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商取引の基礎知識(4)宅配便での荷物の紛失―第三者に対する責任

テーマ:契約・取引

2011年5月26日

解説者

弁護士 島岡清美

 前回まで、宅配業者(運送人)が運送品紛失に対して負う責任について、商法上の定めがどのようになっているかについて、また、これに対し一般的な約款では賠償額の限度を設けてリスクを回避していることをお話しました。
 今回は、この責任制限の約款が、第三者からの不法行為に基づく損害賠償請求に対しても適用されるかについて、実際に問題となった判例を見て行きたいと思います。


1.事案

 事案は、宝石加工業者がお客様から宝石を預かり加工をしてお返しするという過程で、加工業務を下請会社に発注し、仕上がった商品を下請会社から受取る際に宅配便を利用したところ、配送途中で商品が紛失したというものでした。


 約款では、荷送人は送り状に荷物の品名及び価格を記載し、運送人は責任限度額を記載するものとの定めがなされていました。
 宅配業者は、この約款通りに、送り状に責任限度額を30万円とすることの記載をしており、さらに、「30万円を超える高価な品物はお引き受けいたしません。万一出荷されましても損害賠償の責を負いかねます」との記載もしていました。
 しかし、下請会社のほうは、発送の際の送り状に、中身が宝石であることは特段記載せず、商品の品名も価格も記載していませんでした。


 そうなると、荷送人である下請業者が損害賠償を請求するのであれば、当然、約款にしたがって30万円に限定されることになりそうですね。
 ところが、この事案では、宝石加工業者のほうが宝石をお返しできなくなった客に宝石代金相当額を賠償し、その分の損害を被ったとして、不法行為に基づいて宅配業者に対し損害賠償請求してきたのです。その金額は約400万円もの高額なものとなりました。


 宝石加工業者は運送契約の当事者ではないので、約款による制限を受けず、400万円の賠償を受けられるのでしょうか?


2.事情

 理屈からいえば、不法行為が理由なのだから、契約責任を制限する約款は適用されず、全額の賠償が認められそうですね。


 ところが、この事案には特別な事情がありました。


この宝石加工業者と下請会社の取引は16年間も続いているもので、宝石のやり取りには普段から宅配便が利用されていました。宝石加工業者から下請会社へ宝石を宅配便で送付する回数は年間80回、下請業者から今回のように完成品を宅配便で送付するのも4回目であり、利用回数も頻繁なものでした。
 宝石加工業者において、下請業者が宅配便で加工済みの宝石を送付してきても、特に何も苦情は言っていなかったようです。
 おそらく、宝石加工業者も下請会社も、お互いに宝石という高価なものであることを明示すると運送代金が高くなるので、品名を書かずに送付することでコストを下げていたのでしょう。


 このような事情からすると、普段はコスト削減の利益を享受していながら、いざ損害を被ったときには、運送契約の当事者ではないという形式論を盾にして全額の賠償請求をするなんて、この宝石加工業者は少し虫が良すぎるように思いますね。


3.最高裁の判断

 そこで最高裁は、この宝石加工業者からの不法行為に基づく賠償請求について、「信義則」を理由に請求を認めませんでした。


 最高裁は、宅配便が有する特質(低額な運賃によって大量の小口の荷物を迅速に配送するという性質)からすると、利用者において一定の制約を受けるのもやむをえないことであり、責任限度額を定めたことは、運賃を可能な限り低額にとどめて宅配便を運営していく上で合理的であると、宅配便の性質について言及しました。
 そして、そのうえで、この特質に照らせば、荷受人(事案では宝石加工業者)が、少なくとも宅配便で運送されることを容認していたなどの事情が存するときは、信義則上、責任限度額を超えて運送人に対して損害の賠償を求めることは許されないと判断したのです。


4.約款の存在意義

 確かに、約款による制限というのは、契約当事者ではない第三者から不法行為責任を問われてしまうと弱いものであり、その場面では意味がないように思われます。
 この事案でも、高裁は、信義則ではなく、宝石加工業者と下請会社を「実質的に同視できる」と判断し、宝石加工業者を契約当事者である下請業者に近づける構成をとって、約款に従い30万円の限度でしか賠償を認めないという判断を示しました。約款の効力を認めるために、宝石加工業者を契約当事者である下請会社と同視するという考え方をとったのだと思われます。


 しかし、最高裁はこの高裁の論理を維持せず、「信義則」によって処理をしました。これは、不法行為に基づく請求に対し約款の効力を直接認めるわけにはいかない一方で、高裁にように、実質上同視できるという構成も、あくまで宝石加工業者と荷送人はまったく別の法人格をもち、まったく別の経営主体なのですから難しいという中で、このような法の建前を維持しながらも、約款の趣旨に鑑み、実情に則した妥当な解決を図ろうとした結果なのだろうと思います。


 このように考えますと、約款は確かに第三者に対しては無力であるものの、事情によっては、約款があったことが一つの理由となって、約款の趣旨による保護を受けられることもあるということですから、事前にリスクを最大限回避するために、約款で別段の定めを設けておくことは、やはり有意義であるといえるのだと思います。


氏名:島岡清美

生年:1973年生

弁護士登録年・弁護士会:
2002年弁護士登録、東京弁護士会所属

学歴:
1996年3月 中央大学法学部卒業

得意分野等:
多種多様な事件を手がけておりますが、基本的には、社会から理解されないことによって苦しんでいる方の手助けをすることが多いです。これまでの経験において比較的取扱いの多い業務分野あるいは特徴的な分野を挙げるとこのようになります。
 ・一般民事事件(賃貸借、請負、貸金、売買、不法行為等)
 ・企業法務(契約書作成・確認、法務相談への対応等)
 ・離婚、婚姻費用分担、DV(保護命令申立)、セクハラ訴訟
 ・刑事事件(示談交渉、刑事弁護、被害者参加)
 ・農地法関係(行政との交渉等)
 ・子どもの人権関係(体罰事件、親子関係不存在確認訴訟等)
 ・児童福祉法関係(児童相談所と親権者との関係調整、行政不服審査請求手続等)
 ・破産、個人再生、任意整理

所属事務所:
堀法律事務所 http://hori-laws.jp/

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