の類を机の上に並べて、「先生、これで勝てるでしょうか?」と尋ねてくる。何に勝てるかというと、もちろん裁判に、ということだ。
なかなか支払われない売掛金の請求であろうとなんであろうと、およそお金が支払われない場合に、これを最終的に実現する方法は裁判を経るしかない。だから、請求書を何度繰り出しても応じない相手に対して、裁判をしたいと考えて弁護士のところに相談に赴き、「勝てるかどうか」を尋ねるのは間違っていない。
しかし、この「勝てますか?」の問いに対して、私はこんな風に答える。
「社長、勝てるとか勝てないとかはあとで考えましょう。」


2,大切なのは、取れるか取れないか

目の前に並べた書類を弁護士が鑑定人よろしく天眼鏡こそ出さないものの精査して裁判に勝てるかどうかを判じてくれると思って相談に来た社長としては、勝てるかどうかはとりあえずはどうでもいいというような弁護士のコメントを聞くと、一瞬不満そうな顔をする。
もちろん勝てない裁判をやっても仕方がないから、勝てるかどうかは重要であることは間違いがない。しかし、弁護士的には勝てるかどうか以前にもっと大事な判断事項があるのだ。
それは、裁判に勝ったら「取れるかどうか」だ。
実は、一般の人が裁判に勝つことで抱いているイメージと、実際の裁判に勝った結果とは食い違いがある。一般に、裁判に勝つと(勝訴判決)、そこで言い渡されたお金が自動的に振り込まれてくるとイメージされているのではないか。裁判所が厳かに宣告して威厳たっぷりに「判決書」とのタイトルで「被告は、原告に、金1000万円を支払え」などと命令口調で記載された書類が渡されるわけだから、勝てばこっちのものとは思っていないだろうか。
しかし実際は違う。判決に従わない人など世の中には腐るほど居るのだ。裁判所が「支払え」などと命令口調で宣告した判決に、一介の市民が従わないとどんなことになるのか。一般の人は、「なにかとんでもないことがおこるのではないか、場合によっては刑務所にでも入れられてしまうかも・・・」とか、「いや、払わない人に対しては、裁判所が取り立ててくれるのだ・」とか思っているに違いない。ところが、裁判所に支払いを命令された相手が、それに全く従わなかった場合には、そのままでは実はなにもおこらない。払わない相手が罰を受けるわけでもなく、裁判所が積極的に取り立ててくれることもない。裁判所は、いわば判決で命令しっぱなしで、あとのことは全く無関心でなにもしないのだ。
それでは裁判に勝つ意味がないと思われるだろう。そのとおり。勝っただけでは意味がないのだ。勝っただけでは絵に描いた餅に等しい。そこで、勝訴判決に従わない相手に対して、判決の内容どおりのお金を実際に獲得するための手続を「裁判の次に」行ってゆかなくてはならない。
それが「強制執行」という手続だ。これも裁判所が関与する法的手続きの一つだ。


3,強制執行は、相手の資産を個別具体的に特定しなければならない

裁判に勝っても相手が支払ってこないときは、そのままでは裁判所は取立も何もしてくれないが、こちらが改めて勝訴判決に基づいて「強制執行」手続の申立をすれば、いわば重い腰を持ち上げてくれる。相手から現ナマを獲得するには、まず第1ステップとして裁判に勝って勝訴判決をもらい、第2ステップとして強制執行の申立をして回収を試みる、こういう二段階を踏む必要があると覚えておいて欲しい。
こうしてみると、なんだか面倒くさそうでよくわからないけれども、結局のところ、裁判に勝てば裁判所が取り立ててくれるようだとお考えになったとしたら、それは早計だ。
実は、この第2ステップとしての「強制執行」の申立が意外とハードルが高いのだ。申立の手続が難しいという意味でのハードルの高さではない。申立の手続は、簡単だ。訴訟は弁護士に依頼するのが正解だが、強制執行の申立は弁護士に依頼しなくてもやろうとおもえば可能だ。
問題は、「相手の資産を個別具体的に特定する」ことの難しさだ。
強制執行の申立をするためには、単に「裁判に勝ちました。でも相手は払ってくれません。何とかして下さい。」という申立ではダメだ。「裁判に勝ちました。でも相手は払ってくれません。<こちらの調査によれば相手にはどこそこにこういう財産があります。>だから何とかして下さい。」と、こんな感じの申立でないと、そもそも裁判所が受け付けてくれないのだ。
ここでいう相手の財産とは、不動産であったり、預貯金であったり、売掛金であったり、こういう財産のことだ。そして例えば、相手には「預貯金があるはずだ」ではダメで、「○○銀行○○支店にある預貯金」という具合に、支店名まで特定して相手の取引銀行を特定して申し立てる必要がある。
ここまで相手の財産を特定するのは、一見簡単そうに見えて実は難しい。相手の決算書などが入手できていれば手がかりもあろうが、取引の過程で相手の決算書などを入手できていることなど希だろう。弁護士に調査依頼をしても、弁護士に他人の財産の調査権限も能力も乏しい。裁判所に相手の財産を調査してくれと希望を出すこともできない。結局、こちら側で、素人なりに素朴に調査した結果、相手の財産が特定できれば強制執行の申立ができるのだ。


