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人事・労務の基礎(7) 内定取消

テーマ:労務一般

2010年3月11日

解説者

弁護士 持田光則

【採用内定者に対する内定の取消】

 リーマンショックの後、誰でも名前を知っているような大手企業が、採用内定を出していた学生達に対して大量の内定取消を出して報道されたことがありました。一旦、内定をもらっていた学生達は、春からその企業で働きはじめるつもりでいたので、大変なショックだったと思います。また、企業側にとっても、採用を決めた人材を雇うことができなくなったわけですから、会社が傾くような事態が生じていたのではないかと思います。
 さて、皆さんはこれらの報道の際に、企業側が内定を取消した学生に対して金銭を補償していたことをご記憶でしょうか。急激な経済情勢の変動などにより企業側が採用内定を取消すときには、金銭補償をする義務はあるのでしょうか。あるとすればどのような根拠での金銭補償なのでしょうか。今回は、採用取消をするときの法律上の扱いについて考えてみたいと思います。


【内定取消の法律上の性質】

 企業が就職希望者を実際に雇用するまでには、(1)採用担当者から事実上内定を知らせた、(2)正式な内定の通知書を送付した、といった現実の雇用関係が生じる前のステップがあります。
 (1)の場合、内々定といった言葉が当てはまるかもしれません。この段階では、担当者の見解を述べているだけで、企業との間の契約関係に入ったとまでは評価できないと思われます。(伝えられた内容によっては、内定と同様に考えられる場合もあります。)
 他方(2)の場合、企業側は4月からの雇用を約束したと理解でき、就職希望者との間に契約関係が生じていると考えられます。少し難しく言うと、始期付雇用契約が成立し、企業側と就職希望者側の双方を拘束することになります。
 (2)の場合、契約としては成立しているので、実際の雇用が開始されていなくても労働基準法等の規制を受けます。このため、内定を取消すには解雇に準じる規制を受けます。(ただし、内定取消が正当と認められる事由は、既に従業員となっている者の解雇の場合と比べて緩和されると考えられています。)
 そして、解雇に関する規制に従った処理が必要となるため、企業側の事由で内定を取消すときは、解雇予告手当の支給が必要ということになるようです。(この点については、解雇予告手当を支給する目的にそぐわないとして、異なる考え方もあるようです。)
また、(2)の段階では、就職希望者は始期付雇用契約により4月からの雇用への期待を生じているので、企業側の一方的な内定取消についてはペナルティー(損害賠償)が生じる可能性があります。
 先に報道された企業側の負担する補償金は、以上のような法的根拠を背景として、事後的な紛争を避けるために企業側が支給を決めたものと推測されます。
 なお、(1)と(2)は分かりやすく分類したもので、個別の事情で異なる判断となることがあります。実際に問題となるときには専門家に相談しましょう。


【内定取消をしなければならないとき】

 内定取消は、法律上は解雇と同様に扱われるため、企業側は裁判で「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」と認定されると、無効と判断されてしまいます。この裁判で要求される「客観的に合理的な理由」「社会通念上相当」というのは、会社や採用予定者に生じた採用を困難とする事情と企業側の内定取消を回避しようとした努力を積み上げて判断されるため一概に言えません。
 誤解を恐れずに分かりやすく表現すれば、採用内定者に対して企業側が誠実であることと、それを外部の方が見ても納得できる状況が必要なのだと思います。
 もし採用内定を取消さなければならないと考えることがあれば、避けられないのかどうか、もう一度良く考えてみることが必要でしょう。
 また、採用内定を取消すことが避けられない場合には、解雇の場合と同様に就業規則等に従った手続をとることも必要となります。
 さらに、事後的に紛争にかかわる弁護士の立場からは、経営者の主観的判断という説明だけでは戦えませんので、その判断を裏付ける資料(事業の急激な悪化を示す資料や採用予定者側の問題点を判断した根拠資料など)の確保をお願いしておきたいところです。
 そして、企業側の理由で内定を取消すのであれば、内定を取消される側の事情にも配慮し、後の紛争を避ける趣旨も含めて解雇予告手当等の補償をしておくことは必須であると思います。訴訟で従業員としての地位を主張された場合の費用負担と比較すれば、高い支出とはいえないのではないでしょうか。


【今回のまとめ】

 内定を取消すときには、外部の方を納得させるだけの企業側の誠実さが必要です。内定取消もやむを得ないと判断するときは、判断の基礎となった資料の確保も忘れないようにしましょう。そして、内定取消に際しては、解雇予告手当等の金銭給付についても十分に検討しておきましょう。


氏名:持田光則

生年:1972年生

弁護士登録年・弁護士会:
2002年・東京弁護士会所属

学歴:
1991年都立昭和高校卒業、1996年専修大学法学部卒業

得意分野等:
不動産トラブル、債権回収、交通事故、医療過誤、離婚、相続、倒産処理など一般民事事件を幅広く扱う。実家が青梅市にあり生梅や梅干の生産をしていることから農業経営にも興味を持ち、若手農業経営者への支援にも取り組んでいる。

所属事務所:
立川北法律事務所(東京都立川市)

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