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商取引の基礎知識(2)ホテル内での荷物の紛失―約款の限界

テーマ:契約・取引

2011年5月12日

解説者

弁護士 島岡清美

 前回は、ホテルが客の荷物に対して商法上負う責任、これに対する約款や商法上の特則による免責等を見たうえで、これらの約款や特則による免責等がホテルに重過失がある場合にも認められるかというところで終わりました。
 今回は、この点が問題になった判例を見てみたいと思います。


【事案の概要】

 事案の概要は次のとおりです。


 都内のとある宝石会社の社長は、地方の展示場で開催される宝飾展に商品展示をすることになり、ボストンバック二つとダンボール一箱に宝飾品をつめて持参し、展示場へ赴きました。現地での打ち合わせの結果、バッグに入れてきた宝石だけを展示することになり、ダンボールに入れていた分は東京へ返送することになりました。


 社長は、その日は展示場近くのホテルに泊まることにし、バッグとダンボールをホテルへ持ち帰り、ボーイさんにバッグ二つは部屋へ運び、ダンボールは東京へ宅配便で送るようにお願いをしました。
 指示を受けたボーイさんは、バッグ二つはホテルの1階フロアに置いておき、まずダンボールを宅配便で発送する手続をしました。ところが、その手続をしている間、バッグ二つが何者かに盗まれてしまったのです。


 バッグ二つに入っていた宝飾品の価格は2800万円もするものでした。さて、社長はホテルに対し2800万円の損害を被ったとして賠償請求できるでしょうか?


【約款】

 このホテルには次のような約款がありました。


 「宿泊客が当ホテル内にお持込になった物品又は現金並びに貴重品であって、フロントにお預けにならなかったものについて、当ホテルの故意又は過失により滅失、毀損等の損害が生じたときは、当ホテルは、その損害を賠償します。ただし、宿泊客からあらかじめ種類及び価額の明告のなかったものについては、15万円を限度として当ホテルはその損害を賠償します。」


 この約款によれば、社長は宝飾品であることと、それが2800万円相当であることを告げていないので、但書によってその賠償額は15万円までということになりそうです。しかも、但書には、重過失を除外する文言がないので、重過失があっても(ほんの少し注意すれば防げたものを注意しなかったということ)15万円で済むことになりそうです。


 ホテルとしては、2800万円もする宝飾品が入っているならそう言って欲しいと思いますよね。ボーイさんも、着替え等が入っているだけのものと思って特段の注意をしなかったのかもしれません。それなのに、あとから、実は高価なものだったといって賠償請求されても、応じたくないのもわかります。


 しかし、普通の荷物だったとしても、ホテルの1階に置き去りにするというのはどうなのでしょうか?15万円で済まされていいのでしょうか?という疑問も沸きます。


 みなさんは、どういう結論が妥当だと思われるでしょうか?


【最高裁の判断】

 裁判所の判断は分かれました。


 高裁では、上記約款は、高価品であることの明告がない場合には、ホテル側に注意を期待するのは酷であることから、損害賠償義務の範囲を制限したものであり、その趣旨と文言の中に重過失を除外する規定がないことを考慮すると、重過失がある場合にも適用されると判断しました。ホテルは15万円を支払えば済むということです。


 しかし、最高裁は、約款の趣旨は同様に解しながらも、その趣旨に鑑みたとしても、重過失がある場合に責任を制限することは「著しく衡平を害する」ものであって、「当事者の通常の意思に合致しない」から、重過失がある場合には適用されないと判断し、重過失があるかどうかを審理するようにといって高裁の判決を破棄して差し戻しました。


 つまり、ホテル側に重過失がある場合には、2800万円もする宝飾品であることを知らされていなくとも、ホテルはその紛失に対して損害賠償責任を負うということなのです(もちろん、社長の方にも落ち度はあるので、過失相殺はされると思いますが)。


 また、今回は約款の事例でしたが、商法の高価品の特則が問題になる場合にも、同じように重過失がある場合には免責されないということになるでしょう。


【約款の限界】

 やはり、いくら約款で定めていても、また、法律上の特則があっても、商いをする者として最低限の注意義務を果たさなければ、法や約款による保護は受けられないということなのでしょう。ある意味当然のことを最高裁は示したのかもしれません。


 約款があるというと、すべてそれで結論が決まってしまうように思えます。また、約款さえ決めておけば、すべてのリスクは回避できるようにも思えますが、それがすべてではないということを、日常の業務にあたって、よく頭に入れておかなければいけないということなのだと思います。


 参考までに、国土交通省が作成しているモデル宿泊約款の寄託物の条文をご紹介します。


 「宿泊客が、当館内にお持込みになった物品又は現金並びに貴重品であってフロントにお預けにならなかったものについて、当館の故意又は過失により滅失、毀損等の損害が生じたときは、当館は、その損害を賠償します。ただし、宿泊客からあらかじめ種類及び価額の明告のなかったものについては、当館に故意又は重大な過失がある場合を除き、***万円を限度として当館はその損害を賠償します。」


 きちんと「故意又は重大な過失がある場合を除き」となっていますね。


 次回は、運送人の責任について見ていきたいと思います。


氏名:島岡清美

生年:1973年生

弁護士登録年・弁護士会:
2002年弁護士登録、東京弁護士会所属

学歴:
1996年3月 中央大学法学部卒業

得意分野等:
多種多様な事件を手がけておりますが、基本的には、社会から理解されないことによって苦しんでいる方の手助けをすることが多いです。これまでの経験において比較的取扱いの多い業務分野あるいは特徴的な分野を挙げるとこのようになります。
 ・一般民事事件(賃貸借、請負、貸金、売買、不法行為等)
 ・企業法務(契約書作成・確認、法務相談への対応等)
 ・離婚、婚姻費用分担、DV(保護命令申立)、セクハラ訴訟
 ・刑事事件(示談交渉、刑事弁護、被害者参加)
 ・農地法関係(行政との交渉等)
 ・子どもの人権関係(体罰事件、親子関係不存在確認訴訟等)
 ・児童福祉法関係(児童相談所と親権者との関係調整、行政不服審査請求手続等)
 ・破産、個人再生、任意整理

所属事務所:
堀法律事務所 http://hori-laws.jp/

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