2005年12月 8日|弁護士 小川憲久
Grokster米国連邦最高裁判決
昨年、P2PソフトウェアであるGrokster事件の米国連邦地裁判決・控訴審判決をレビューしました。去る6月27日にこの事件の連邦最高裁判決がなされ、控訴審判決は破棄されて差し戻されました。そこで、もう一度この問題を考えてみたいと思います。
Groksterはインターネット上でユーザ同士が中央サーバを介することなく自由にファイル交換(ダウンロード)をすることのできるソフトウェアであり、P2Pソフトといわれるものです。このソフトはユーザのPC上のファイル情報を検索するための中央サーバを必要としません。ファイル情報の検索をすると、ユーザ間に情報がバケツリレー式に転送されて検索結果が表示されるようになっており、したがって、これらのP2Pソフトを提供した者は、具体的にユーザが誰であるか、どのようなファイルをアップロードしているのかを知ることはできません。このようなGroksterソフトを開発してインターネット上に公開した会社が音楽や映画等の無断複製に寄与しているとしてMGM等から著作権法違反で訴えられました。ところが、米国連邦地裁はGroksterには著作権侵害の責任はないとの判断をし、昨年8月、連邦第9巡回区控訴裁判所も原審の判断を認容しました。この判決は、技術は中立であり侵害の可能性を認識していただけでは侵害に寄与したことにはならないとするソニー・ベータマックス事件連邦最高裁判決を引用し、著作権法に違反するユーザのダウンロードに寄与し、管理・支配していたとされたNapster事件とは異なり、誰かが違法にファイルをアップロード・ダウンロードするかもしれないと認識していただけでは侵害に寄与したことにはならないと判示したものです。
この控訴審判決に対して上告がなされ、連邦最高裁はソニー・ベータマックス事件判決を変更するのではないかとして注目を集めていたのが今回の判決です。最高裁は、ソニー事件は侵害のために製品が使用されることを事実上知っていても合法的使用が可能な製品の設計又は配布だけから侵害の意図を推定することはできないとしたものであり、ソニー事件のルールは本件に適用ないとした上で、著作権侵害の使用を誘導する目的で製品を配布した者は、侵害促進の明確な表現又は肯定的な行動により、単なる配布を超えていることが証明された場合には、その製品を使用する第三者による結果的な侵害行為に対して責任を負う誘因責任があるとし、第三者による著作権侵害行為が行われていることは明白であるとして責任を肯定しました。つまり、著作権侵害を誘引するような言動を伴った配布の場合にはソニー事件の適用はなく、寄与侵害が成立するとしたものです。
この連邦最高裁判決は、ソニー事件についての再考はいたしませんでしたが、寄与侵害、代位責任とは別の誘因責任という一般的責任(不法行為責任の一類型と考えられます)を認めたもので、具体的な侵害者や侵害行為を認識して認容することまでは要求しておらず、ソニー判決のいう「技術の中立性」論の適用範囲を狭める結果となりうるものです。また、NapsterとGroksterの違いである中央サーバの存在の有無による責任の成否という議論は意味のないものとなり、我が国のWinny事件における検察側の主張と合致する要素を含んでいるものと思われます。Winny事件の判決は今秋になされるものと思われますが、無罪の可能性を強く予想させたGrokster控訴審判決が破棄された以上、厳しいものとなる可能性があります。
(2005年7月執筆、11月加筆)
役職
(財)ソフトウェア情報センター 特別研究員
法とコンピュータ学会 理事
東京工業大学非常勤講師(1998-2002)
このコンテンツは「法律情報メールマガジンLIMM」より提供されております。
e-hoki.com LIMMにおける掲載時点(2005年11月28日掲載分)での執筆物であるため、その後の法改正等により、情報が古くなっている場合も、あり得ます。
(C) e-hoki/新日本法規出版
e-hoki/新日本法規出版がネットワーク上で提供するコンテンツの著作権は、原則として、e-hoki/新日本法規出版に帰属します。著作権者の承諾なしに、無断で転用することはできません。
