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競業行為とは何か(4)取締役の競業行為・その2

テーマ:役員・株主

2011年12月 8日

解説者

弁護士 高橋弘泰

 今回は、前回に引き続き、取締役の競業行為について説明します。今回は特に、それ自体は競業取引とはならなくとも、類似の問題として扱われるものについて説明します。


【会社の機会の奪取】

 取締役が、現在あるいは将来的に会社が関心を持つと考えられる新規事業等を自己の事業にしてしまう行為は、一般に「会社の機会の奪取」といわれます。たとえば、飲食業を営むある会社が、IT企業と組んで画期的な宣伝媒体となるような携帯アプリを開発することを計画していたとき、プロジェクト進行の最中に、そのプロジェクトに関わっていたある取締役が突然退職して新会社をつくり、そのアプリのアイディアを使った新商品を発売したような場合、厳密に考えればこの取締役の行為は競業行為とは言えませんが、会社が将来得る可能性のあった利益を先んじて奪ったことにより、会社に損害を与えたといえます。


 この法理はもともとアメリカで発達した考え方です。会社の機会とは、具体的には(1)取締役がその職務遂行に関連して知りえた取引の機会、(2)会社がその事業の維持便益のために探し求めている取引の機会、(3)会社の情報または人的物的施設を用いて取締役が入手しうるようになった取引の機会、などをいうとされます。こうした取締役の行為は、それ自体は競業取引には当たらなくとも、善管注意義務(会社法330条、民法644条)及び忠実義務(会社法355条)に違反する可能性があります。もっとも、具体的な義務違反の程度は、その会社の規模や、上場しているかどうか、その取締役の会社内部での地位などによっても異なると考えられます。


【取締役による従業員の引き抜き行為】

 取締役が、会社の実質的な支配者であるオーナー経営者と経営方針を巡って対立し、会社を退任することとなった場合に、会社の従業員を引き連れて会社の事業と競業関係にある新会社を設立したり、別会社に転籍するというケースがあります。これに対して、その取締役に対して従業員を引き抜いて会社に損害を与えたことを根拠に損害賠償を請求できるかという問題があります。


 問題は、取締役が在任中には従業員を勧誘するだけで、退任後に新会社の事業を始めた場合には、取締役は準備行為をしているだけなので、競業避止義務違反にあたると考えることには少し無理があるという点です。このような場合には、取締役が会社の利益を犠牲にして自己または新会社の利益を図っていると考えて、取締役の忠実義務違反(会社法355条)を根拠にできると考えられています。この考え方をとった判例も多く存在しています。


 取締役による従業員の引き抜きに関しては、在任中に従業員に退職勧奨をすること自体が忠実義務違反になるという見解と、会社に不当なダメージを与えるような不当な態様のもののみを問題にすべきであるという見解(不当勧誘説)があります。


 確かに、取締役が自ら手塩にかけて教育した子飼いの部下に対して、自分の計画する事業に参加するよう勧誘することが当然に忠実義務違反となると考えるのは、取締役に少し酷な気がしますし、従業員は単なる会社の財産ではなく、自分の働く場所と機会を決定する自律的な意思をもつ存在だと考えるならば、会社にとって不当な引き抜きといえるもの以外は責任を問わなくてもよいのではないかとも思われます。これまでの裁判例は、どちらかといえば不当勧誘説を取るものが多いようですが、いずれにしても忠実義務違反が認められるかどうかの判断にあたっては、従業員と取締役の関係、引き抜かれた人数、会社に与える影響の度合いなどとともに、引き抜きに至る諸般の事情が考慮されることはいうまでもありません。


 なお、取締役が退任した後の従業員に対する引き抜き行為は、もう取締役と会社との委任関係は終了しているので、忠実義務違反ではなく一般的な不法行為責任の問題になります。この場合にも、引き抜き行為の態様が問題となることは同様です。


氏名:高橋弘泰

生年:1970年生

弁護士登録年・弁護士会:
2009年弁護士登録、第二東京弁護士会所属

学歴:
1994年東京大学法学部卒業

得意分野等:
東京都に勤務の後、大宮法科大学院に入学し、法曹を目指す。行政事件、刑事事件など公益的な活動に力を入れる一方、民事分野でも敷居が低く利用しやすいと同時に、内容的には決して妥協しない良質な法的サービスの提供に努めていきたいと思います。

所属事務所:
法律事務所フロンティア・ロー http://frontier-omiya.jp/index.html

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