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人事・労務の基礎(1) 自社の就業規則を知っていますか?

テーマ:労務一般

2009年10月 8日

解説者

弁護士 石井邦尚

1.就業規則は会社の憲法

 就業規則は労働条件や職場規律などを定めたもので、使用者(会社)も労働者(従業員)も第一に遵守しなければならないものです。その意味で「会社の憲法」と称されることもあります。
 就業規則は対象となる従業員に一律に適用されます。一般に、企業秩序を維持し、効率的に経営するためには、従業員の統一的な取り扱いは不可欠といえるでしょう。
 この「憲法」たる就業規則が経営規模や業務内容など会社の実態にあっていなければ、日常業務に支障を来しかねません。「うちは普段就業規則なんか全く気にしていないけど、何の問題も起きていないよ」という会社でも、ひとたび従業員とトラブルが起きれば、就業規則に従って解決されることになります。これから述べる例のように、そこで思ってもいなかった結果となる可能性があります。


2.モデル就業規則を使っているから大丈夫?

 各種の書籍やインターネットなどを通じて、簡単に「モデル就業規則」を手に入れることができます。それをそのまま使っている会社も少なくないようです。
 しかしながら、「モデル就業規則を使っているから大丈夫」という考え方は危険です。
 就業規則に記載すべき事項は法律で決められています(労働基準法89条)。きちんと作られた「モデル就業規則」では、これらの事項をカバーしているでしょうし、労働基準法などの強行法規に反するような定めもしていないでしょう(ただし、古いモデル就業規則では、その後の法律改正に対応していない可能性があるので注意が必要です)。


 ところが、就業規則には法律に定められていないこと(すなわち記載しなくてもよいこと)を記載することもできますし、法律の要求よりも従業員に有利な条件を定めることもできます。実際にそうした例は数多くありますし、モデル就業規則でも、そのような定めを含む例の方がむしろ一般的といえます。
 このような例として、よく挙げられるのが、「休職」についての規定です。「休職」は、従業員を就労させることが不能または不適当な事由が生じた場合に、その従業員との労働契約関係を維持しながら、就労を一時的に免除または禁止するという制度です。
 法律では休職の制度を設けることは要求されておらず、就業規則に記載する必要はありません。とはいえ、使用者(会社)から休職命令を出せるようにしたり、私傷病などの場合の退職手続きをスムーズに進めるなどのために、休職について就業規則に定めることが望ましいと私は考えています。


 しかし、問題なのはその内容です。「モデル就業規則」によっては、一般の中小企業の実情にあわないような長期間の休職期間が定められているものがあります。また、休職となる事由として、「刑事事件で起訴されたとき」を含めている例も少なくありませんが、これも法律で要求されているものではありませんし、一般の中小企業の実情にはあわないように思えます。
 慶弔休暇や年末年始・夏期の休日も、法律で要求されているものではありません。これらを就業規則に定めることは一般的ですし、私もそうした方がよいと思いますが、不相当に長い期間を安易に定めてしまうのは問題です。創業期に大盤振る舞いをしてしまう例もあるようですが、業務量が増えて忙しくなったり、授業員が増えた後でも、就業規則の変更をしない限り、全従業員に一律に適用されてしまいます。将来の会社の成長も見越した内容にしておくことが肝心です。


3.就業規則が適用されるのは正社員だけ?

 就業規則には、一般に次のような条項が定められています。


第 条 (適用範囲)
1 この規則は、本就業規則に定める採用に関する手続きを経て会社に採用された従業員に適用する。
2 次に定める者の就業規則については、別に定める。
 (1)期間雇用者
 (2)パートタイマー
 (3)契約社員

 2項にあるように、これは、期間雇用者やパートタイマー、契約社員のための就業規則を別に作成することが前提となっています。しかし、就業規則でこのように定めながら、パートタイマーなどの就業規則を作っていない会社は少なくありません。
 この場合、単にパートタイマー等には就業規則がないと扱われるのでしょうか?それとも、正社員用の就業規則が適用されるのでしょうか?
 これについては、特に「退職金」を巡ってトラブルになる事例が多いようです。
 単にパートタイマー等には就業規則がないと扱われるのであれば、退職金の定めがないのだから、パートタイマー等には退職金を支払う必要がないということになるでしょう。しかし、上記のような条項を定めていても、パートタイマー等のための就業規則を別途作っていない場合は、正社員の就業規則がそのまま適用されると解釈されることが一般的です。そうすると、退職金規程がある場合は、会社としては正社員を想定して設けた制度であったとしても、それがパートタイマー等にも適用され、退職金を支払わなければならなくなります。
 特にモデル就業規則をそのまま利用している会社は注意が必要です。


4.契約書を作っているから大丈夫?

 「とりあえずモデル就業規則をそのまま流用しておいたけど、うちの会社は労働契約書をきちんと作って労働条件などを明確に定めているから大丈夫だ」という考えは正しいでしょうか?
 使用者(会社)と従業員との契約は、一般の契約とは扱いが異なります。法律により、労働契約でどのように労働条件を定めていても、それが就業規則に定める条件を下回る場合は、その部分が無効となり、就業規則が適用されてしまうのです。つまり、就業規則に定める各条件と労働契約に定める各条件のうち、例えば、特別休暇と退職金は就業規則の方が有利だからそちらを適用し、給料は契約の方が有利だから契約を適用するなど、従業員に有利な方が適用されるのです。
 したがって、契約書があれば大丈夫という考え方は成り立ちません。特別な理由がある場合は別ですが、契約書の内容と就業規則の内容が異なるようなことがないよう、注意が必要です。


5.最後に

 就業規則は会社にとって非常に重要なものです。最近は労働審判も定着し、会社と従業員のトラブルが裁判所に持ち込まれる事例も増えています。トラブルを未然に防ぐためにも、特に中小委企業の会社経営者は、きちんと内容を把握し、必要があれば専門家の意見も聞きながら見直すことが必要となります。


(2009年10月作成)


氏名:石井邦尚

生年:1972年生

弁護士登録年・弁護士会:
1999年弁護士登録、第二東京弁護士会所属

学歴:
1997年東京大学法学部卒業、2003年コロンビア大学ロースクールLL.M.コース修了

得意分野等:
米国留学から帰国後に「挑戦する人(企業)の身近なパートナー」となるべくリーバマン法律事務所を設立、IT関連事業の法務を中心とした企業法務、新設企業・新規事業支援、知的財産などを主に取り扱う。留学経験を活かし、国際的な視点も重視しながら、ビジネスで日々発生する新しい法律問題に積極的に取り組んでいる。

所属事務所:
リーバマン法律事務所 http://www.rbmlaw.jp/

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