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「労働者」性について―最近の裁判例から(3)

テーマ:採用・雇用

2011年5月 6日

解説者

弁護士 今泉亜希子

【平成19年9月27日付厚生労働省労働基準局長基発第0927004号(以下「本件通達」】

 前回は、ソクハイ事件の裁判所の判断内容について紹介し、また、裁判所の判断とは異なり、労働者性を認めるという一見矛盾するような通達があるという話をしました。


 しかし、通達の出された経緯をよく見ると、そもそもは東京労働局長が、あるバイク便業者の就労の実態について就労実態について調査し、このような就労実態がある場合に労働者性を認められるかという照会を行ったことに対して、厚労省労働基準局が、通達により労働者性が認められる旨の回答を行い、その後「これと“実態を同じくするものについては”、これに準じて取り扱われたい」(“”は引用者添付)としたのが上記の通達です。従って、前提となる「就労実態」が異なれば、当然通達とは異なる結論もあり得ます。


 東京労働局の調査によれば、メッセンジャーは使用従属性に関しては、仕事依頼に対する諾否の自由は事実上なく、配送業務の遂行方法については詳細な指示を受けており、また時間的・場所的拘束性についても、始業時刻までの出所や業務終了後の営業所への帰所が義務づけられている、出勤状況が出勤簿により管理されていること、労務対償性についても、報酬の基本歩合率が欠勤等により加減されることなど、本件裁判とはほぼ真逆の調査結果が出されています。


【中労委命令(平成21年(不再)第21号)との関係】

 また前回、本事件は中労委において、メッセンジャーは労働組合法上の労働者に該当するという判断が、今回の判決以前に出されているという話をしました。しかし、そもそも「労働基準法上の労働者」と「労働組合法上の労働者」はどのように違うのか(あるいは同じなのか)が問題となります。


 まず条文ですが、労基法3条は労働者について「職業の種類を問わず、賃金・給料その他これに準ずる収入によって生活する者」と、労基法上の労働者とは若干異なった定義をしています。
 そして、労組法は、経済的に弱い立場にある労働者が、団結活動や団体交渉により、使用者と対等の立場に立つことを促し、労働条件の維持改善を図っていくことが目的であり、労基法とは立法趣旨が異なります。そのため、労働者性判断における使用従属性も、団体交渉によって労働条件の維持改善を図るのに適しているかという観点から、労基法よりも緩やかに判断されています。例えば、裁判例ではプロ野球選手も労組法上の「労働者」に当たるとされています(労基法上は労働者と認められないという見解が一般的です)。 従って、労組法上の労働者であっても、必ずしも労基法上の労働者と認められる訳ではありません。


 もっとも、本件については、中労委はソクハイのメッセンジャーを「会社の事業に不可欠な労働力を恒常的に供給する者として会社の事業組織に強く組み込まれて」いることや、メッセンジャーの収入が「配送業務に係る労務供給に対する対価である」ことなどを認定していますので、本件では、そもそもの就労実態についての事実認定の段階で、中労委と東京地裁で異なっているように思えます。


 なお、話は本筋からそれますが、つい最近、労組法上の労働者性を争った最高裁判決が続けて2件出されました。一つは住宅整備のメンテナンス会社と業務委託契約を締結しているカスタマーエンジニアで、もう一つはオペラ公演に1年間出演する契約を結んだ合唱団員です(どちらも平成23年4月12日付)。いずれの判断も、上記の中労委とほぼ同様の枠組みで判断されています。


【事業者の立場から:本判決をどう考えるか?】

 本事件は既に控訴審で審理されていますから、今後高裁、もしくは最高裁で異なる判断がされる可能性はあります。ただ、仮に変わるとしても、それは前提となる事実認定が変わる場合であって、就労の実態や支払われる金銭の性質などを重視するという基本的な枠組みは変わらないでしょう。


 では、事業者としては今後どのような点に気をつけていけばいいのでしょうか?確かに、業務委託や請負の形態で仕事をさせる方が、労働保険や社会保険のコストもかかりませんし、残業代を請求されたり、不当解雇を争われることも避けられます。
 他方、使用される側としても、一つの事業者に囲い込まれるよりは、指揮命令を受けずに複数の事業者と契約し、自由な立場でサービスを提供したいと考える人もいるでしょう。もちろんその場合は、事業者にとってのメリットがそのままデメリットになるというリスクはありますが。


 使用する人員を、展開させる(あるいは現に展開している)事業の中でどのように位置づけるか、具体的にイメージすることが大切といえます。例えば、家族的な規模・共同体で成り立っている事業であれば、自ずと人的関係が密になる分、使用形態は雇用にシフトしていきますし、逆にある程度の規模で、多様な人材を、高い自由度を与えて使っていく形で展開するのであれば、請負や業務委託で構わないでしょう。当然使われる側も、さまざまな事業者と契約し、見切りをつけた相手からはさっさと離れていけますから、労働保険や残業代、有給休暇がなくとも、トラブルになる可能性は少ないといえます。


 要するに、使用される側にとって、メリット・デメリットのバランスが取れていれば良いのだと思います。ある契約が、使用される側にとって「使い捨て」と映るか、「自分の力量次第の自由な契約」と映るかは、そのバランス次第でしょう。


 本稿執筆後の平成24年11月、(株)ソクハイで働くメッセンジャーについて、労組法上の労働者に該当するとした判決が出されました(東京地裁平成24年11月15日判決)。これは、本稿で解説した東京地裁平成22年4月28日判決(労基法上の労働者に該当するかが争点)とは別事件です。今後は、平成22年の判決だけでなく、平成24年の判決も踏まえて、労働者性を検討する必要があります。


氏名:今泉亜希子

弁護士登録年・弁護士会:
2000年弁護士登録、東京弁護士会所属

学歴:
1996年立教大学法学部卒業

得意分野等:
中小企業に関する企業法務一般、医療事件

所属事務所:
倫総合法律事務所 http://www.rinsogo.com/

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