2005年3月10日|弁護士 小川憲久
Grokster判決とWinny事件
1999年頃、米国においてNapsterと呼ばれるソフトウェアがインターネットに登場し、瞬く間に広まりました。それは、インターネット上でユーザ同士がサーバを介することなく自由にファイル交換(ダウンロード)をすることのできるソフトウェアであり、P2Pソフトといわれるものです。P2Pとは Peer to Peerの略で、「仲間から仲間へ」という意味です。このソフトは、ファイルの転送(ダウンロード)を行うユーザの間のインターネット上にファイルを保存するサーバが存在せず、ファイルはユーザ間で直接交換することができる点に特色があります。このように、Napsterはファイルを保存するサーバの役割は持っていませんでしたが、Napster社は中央サーバを有しており、ユーザの誰がどのようなファイルを有していてNapsterによってダウンロードできるようになっているのかという情報検索サービスをしていました。この点でNapster社は著作権法に違反するユーザのダウンロードに寄与し、管理・支配していたとされ、米国連邦裁判所は著作権法違反を理由にNapster社のサービスを停止する命令をしました。
わが国でも、Napsterに類似するファイルローグというソフトが登場しましたが、東京地方裁判所はNapster事件と同様の理由により、ファイルローグを主催する会社は著作権侵害の主体であるとし、サービスの停止と損害賠償を命じました。
このNapsterやファイルローグの進化系ともいうべきP2PソフトにGrokster、Winny等があります。これらのソフトは、ファイル情報を検索するための中央サーバを必要としません。ファイル情報の検索をすると、ユーザ間に情報がバケツリレー式に転送されて検索結果が表示されるようになっており、したがって、これらのP2Pソフトを提供した者は、具体的にユーザが誰であるか、どのようなファイルをアップロードしているのかを知ることはできません。
このようなGroksterソフトを開発してインターネット上に公開した会社がNapsterと同様に著作権法違反に当たるとして訴えられました。ところが、米国連邦地裁はNapsterとは事案が異なるとしてGroksterには著作権侵害の責任はないとの判断をし、本年8月、連邦第9巡回区控訴裁判所も原審の判断を認容しました。米国では、著作物の複製に使用できる機器については、合法的な利用方法がある限り、具体的な著作権侵害行為を補助したとの事実がなければ責任はないとする最高裁判例があります。ソニー・ベータマックス事件判決といわれているもので、VTRの販売はユーザがテレビ番組を録画することでテレビ映画の複製権侵害に寄与しているとして訴えられた事件です。最高裁は、技術は中立であり、侵害の可能性を認識していただけでは侵害に寄与したことにはならないとしました。Grokster事件の判決理由もこのベータマックス事件を引用し、誰かが違法にファイルをアップロード・ダウンロードするかもしれないと認識していただけでは侵害に寄与したことにはならないと判示しました。
Winny事件とは、平成14年4月、Groksterと同様に中央サーバを有しないP2PソフトWinnyを開発し、自己のホームページで公開した東京大学大学院助手が、Winnyを使用して映画やゲームソフトを送信可能化した高崎市の自営業者と松山市の少年の著作権法違反の幇助罪として起訴された事件であり、現在公判中ですが注目すべき事件といえます。それは、著作権法違反の刑事事件ではあるものの、争点はGrokster事件と同一であるといえるからです。Winnyソフトによって誰かが違法行為をするかもしれないとの認識があれば幇助罪が成立するのか。ベータマックス事件判決、Grokster事件を見る限り、米国では責任はないとして無罪になるものと思われます。理論としてはコピー機の販売、録音・録画機器の販売が複製権侵害の幇助となるのか、という問題と同じです。中立的な技術の開発において違法利用の可能性を認識することは犯罪となるのか?わが国の裁判所がどのような見解を示すのか、大いに注目すべきでしょう。
(2004年9月執筆)
役職
(財)ソフトウェア情報センター 特別研究員
法とコンピュータ学会 理事
東京工業大学非常勤講師(1998-2002)
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