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法律コラム


[人事・労務|2009年11月12日]
弁護士 石井邦尚

人事・労務の基礎(3) 就業規則の不利益変更

弁護士 石井邦尚

1.はじめに

 前回、就業規則を変更する際の手続きを解説しました(人事・労務の基礎(2) 就業規則の作成・変更の手続き)。しかし、手続きさえ踏めば、どんな変更でも可能というわけではありません。就業規則を従業員に不利益に変更することには制約があります。

2.労働契約法の定め

 少し長くなりますが、就業規則の変更について定めた法律(労働契約法第10条本文)を引用します。(なお、正確には「就業規則の変更による労働条件の変更」といった表現が正しいのですが、本稿では便宜上「就業規則の変更」ということにします。)

  • 使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。

 わかりづらいと思いますが、要は就業規則の(不利益な)変更は「合理的なもの」でなければならないと定めています。そして、「合理的なもの」かどうかを判断する要素として、(1)労働者の受ける不利益の程度、(2)変更の必要性、(3)変更後の内容の相当性、(4)労働組合等との交渉の状況、(5)その他の事情、を掲げています。これらを斟酌して「総合的に判断」することになります。
 もっとも、逆にこうした要素を考慮した上で、変更が「合理的なもの」であれば、個々の従業員の同意を得なくても就業規則を変更することができると言うこともできます。

3.なぜ、「合理的な」変更は認められているのか?

 本来、就業規則は会社と従業員との間の労働契約の内容を規定するものですから、就業規則の変更=労働契約の変更には、個々の従業員の同意が必要です(従業員の同意があれば「合理的なもの」といった要件を満たさなくても、労働基準法等に反しない範囲で不利益変更はできます。労働契約法9条参照。)。とはいえ、従業員が数名ならばよいかもしれませんが、ある程度の規模になると、同意を得ることは困難(あるいは事実上不可能)になります。
 しかし、「会社の憲法」である就業規則を、実情にあわせて変更することができなければ、経営の柔軟性が著しく阻害されてしまいます。
 例えば、会社の創業期に定められた大盤振る舞いの退職金や賃金体系、あまりに長い年末年始・夏期休暇、等々が、会社の成長(規模拡大)につれて非現実的な条件になってくるといったケースがあります。また、日本全体の景気、あるいは会社の景気が良かったときに定めた労働条件が、景気の悪化で維持できなくなるということもあるでしょう。これを放置してしまえば、会社の成長を妨げたり、従業員を削減せざるを得なくなったりする、最悪のケースでは会社が倒産に追い込まれることもあり得ます。
 こうしたことから、就業規則の不利益変更も、一定の場合には認められているのです。

4.「合理的」かどうかの判断

 上で引用した労働契約法10条本文の規定は、元々は判例で積み重ねられてきたものを、法律の条文にまとめたものです。弁護士などが、ある会社で検討している就業規則の不利益変更が合理的かどうかを検証する際には、過去の判例や裁判例を参考にして判断します。上で示した諸要素を「総合判断」するので、結局、ケース・バイ・ケースでの判断になりますが、例えば、次のようなことは指摘できます。
 一般に、賃金・退職金など重要な労働条件に関する不利益変更は、認められづらいといえます(「高度の必要性に基づいた合理性がある場合に限り」認められるなどと言います)。
 また、一部の従業員のみが大幅な不利益を被るようなケースも、不利益を緩和する何らかの措置などをとらないと、「合理的」とは認められづらいといえます。

5.労働基準法や労働協約と就業規則

 従業員の同意を得たり、変更が「合理的なもの」であっても、就業規則の変更が認められるとは限りません。
 労働者の労働条件、権利義務などについては、労働基準法をはじめとする各種の法令で定められています。これに反する(正確にはこうした法令のうち「強行法規」であるものに反する)就業規則は無効となり、法令が適用されることになります。また、労働協約がある場合、就業規則の変更が「合理的なもの」であっても、労働協約に反するものは認められません。
 なお、上で引用した労働契約法10条本文に書かれていますが、合理的なものでも、「周知」がされなければ、就業規則変更の効力は生じません。また、考慮要素に「労働組合等との交渉の状況」が含まれているように、最終的な内容だけでなく、それに至る過程も意味を持ちます。その他、前回説明した手続きなども踏む必要があります。
 変更した就業規則が、裁判で「合理的でない」その他の理由で無効とされると、例えば、賃金や退職金を引き下げていた場合、引き下げ前の賃金・退職金を支払わなければならなくなります。労働時間を延長したり、休日を削減したりしていた場合、変更前の労働時間や休日に基づいて割増賃金を計算して支払うことになります。過去に遡るので、思わぬ大きな支出となるリスクもあります。就業規則の不利益変更を行う際には、十分に注意してください。

氏名:石井邦尚

生年:1972年生

弁護士登録年・弁護士会:
1999年弁護士登録、第二東京弁護士会所属

学歴:
1997年東京大学法学部卒業、2003年コロンビア大学ロースクールLL.M.コース修了

得意分野等:
米国留学から帰国後に「挑戦する人(企業)の身近なパートナー」となるべくリーバマン法律事務所を設立、IT関連事業の法務を中心とした企業法務、新設企業・新規事業支援、知的財産などを主に取り扱う。留学経験を活かし、国際的な視点も重視しながら、ビジネスで日々発生する新しい法律問題に積極的に取り組んでいる。

所属事務所:
リーバマン法律事務所 http://www.rbmlaw.jp/

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