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「労働者」性について―最近の裁判例から(2)

テーマ:採用・雇用

2011年4月28日

解説者

弁護士 今泉亜希子

【ソクハイ事件について】

 前回は、事業主が使用する他人が労働基準法上の「労働者」である場合とそうでない場合の法律上の違いについての話や、また、「労働者」といえるかどうかは、単に契約の形式や内容で決まるのでなく、具体的な労務提供関係の実態に照らして判断されるという話をしました。
 では、どのような実態があれば「労働者」といえるのでしょうか。
 「ソクハイ事件」において、裁判所は、労働者性の判断にあたり、(1)契約の形式や内容と併せて、(2)労務の提供について「使用従属性があるかどうか」と、(3)報酬の支払いについて「労務対償性があるかどうか」という三つのポイントを示しました。
 本件では、労働者性は二つの側面で争われています。一つはメッセンジャーとしての原告が労働基準法上の労働者か、もう一つは営業所の所長としての原告が労働基準法上の労働者か、です。
 まずは前者について、先ほど裁判所が示した三つのポイントを中心に検討していきます。


【メッセンジャーの労働者性】

(1)契約の形式や内容

 ソクハイ事件において、会社とメッセンジャーとは「運送請負契約」という契約を締結し、その内容は運送業務の請負に関する取り決めを定めていました。この点は一応「労働者」性を否定する材料となりますが、重要なのは以下の(2)と(3)です。


(2)使用従属性の有無

 裁判所の認定によれば、メッセンジャーの稼働日は、一定の日が決まっているわけではなく、メッセンジャー自らが決定する上、稼働日において、営業所への来所は義務づけられていません。また、稼働時間帯もメッセンジャー自身が決めており、かつ個別の配送依頼に対しても、諾否の自由がありました。
 会社からの指揮命令等についても、メッセンジャーに対する業務マニュアルや研修の存在、配送指示等があったことは認められますが、これらは配送業務が請負や業務委託である場合にも必要で、労働基準法上の労働者であることを基礎づける指揮命令をしているとはいえず、さらに、メッセンジャーは会社から時間的、場所的拘束も受けておらず、結論として使用従属性は認められないと判断されました。


(3)報酬の労務対償性の有無

 メッセンジャー報酬は、「引き受けた配送業務に係る各月の配送料金の合計額に歩合を乗じて定まるものであり、メッセンジャーが配送業務に従事した時間や配送の具体的内容などの事情に対応して定まる体制にはなっていない」という、いわゆる「出来高払い式」により定まっているため、労務対償性はないとされました。


(4)その他

 また、メッセンジャーは配送業務時の服、自転車や携帯電話などは自己負担で用意しており、報酬については事業所得として確定申告していること、雇用保険や労災に加入していないこと、兼業が認められていることなどが個人事業者性を裏付けるとされました。


(5)結論

 以上より、メッセンジャーとしての原告は労働基準法上の「労働者」には該当せず、景気の低迷により即配便の依頼件数が減少したことを理由とする稼働停止通告は有効であると判断されました。


【所長の労働者性】

 これに対し、所長としての業務については、所長の労務提供関係及び手当の支払いについての実態を基に、(2)使用従属性については、(a)所長業務の諾否の自由はなかったこと、(b)所長業務(メッセンジャーの指導を含む管理、営業所の管理など)について、会社の基本的な指揮命令の下で行っていたと認められること、(c)時間的・場所的拘束もあったこと、(d)所長業務については完全な代替性はないことなどから、認められると判断されました。
 また、(3)労務対償性についても、所長手当は毎月一定額が支払われ、源泉徴収がされていたことなどから、賃金としての性格を有すると判断され、結論として、所長については労働基準法上の「労働者」に該当すると認定されました。(なお、所長職については、別途契約書は作成されていませんでした)
 所長が「労働者」である以上、所長解任通告は解雇の意思表示に該当しますので、「客観的に合理的な理由」があり、「社会通念上相当である」と認められなければ有効とはいえません(労働契約法16条参照)。
 本事案ではそのような事情はなく、解任通告は無効であると判断されました(もっとも、その後の事情で結果的に契約そのものの解除は認められてしまいましたが)。


【通達等との関係】

 実はメッセンジャーについては、本判決よりも前に、労働基準法9条の労働者に当たると解されるという厚生労働省労働基準局長による通達(平成19年9月27日付厚生労働省労働基準局長基発第0927004号)が出されていました。
 また本事件そのものについても、今回の判決よりも前に、平成21年7月15日付で中央労働委員会(以下「中労委」)の命令(平成21年(不再)第21号)も交付されており、当該命令においては、メッセンジャーは「労働組合法上の労働者」に該当すると判断されています(「労働基準法上の」ではないところに注意)。
 一見すると、本判決はこの通達や中労委の命令とは矛盾するようにも見えます。次回はこの通達や中労委の命令との関係について、もう少し掘り下げてみたいと思います。


 本稿執筆後の平成24年11月、(株)ソクハイで働くメッセンジャーについて、労組法上の労働者に該当するとした判決が出されました(東京地裁平成24年11月15日判決)。これは、本稿で解説した東京地裁平成22年4月28日判決(労基法上の労働者に該当するかが争点)とは別事件です。今後は、平成22年の判決だけでなく、平成24年の判決も踏まえて、労働者性を検討する必要があります。


氏名:今泉亜希子

弁護士登録年・弁護士会:
2000年弁護士登録、東京弁護士会所属

学歴:
1996年立教大学法学部卒業

得意分野等:
中小企業に関する企業法務一般、医療事件

所属事務所:
倫総合法律事務所 http://www.rinsogo.com/

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