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M&Aと税務(その1)

テーマ:事業承継・再生・廃業

2006年11月 2日

解説者

弁護士 南繁樹

一 M&Aと税務の関わり

本格的なM&A時代が到来しています。本稿執筆時点(2006年7月26日)においては、王子製紙による北越製紙に対する敵対的買収の可能性が報道されています。M&Aにおいては、多額の税金が発生するので、税務面での検討が必要不可欠です。
M&Aにおける税務は多岐にわたる検討が必要ですが、本稿では、重要な点に絞り、基本的な考え方を紹介します。なお、以下に示す計算は概算であり、実際には、さらに複雑な計算が必要です。


二  M&Aにおける課税の基本的な考え方

M&Aにおいて、最も影響が大きいのは、企業の売主のキャピタル・ゲインにかかる税金です。会社は、株主からの投資を元手として事業を行うことにより企業価値を高めるところ、企業買収の際には、それまでに蓄積された企業価値が金銭化されることにより所得が実現します。所得課税においては、経済的利得である所得に対して課税が行われるところ、M&Aは、まさに多額の所得が実現する課税機会となるのです。
M&Aにおける所得課税については、所得が実現する売主側において課税が発生するのが一般ですが、そのうち、<1>会社の所有者である株主において所得が実現する場合と、<2>会社において所得が実現する場合があります。
他方、買主側においても、買収のために支払った金額を「損金」にすることにより、どれだけ将来の税金を減らすことができるかが問題になります。
これらは、買収の取引形態によって異なりますので、取引形態に分けて検討します。


三  株式譲渡と課税

例えば、オーナー会社の100%株主から、全株式を取得することにより会社を買収する場合があります。株式譲渡は、事業譲渡に比べると手続が簡易であり、また、合併に比べると、ターゲット会社の偶発債務(例えば、潜在的な環境汚染による不法行為責任)について買主に直接に影響が及ばない点で安心です。
株式譲渡による買収の場合、株式の売却代金についての税金の検討が重要です。


1 売主である株主の課税
売主は、株式の売却価額から株式の取得費(帳簿価額)を控除した金額、すなわち株式の譲渡益(キャピタル・ゲイン)を得ています。この譲渡益が課税所得を構成します。例えば、オーナーが10億円を出資して設立した会社を100億円で売却した場合には、90億円の売却益が課税所得となります。個人の売主の場合には、90億円の株式譲渡益に対し20%(所得税15%・住民税5%)、すなわち、約18億円の税金が発生します( 所得税法 第33条、 租税特別措置法 第37条の10第1項、 地方税法 附則第35条の2第1項・第9項)。会社が売主の場合には、90億円に対し約40%、すなわち、約36億円の税金が発生します( 法人税法 第61条の2第1項、第66条第1項、 負担軽減措置法 第16条、地方税法第51条、第314条の6、第72条の24の7第1項第1号ハ、同法附則第40条第10項)。なお、以上は非上場会社の場合です。


2 ターゲット会社の課税
株式譲渡の場合、会社にとっては、株主が交代しただけで、会社自体の資産・負債には何ら変動がないので、会社における課税関係は生じません。つまり、株式譲渡の場合、会社レベルでの課税がないので、課税は1回です。


3 買主の課税(買収資金の損金化)
買主が、株式取得のために支払った金額は、買主がさらに株式を譲渡するまで「損金」化できません。つまり、取引全体の税コストにつき、買主において損金とすることによる節税効果を計算に入れることが難しいといえます。
この点、事業譲渡(営業譲渡)の場合には、買主は、買収のために支払った金額につき、個別の資産(建物や営業権)の減価償却費等の形で損金とすることにより、買主の法人所得に対する法人税を減らすことができることと対比してください(法人税法第31条第1項)。
なお、買主が将来株式を譲渡した場合には、買収代金は、譲渡所得の計算の際に株式の取得価額として譲渡価額から控除されます。買収監査(デュー・デリジェンス)に要した費用も、株式の取得価額に含まれることが多いと思われます( 法人税法施行令 第119条第1項第1号)。つまり、その費用を損金として税金を減らすことは難しいといえます。


(2006年7月執筆)


南繁樹 (ミナミシゲキ)
弁護士 ( あさひ・狛法律事務所 )

(経歴)
1995年 東京大学法学部卒
1997年 弁護士登録(東京弁護士会)
2002年 米国ニューヨーク大学ロー・スクール修士(会社法)
2003年 同ロー・スクール修士(租税法)
2003年 ニューヨーク州弁護士登録
2005年 LEC会計大学院教授(租税法)

(著作)
主要論文 「有価証券報告書虚偽記載とディスクロージャー上の問題点」(ビジネス実務法務 2005年3月号)、「各種防衛策と新会社法の影響」(税務弘報2005年10月号)

このコンテンツは「法律情報メールマガジンLIMM」より提供されております
e-hoki.com LIMMにおける掲載時点(2006年8月8日掲載分)での執筆物であるため、その後の法改正等により、情報が古くなっている場合も、あり得ます。

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