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役員の法律(4)退職金の法律問題

テーマ:役員・株主

2010年11月 4日

解説者

弁護士 高橋弘泰

 取締役の退職金(退職慰労金ともいう)を巡っては、会社関係の紛争においてしばしば争点となり、裁判例も多いところです。
 そこで今回は、取締役の退職金のもつ法律問題について説明していきます。


【「お手盛りの危険」の防止】

 取締役に対する退職慰労金は、任期を終えた取締役に対し支払われるものですが、在職中の職務執行の対価としての性質を持つことから、報酬の一部と考えられ、定款又は株主総会の決議によって金額を定めることが会社法により必要とされています。


 これは一般に、取締役自身による「お手盛り」の危険を避けるためといわれます。つまり、報酬額の決定を取締役会が行うことにすると、自分たちの受け取る報酬を都合のいいように決めてしまうおそれがあるので、定款又は株主総会の決議で金額を定めることにしているのです。


【一任決議も可能?】

 しかし、たとえば退任取締役が一人の場合、総額を明示して決議すると個人への支給額が明らかになってしまうのを嫌って、総額を明示せず、取締役会(取締役会非設置会社では取締役の過半数)に具体的金額や支給期日、支給方法などの細目を一任するという決議を行う会社が多く、そうした一任決議も認められています。


 ただし、無条件に一任するというのでは駄目で、「支給基準を株主が推知しえる状況」において、当該基準に従って決定することを委任する、という趣旨のものであればよい、というのが判例の見解です。この場合の支給基準には、会社の業績、退任取締役の地位・勤続年数・功績等が用いられるのが通例です。


 また一任決議にあたっては、あらかじめ会社側が「支給基準を株主が推知しえる状況」のための適切な措置を講じる必要があります。株主総会参考書類に基準内容を記載すること、株主が本店で請求すれば基準の説明を受けられる体制を取っておくことなどがその例として挙げられます。


 当然ですが、支給基準を定めた以上、委任を受けた取締役会は基準に従って支給しなければなりません。委任を受けたにもかかわらず支給を行わなかった場合、不支給の決議をした取締役に任務懈怠(けたい)があり、重大な過失があったとして第三者(不支給とされた取締役)に対する損害賠償責任が認められた裁判例があります。


【退職慰労年金の打ち切り?】

 取締役の報酬は、株主総会で金額まで個別に決定した場合は、取締役の同意なしに勝手に減額したり不支給にしたりすることはできません。取締役の報酬は会社との委任契約に基づくものですから、契約によって一度発生した取締役の報酬請求権を一方的に奪うことは許されないのです。


 同じことが退職慰労金にもあてはまります。ただし、退職慰労年金は年金制度の一種であり、支給期間も比較的長期にわたることから、集団的、画一的処理が許される余地がありそうです。


 しかし、この点につき最高裁は、今年(2010年)の3月、会社の退職慰労金規程に基づいて退任取締役が株主総会決議等によって定められた額の退職慰労年金を受給していたところ、その後の取締役会決議で本件内規が廃止され、年金の支給が打ち切られたため、会社に対し、未支給の退職慰労年金の支払いを求めたという事案で、退任取締役の同意なく退職慰労年金債権を失わせることはできないと判示しました。制度上の便宜よりも、原則を重視した判決といえます。


【中小企業の場合】

 中小企業においては、しばしば特定の取締役がオーナー取締役と対立する形で退任する場合が多く、オーナー取締役が絶大な権限を持っているため、株主総会決議を行わないことで退職金を支給しないというケースがあります。そのような会社で、定款又は株主総会の決議がないことを理由に退職金が支払われないと、退任取締役にとっては不公平な事態となります(ちなみに、退職慰労金は株主総会で決議されるまでは請求権は発生しません)。


 裁判では、こうした退任取締役を救済するために、比較的柔軟な解釈が取られることがあります。たとえば、実質上個人会社といえる場合には、株主総会の決議がなくても総株主の同意を認定したり(大阪地裁昭和46年3月29日判決)、退任取締役が従業員の地位を有していたことを認定する(千葉地裁平成元年6月30日判決)などの方法です。後者は、使用人が取締役としての職務を兼ねている場合は、取締役としての報酬だけを定款又は株主総会の決議で決定し、使用人としての報酬は、通常の労働契約による労働の対価として支払われるという考え方に基づいています。


氏名:高橋弘泰

生年:1970年生

弁護士登録年・弁護士会:
2009年弁護士登録、第二東京弁護士会所属

学歴:
1994年東京大学法学部卒業

得意分野等:
東京都に勤務の後、大宮法科大学院に入学し、法曹を目指す。行政事件、刑事事件など公益的な活動に力を入れる一方、民事分野でも敷居が低く利用しやすいと同時に、内容的には決して妥協しない良質な法的サービスの提供に努めていきたいと思います。

所属事務所:
法律事務所フロンティア・ロー http://frontier-omiya.jp/index.html

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