本文とサイドメニューへジャンプするためのナビゲーションスキップです。

トップページ  >  経営をよくする  >  法律コラム

特集一覧 中小企業に役立つ記事や施策をトピックスごとにまとめています。

下請取引の問題点(3)ソフトウェア開発に関する最近の裁判例

テーマ:システム

2011年9月15日

解説者

弁護士 高橋弘泰

 前回に引き続き、ソフトウェア開発に関する最近の裁判例(東京地裁平成22年7月22日判決)について説明します。


 事案の概要は、前回のコラムで述べたとおり、注文者(原告)が請負業者(被告)との間で人材派遣業務システムに係るコンピュータのソフトウェア(いわゆるマッチングサイト)の開発委託契約を締結したが、請負業者の仕事が完成しなかったことについて注文者が損害賠償を求めたというものです。
 注文者は、(1)債務不履行責任(2)告知義務違反(3)契約締結上の過失の3点に基づいて損害賠償を求めまたしたが、今回はそれぞれの点につき裁判所がどんな判断をしたかを説明します。


【債務不履行責任について】

 原告は、被告には、ソフトウェアを開発する債務があったにもかかわらず、完成させることができず、契約を解除する旨を一方的に通知してきたのだから、被告に債務不履行(履行不能)責任があると主張しました。
 これに対し裁判所は、契約が履行不能となったのは、原告が、被告との打合せのたびに新たな要求事項を追加するなどして、ソフトウェアの要件定義を確定させようとしなかった上、被告からされた追加費用の負担の提案にも一切応じようとしなかったことに最大の原因があるとして、被告の責任を否定しました。


 注目すべきは、判決が、要件定義が定まらない時点で締結されるシステム開発に係る契約について、一般論として、「注文者が当初の契約を超える内容のシステム構築を求めた場合、当初の契約金額で受注者に対して製作することを求めることはできない」と述べた点でしょう。
 下請法においても、不当な給付内容の変更(下請法4条2項4号)が定められており、この判決も下請法の趣旨に沿ったものといえるでしょう。


【告知義務違反について】

 原告は、被告には、ソフトウェアを当初の代金では開発することはできないことを原告に告知すべき信義則上の義務があったと主張しました。
 裁判所はこれに対し、(1)被告側が、ソフトウェアの機能を追加し続ければ追加費用が発生する可能性もあることを説明したが、原告がこれを全く受け入れなかったこと、(2)原告の技術担当者の一人が、ソフトウェアの開発費用について、企画書の内容では当初の代金を上回る金額が必要であることを認識していたこと、を認定した上で、被告の告知義務を否定しました。
 そもそも、請負者が話し合いの段階で、追加費用が発生することを注文者に明確に伝えていたならば、告知義務違反という問題は起こらなかったでしょうから、請負者としては、追加費用が発生する見込みがある場合には、書面など後に残る形で伝えておくのが望ましいといえます。


【契約締結上の過失について】

 原告は、被告は本件契約を締結した以降、念書を書くなどして、被告が間違いなく本件契約どおりのソフトウェアを完成させると原告を誤信させたと主張しました。
 これに対し裁判所は、(1)原告は、被告に対し、システム開発について契約締結後に要求事項を拡大し、当初に想定されたものと比較して相当大幅に開発費用を増加させる内容を求めたにもかかわらず、追加費用の負担には一切応じようとしなかったこと、(2)原告側にもソフトウェアの開発費用を見積もることができる人材がいたことなどの事情を考慮した上で、被告に責任はないとしました。


【注意すべき点】

 本件に関する裁判所の判断はあくまで個別・具体的事案の下でのものであり、ただちに一般化・抽象化することはできませんが、少なくとも以下の点を明確に述べている点で注目に値します。


  • (1)ソフトウェアの開発は、注文者側と請負人側との間で具体的なイメージを共有するため、注文者側の技術担当者と請負人側の技術担当者との間に密接な協力関係があることが必要不可欠である。
  • (2)注文者側がどのような内容のソフトウェアの開発を望んでいるかを提示又は説明する責任は、注文者側にそのような能力がないことが前提になっているなどの事情がない限り、注文者側にある。

 ソフトウェア開発においては、注文する側が技術的な点をよく分からっておらず、曖昧なイメージのまま発注してしまう場合があります。しかし、後になって仕様の追加、変更をする場合には、当初の金額内で収まらないケースもあるので、できれば発注側にも技術者を置いて、当初から契約内容を具体的にしておくことが必要です。
 また、契約書の作成が必須であることは言うまでもありませんが、下請法に抵触する部分がないかなど、後日の紛争予防のためのリーガルチェックも必要でしょう。


氏名:高橋弘泰

生年:1970年生

弁護士登録年・弁護士会:
2009年弁護士登録、第二東京弁護士会所属

学歴:
1994年東京大学法学部卒業

得意分野等:
東京都に勤務の後、大宮法科大学院に入学し、法曹を目指す。行政事件、刑事事件など公益的な活動に力を入れる一方、民事分野でも敷居が低く利用しやすいと同時に、内容的には決して妥協しない良質な法的サービスの提供に努めていきたいと思います。

所属事務所:
法律事務所フロンティア・ロー http://frontier-omiya.jp/index.html

同テーマの記事を見る 3つのコンテンツから検索ができます!

このページの先頭へ

このページの先頭へ