本文とサイドメニューへジャンプするためのナビゲーションスキップです。

トップページ  >  経営をよくする  >  法律コラム

特集一覧 中小企業に役立つ記事や施策をトピックスごとにまとめています。

慰謝料の相場?

テーマ:契約・取引

2005年6月16日

解説者

弁護士 小川義龍

1、FAQとしての慰謝料

法律相談を受けていると、「ありがちな相談」というものが存在することが分かる。ネット風にいえばFAQ(= frequently asked questions;よくある質問)というやつだ。
このありがちな相談のうち、ベスト3に入るのが、損害賠償金の相場を問うものだ。とりわけ、いくらの慰謝料を請求できるのかという質問が一番多い。
慰謝料とは、精神的損害に対する金銭的評価のことだ。物質的に目に見える損害は、いわゆる見積もりが出る類の損害であって客観的な評価になじみやすいが、精神的な損害のごとく目に見えない損害は、客観的な評価は難しい。
そこで、慰謝料の相場はいくらかという疑問に至るのはもっともだ。自分のこの《心の傷》を癒すのはいくらかという疑問だ。


2、慰謝料請求の相場はない

実は、慰謝料を請求するのに、これといった金額の決まりはない。精神的損害に対する金銭的評価が慰謝料だから、当の本人がいくらだと決めればいいのだ。同じ心の傷を負っても、ある人はそれを100万円と評価して請求し、別の人はそれを1億円と評価して請求することで全く構わない。心の傷を慰謝する金額は、千差万別であってしかるべきだからだ。
だから、「先生、いくらの慰謝料を請求したらいいでしょうか」と質問された場合には、「どうぞ、お好きなだけ」と答えることにしている。そして、お好きなだけ請求して、相手がこれを受け入れて支払ってくれば、堂々と受け取ってしまって良いのだ。これが慰謝料だ。


3、しかし請求しただけ払ってくるとは限らない・・・?

このように慰謝料は人によって千差万別なのでいくら請求しようと自由であったとしても、請求を受けた相手が支払いを拒否した場合にはどうなるだろうか。
当事者間で「払え」「イヤだ」「払え」「高すぎる」と押し問答を繰り返していても解決できないことが殆どだろうから、つまるところ裁判所に判断してもらうことになる。そして裁判所が慰謝料の金額を判断する場合には、訴えた人によって千差万別の判断をするわけではない。事案によってブレがあるにせよ、「言い値」の判断は行わない。つまり、同じような事案であれば、100万円の請求をした人でも、1億円の請求をした人でも、裁判所は同じような額の慰謝料が相当だと判断するわけだ。
このような意味で、慰謝料には相場がある。例えば、交通事故で一家の大黒柱が失われたような場合の慰謝料の相場は、2800万円程度だ。例えば、配偶者の浮気で離婚に至った場合の慰謝料は、せいぜい3〜400万円程度だ。ちょっとした名誉毀損が行われた場合の慰謝料は100万円程度までのことが多い。ここで一例を挙げた慰謝料の相場は、過去の裁判例の平均値的なもので、弁護士の経験による相場感でもある。だから、交通事故の慰謝料は2800万円と決まったものでもないし、離婚慰謝料が3〜400万円と決まったものでもない。あくまでも一般的な相場感として、その程度という感覚にすぎない。
結局、慰謝料を請求する段階で相場などあり得ないのだが、額の争いが起こった場合には裁判所が決めるしかなく、その裁判所が決める慰謝料は過去の判例から平均化される相場が存しているわけだ。そうすると、例えば、離婚慰謝料として1億円請求したいと思っていたとしても、相手がこれを受け入れそうもなければ、どうせ裁判所が適正額を決めることになり、その額は平均して3〜400万円くらいであれば、1億円の請求などしても意味がないということになろう。