4,相手の財産が特定できないと勝つ意味がないことも

こうしてみると、裁判に勝っても、相手の財産が特定できなければ裁判所に強制執行の申立ができないことになるから、裁判をする意味自体が乏しいケースが出てくる。
だから我々弁護士は、お金の回収に関して裁判にしてくれと相談された場合には、勝てるかどうかよりも、相手の財産が特定されているかどうかにまず注目することになる。「あるはずだ」と社長が話してくれても、「あるはずなだけではダメですよ。具体的にどんな財産があるのか今のうちによく見極めた上で駒を進めましょう」とアドバイスすることになる。或いは、「当面のお金はなさそうだ」と社長が話してくれた場合には、「キャッシュはなくても、売掛金とかそういう債権は特定できますか。もしキャッシュだけが資産ではありませんから。でもそう考えてみてなお、何も相手に資産がなければ、裁判に勝っても回収することは当分無理ですね。直ちに回収できなくても勝つだけのために時間と経費をか けて裁判をやりますか。」と聞くことにしている。


5,当面相手に資産がないために裁判にする意味がないと言われても

今回は、裁判に「勝つこと」と現実に「回収できること」は別だということを理解して頂きたい。
とはいえ、裁判に勝つことそのものに意味があるケースもある。経済合理性はなくとも感情を満足させたいとか、税務上貸し倒れ消却したいとか、将来の執行可能生にかけてみたいとか、訴訟上和解に期待したいとか、裁判そのものが意外と効能は多く持っている。或いは、既に取引先と公正証書を交わしているという場合には裁判に勝つこと自体が不必要だし、相手に資産があっても相手がこれを費消してしまう可能性がある場合にはすかさず仮処分手続というプレ裁判を起こしておかないといけない場合もある。
いずれにせよ、弁護士など専門家に速やかに相談するのが一番だが、その際には、今回お話ししたことを念頭に置いておかれるとよろしかろう。


小川義龍
昭和39年生  東京都出身
東京都千代田区立番町小、同区立麹町中卒
早稲田大学高等学院卒(昭和58年)
早稲田大学法学部卒(昭和62年)
司法試験合格(平成3年)
最高裁判所 司法研修所 46期修了
弁護士登録(東京弁護士会所属)

東京弁護士会
常議員(平成7年度)
広報室 嘱託(平成13年度〜)
広報委員会 副委員長(平成9、10年度)
広告調査委員会 副委員長(平成13年度)
インターネット協議会 副議長(平成9年度)
業務改革委員会 コンピュータ部会長(平成12年度〜)
司法修習委員会、財務委員会、刑事弁護委員会 各委員
法友全期会副代表幹事(平成14年度)
春秋会(法友8部)事務局長(平成15年度)

 東京商工会議所 法律相談員(平成9年度・荒川支部)
 東京弁護士会 クレサラ・商工ローン闇金相談担当(四谷・神田センター)
 財団法人クレジットカウンセリング協会 カウンセラー(平成11年度〜)
 財団法人法律扶助協会新宿支部審査員(平成12年度〜)
 日本弁護士連合会 法務研究財団事務局(情報部会担当)
 早稲田経営学院(Wセミナー)専任講師(刑事訴訟法)
 日本刑事政策研究会(法務省)正会員
 東京弁護士会インターネット法律研究部部会員

著書・講演等
 「法律事務所のためのパソコン導入大作戦」(株式会社トール刊)
 「弁護士のための広告のススメ」(株式会社トール刊)
 「弁護士のためのパソコン導入ガイド」(東京弁護士会法友会刊)
 「パソコン事件簿」(月刊DOS/V Special連載・毎日コミュニケーションズ)
 「最新現代法務全集」第4巻・債権回収(全日法規研究室)
 「困ったときにすぐわかる 内容証明の書き方・出し方」(OS出版)
 「困ったときにすぐわかる インターネットの法律(仮題)」(近刊予定)
 「中小企業のための倒産回避マニュアル(仮題)」(近刊予定)

 「破産と会社更生手続の概要」
   ※厚生労働省 労働研修所での講義(平成14年度より)
 「法律の基礎」 「コンプライアンス」 「借地借家法」 「インターネット法務」
   ※いずれも大手上場企業での定期公演
 「若者の破産」 「非弁提携弁護士被害」その他
   ※フジTV「スーパーニュース」出演

同テーマの記事を見る 3つのコンテンツから検索ができます!

このページの先頭へ

このページの先頭へ