2010年12月24日|弁護士 高橋弘泰
取締役と刑事罰(7)インサイダー取引(3)
これまでは、なんとなく知ってはいても曖昧になりがちなインサイダー取引の定義についてやや詳しく見てきましたが、今回は、取締役をはじめとする会社関係者が、うっかりインサイダーに巻き込まれないためには、取締役及び会社がどのように対策を講じればよいのかについて若干述べたいと思います。
【三つの対策】
インサイダー取引の未然防止のために重要とされる対策は、主に次の三つです。
- 投資判断に重要な影響を及ぼす会社情報の適時開示に積極的に対応すること(適時適切な開示)
- 内部情報が他に漏れたり不正に利用されたりすることのないよう社内体制を整備すること(適切な情報の管理)
- インサイダー取引規制の意義や内容について役職員等に周知徹底を図ること(規制の正しい理解)
(東京証券取引所自主規制法人のホームページより抜粋)
今回は、インサイダー取引未然防止のためのこの三つの対策について、加えて4.自社株売買のチェック体制の整備、及び5.社内規程の整備の二つの対策について述べようと思います。
【適時適切な開示】
会社情報を適時・適切に開示すること、すなわち会社情報のディスクロージャーは、インサイダー取引の「公表」の要件との関わりで、大切になってきます。重要事実が取締役会等で意思決定されても、公表が遅れると、それだけインサイダー取引の危険性が大きくなってしまうことになります。
【適切な情報の管理】
情報管理体制の整備は、会社のコンプライアンス上も非常に大切ですが、重要な情報が特定の部門以外に広がらないようにする体制を構築することは、インサイダー取引に関与する可能性のある会社関係者をできるだけ少なくするという意味で、インサイダー取引の未然防止に役立ちます。
【規制の正しい理解】
何度も述べているように、インサイダー取引は形式犯ですから、知識・理解不足のためにうっかり関与してしまう危険性の大きい取引であるといえます。それだけに、インサイダー取引規制の意義や内容について役職員等に周知徹底を図り、規制の正しい理解を促すことは会社の取り組みとして必須でしょう。
社内での周知、研修や教育に際しては、東京証券取引所がホームページ上で公開しているガイドラインの活用などが有効かもしれません。
【自社株売買のチェック体制の確立】
社員による自社株の売買に際しては、会社への届出や許可を必要とするなどの事前チェック体制を取ることが、インサイダー取引の水際防止策として特に重要です。これがあればかなりの率でインサイダー取引を未然に防止できると考えられます。
【社内規程の整備】
インサイダー取引に関する社内ルールを設けている企業は多いですが、必ずしも十分に機能していない場合があります。これは、法律が頻繁に改正されることから、規程が古くなってしまっているパターンと、社員のインサイダー取引に関する知識が十分でないために、実態にそぐわない規程になっているパターンがあると考えられます。
規程の作成にあたっては、「うっかりインサイダー」を防止する観点から、インサイダー取引の基本知識が乏しい社員を前提にした文言にすることが必要でしょう。たとえば、「重要事実を知った時は、情報管理者に報告すること」という規程を作っても、何が「重要事実」にあたるかが分からなければ、遵守しようがないわけです。こういう場合には、文言を抽象的にではなく、できるだけ具体的にして、たとえば「以下の事実を知った時は、情報管理者に報告すること。(1)株式の発行、分割、交換や自己株式の取得・処分、業務提携や合併などについての情報、(2)(以下略)・・・」と例示するなどの工夫をした方がよいかもしれません。
【まとめ】
会社の体制として上に述べたような対策を講じることはもちろん大事ですが、最終的には取締役一人ひとりが、関係法規についての確かな知識と理解を持つことが最も大切です。取締役は、不注意な取引によって会社に罰金や課徴金などの損害を与えることのないよう気をつけたいものです。
氏名:高橋弘泰
生年:1970年生
弁護士登録年・弁護士会:
2009年弁護士登録、第二東京弁護士会所属
学歴:
1994年東京大学法学部卒業
得意分野等:
東京都に勤務の後、大宮法科大学院に入学し、法曹を目指す。行政事件、刑事事件など公益的な活動に力を入れる一方、民事分野でも敷居が低く利用しやすいと同時に、内容的には決して妥協しない良質な法的サービスの提供に努めていきたいと思います。
所属事務所:
法律事務所フロンティア・ロー http://frontier-omiya.jp/index.html