4、慰謝料は常に請求できるわけではない

慰謝料の相場はつまり過去の判例に基づく平均値だということは以上でおわかりになっただろうか。
ところで、《心に傷》を負えば常に慰謝料を請求できるかといえば、そうではない。慰謝料を請求できる場面は、相当ハイレベルな傷心の場合に限られているのが現実だ。具体的には、事故で肉親を亡くしたり、怪我を負ったり、名誉を毀損されたり、離婚せざるを得なくなったり、このような普通の社会生活では滅多に経験しないような傷心の場合に請求できるのだ。以前、「損害賠償とは何か?」というテーマでお話をさせて頂いたが、損害賠償の考え方は実損を填補するという考え方だ。したがって、10人中10人が確実に心に深い傷を負う(=実損の発生)という事案でなければ慰謝料を認めないわけだ。
だから、「約束どおりお金を払ってくれないので気分を害した。慰謝料請求したい」とか、「駐車場で愛車に傷を付けられた。慰謝料請求したい」といった相談もありがちだが、この場合に慰謝料は認められない。もちろん、請求する分には自由だ。しかし相手がこれを受け入れて支払ってくることはまずありえず、払ってこなければ裁判所に判断してもらうことになる。このような場合に裁判所は慰謝料請求を認めない。したがって慰謝料請求するだけムダだ。


5、企業活動で慰謝料が発生する場面は少ない

そうすると企業活動や商取引の場面で、慰謝料問題に発展することはあまり想定できない。確かに取引上「頭に来る」場面はあろう。しかし、頭に来たからといって慰謝料が請求できるわけではない。実損が発生したものに関して損害賠償請求できる以上に、頭に来たことそのものを填補させることはできないので、商取引では慰謝料請求は出来ないのが普通だということになる。
ただ、例えば今年から立法化された個人情報保護法に反して個人情報を漏洩してしまったとか、企業活動で相手先の会社の経済的信用を毀損してしまったとか、そのようなケースでは慰謝料問題に発展する可能性はありうる。慢心しないよう注意されたい。


(2005年6月執筆)


小川義龍
昭和39年生  東京都出身
東京都千代田区立番町小、同区立麹町中卒
早稲田大学高等学院卒(昭和58年)
早稲田大学法学部卒(昭和62年)
司法試験合格(平成3年)
最高裁判所 司法研修所 46期修了
弁護士登録(東京弁護士会所属)

東京弁護士会
常議員(平成7年度)
広報室 嘱託(平成13年度〜)
広報委員会 副委員長(平成9、10年度)
広告調査委員会 副委員長(平成13年度)
インターネット協議会 副議長(平成9年度)
業務改革委員会 コンピュータ部会長(平成12年度〜)
司法修習委員会、財務委員会、刑事弁護委員会 各委員
法友全期会副代表幹事(平成14年度)
春秋会(法友8部)事務局長(平成15年度)

 東京商工会議所 法律相談員(平成9年度・荒川支部)
 東京弁護士会 クレサラ・商工ローン闇金相談担当(四谷・神田センター)
 財団法人クレジットカウンセリング協会 カウンセラー(平成11年度〜)
 財団法人法律扶助協会新宿支部審査員(平成12年度〜)
 日本弁護士連合会 法務研究財団事務局(情報部会担当)
 早稲田経営学院(Wセミナー)専任講師(刑事訴訟法)
 日本刑事政策研究会(法務省)正会員
 東京弁護士会インターネット法律研究部部会員

著書・講演等
 「法律事務所のためのパソコン導入大作戦」(株式会社トール刊)
 「弁護士のための広告のススメ」(株式会社トール刊)
 「弁護士のためのパソコン導入ガイド」(東京弁護士会法友会刊)
 「パソコン事件簿」(月刊DOS/V Special連載・毎日コミュニケーションズ)
 「最新現代法務全集」第4巻・債権回収(全日法規研究室)
 「困ったときにすぐわかる 内容証明の書き方・出し方」(OS出版)
 「困ったときにすぐわかる インターネットの法律(仮題)」(近刊予定)
 「中小企業のための倒産回避マニュアル(仮題)」(近刊予定)

 「破産と会社更生手続の概要」
   ※厚生労働省 労働研修所での講義(平成14年度より)
 「法律の基礎」 「コンプライアンス」 「借地借家法」 「インターネット法務」
   ※いずれも大手上場企業での定期公演
 「若者の破産」 「非弁提携弁護士被害」その他
   ※フジTV「スーパーニュース」出演

同テーマの記事を見る 3つのコンテンツから検索ができます!

このページの先頭へ

このページの先頭へ