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レンタルサーバ業者に対する発信者情報開示請求

テーマ:インターネット一般

2006年10月19日

解説者

弁護士 土谷喜輝

あるホームページの内容が自社の商標権を侵害するとして、そのホームページのレンタルサーバ業者に対し、ホームページ開設者の情報開示と損害賠償を求めた訴訟の判決が平成18年4月26日、東京地裁で出されました(平成17年(ワ)第24370号損害賠償等請求事件)。損害賠償については、前回、解説しましたので、今回は、プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示について解説します。以下に説明するように、本件では、一定の発信者情報の開示が認められています 。


事案の概要

原告は、株式会社平和という大手パチンコメーカーであり、被告は、レンタルサーバ業等を行う会社でした。被告は、平成17年8月頃、ある者(以下、「本件契約者」といいます)とレンタルサーバ契約を締結し、同契約に基づき、被告保有のレンタルサーバにウェブページを開設させました。本件契約者は、そのウェブサイト(以下、「本件ウェブサイト」といいます)の中で「Project HEIWA」、「プロジェクトヘイワ」との名称でパチンコ機の打ち子を募集し、パチンコ機の攻略情報を提供していました。
原告代理人弁護士は、平成17年9月26日、被告に対し、本件ウェブサイトが原告の商標権を侵害し、不正競争防止法にも違反しているので、本件ウェブサイトを閉鎖し、本件契約者の情報提供をするよう要求しました。これに対し、被告は、最終的に、本件契約者と連絡をとり、本件ウェブサイトを閉鎖しましたが、本件契約者の情報開示には応じませんでした。そこで、原告が、損害賠償とともに発信者情報開示を求めたのが本件です 。


プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示手続とその範囲

プロバイダ責任制限法4条1項は、〈1〉開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであり、かつ〈2〉発信者情報が開示請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受ける正当な理由があるときに、当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう)の開示を求めることができると規定しています。
総務省令で定められている発信者情報の範囲をまとめると以下のようになります。
〈1〉 発信者その他侵害情報の送信に係る者の氏名又は名称及び住所
〈2〉 発信者の電子メールアドレス
〈3〉 侵害情報に係るIPアドレス及びタイムスタンプ


原告が求めた開示すべき発信者情報の範囲

原告は、本件訴訟において、以下の発信者情報の開示を求めました。
平成17年9月26日ころ被告のサーバにおいて「pro-heiwa.jp」というウェブページを開設していた者に関する以下の情報
〈1〉 契約者の氏名又は名称及び住所(住所は契約時のもの及び変更後のもの)
〈2〉 契約料金の請求書の送付先の氏名又は名称及び住所(いずれも変更後のもの)
〈3〉 上記契約者の担当者の氏名、住所及び電子メールアドレス(電子メールアドレスは契約時のもの及び変更後のもの)
〈4〉 被告のサーバに別紙ウェブページ目録記載の情報が送信された年月日、時刻及び同送信時におけるIPアドレス


裁判所の判断

裁判所は、原告が求めたもののうち〈1〉から〈3〉については開示を認めましたが、〈4〉については開示を認めませんでした。
〈1〉は、発信者情報として、通常、認められるものですが、本件契約者は、その実体が不明であったため、〈2〉の請求書の送付先まで認められたものと思われます。また、複数の者が共同して本件ウェブページから不特定の者に送信を行っている可能性が高いことを理由に、契約者のみならず、契約者の「担当者」として被告に登録された者も「発信者その他侵害情報の送信に係る者」に該当するものと認めるべきとして、〈3〉の開示も認めました。
しかし、〈4〉については、このメール送信時のプロバイダIPアドレスが被告のレンタルサーバへ侵害情報である本件ウェブページの情報をアップロードした時のIPアドレスそのものではないことを理由に当該権利の侵害に係る発信者情報ではないと判断しました。


まとめ

発信者情報は個人のプライバシーに深くかかわる情報であって、電気通信事業法も「電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない。」(4条1項)と規定されており、発信者情報の開示の範囲は限定的に解されるべきです。他方、インターネット上で、匿名または仮名による権利侵害が横行していることも事実です。このような権利侵害を未然に防ぎ、あるいは損害賠償請求を認めるためには、権利侵害者を特定しうる最低限の情報は開示されるべきと考えられます。
したがって、契約者や担当者が全て架空でIPアドレスとタイムスタンプしか発信者情報を特定する手段がない場合には、それが侵害情報をアップロードした可能性のあるものである限り、開示は認められるべきと考えられます。


(参考サイト)
特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律−逐条解説−(総務省)
平成18年4月26日東京地裁判決(裁判所)


(2006年7月執筆)


土谷喜輝
   ニューヨーク州法曹資格
   
主要著書
 『個人情報保護法Q&A』
  <部分執筆> (中央経済社 2001)
 『インターネットをめぐる米国判例・法律100選<改訂版>』
  <共著>(ジェトロ 2001)
 『ビジネスマンのためのインターネット法律事典』
  <部分執筆> (日経BP社 2001)
 『米国弁護士によるビジネスモデル特許事例詳説』(ジェトロ 2000)   等

このコンテンツは「法律情報メールマガジンLIMM」より提供されております
e-hoki.com LIMMにおける掲載時点(2006年6月30日掲載分)での執筆物であるため、その後の法改正等により、情報が古くなっている場合も、あり得ます。

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