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法律コラム


[取引・債権回収|2011年4月14日]
弁護士 島岡清美

商取引の基礎知識(1)ホテル内での荷物の紛失―商法はどうなっているか?

弁護士 島岡清美

 商取引を規律する基本的な法律として商法があります。しかし、その規定のほとんどは任意規定といって、契約で別段の定めをすれば契約が優先するものです。そのため、意外と商法の規定については世の中に知られていない部分が多いように思います。

 しかし、どんな取引でもいつも別段の約定を交わしているとは限りません。そんなときには、結局法律ではどうなっているのか、商法ではどういった規律をしているのかということに戻ることになります。また逆に言えば、商法の規定を知ることによって有効な約款を作成することができるともいえます。
 そのため、会社法務において、商法で商行為がどのように規律されているのかを知っておくことに損はないように思います。
 ただ一方で、いくら契約や約款で定めていても、法の精神がそれを許さない場合には契約や約款の適用が否定される場合もあります。

 そこで、これから商法の商行為編の中から、比較的身近な「寄託」、「運送営業(物品運送)」などについて、商法においてどんな規律がされているのかを見ていきたいと思います。
 今回は、まず寄託からお話します。

【商法の規定】

1.商人であることによる責任の過重

 商人は、営業の範囲内において他人から物を預かったときは、無償であっても善良なる管理者の注意義務(商法593条)をもって管理しなければなりません。一般人であれば、無償の寄託の場合は特別な注意義務が要求されないことと比べると(民法659条「自己の物におけるのと同一の注意」)、責任を重くされているといえます。

 さらに、それがホテルや温泉宿、浴場など多数の人が出入りする場所(これを商法では「場屋」(ジョウオク)といいます)となると、盗難や紛失の危険が高まるので、商法は保管する側にさらに重い責任を課しています。

2.場屋の主人に対する責任の過重

(1)預かったもの

 たとえば、商法594条1項は「旅店、飲食店、浴場その他客の来集を目的とする場屋の主人は、客より寄託を受けたる物品の滅失または毀損につきその不可抗力によりたることを証明するにあらざれば損害賠償の責を免れることを得ず」と規定しています。

 ここにいう「不可抗力」とは、一般的には「事業の外部から発生した出来事で、通常必要と認められる予防方法を尽くしても、なお防止できないような事故」をいうと解釈されています。
 したがって、客から物を預かる場合には、考えられるあらゆる防止策を講じていないと、万一の紛失盗難の場合、賠償責任を問われることになるといえます。

(2)客の持ち物

 では、ホテルで特段に預かっていない、客の持ち物はどうでしょうか。それが紛失したとしても、預かってもいない物なのだから、客の自己責任のようにも思えます。

 しかし、商法は594条2項で「客が特に寄託せざる物品といえども場屋中に携帯したる物品が場屋の主人又はその使用人の不注意によって滅失または毀損したるときは場屋の主人は損害賠償の責に任ず」と規定しています。

 ホテル側は、預かった物でなくとも、ホテル内において客の荷物が滅失毀損しないように、善良なる管理者の注意義務をもって管理する必要があり、これを怠ったがために紛失したような場合には損害賠償責任が生じるのです。

(3)張り紙による告知

 こうなると、預かったものならいざ知らず、客が自分で持っていた物まで滅失毀損の責任を負わせられるのはたまったものではなく、約款や張り紙で、預かった物以外は責任を負いませんと言っておきたくなります。

 しかし、商法は594条3項で「客の携帯品につき責任を負わざる旨を告示したるときといえども場屋の主人は前2項の責任を免れることを得ず」としっかり規定しています。 したがって、「お預けにならなかった物について紛失等をされても、当旅館は一切責任を負いません」などと張り紙をしたところで、意味はないということになります。

 では、約款はどうでしょうか。 これについては、当事者間の合意事項として、商法594条は任意規定ですので、責任免除や制限をすることは可能であり、原則として有効です。張り紙は一方的な告示に過ぎず、契約になりませんが、約款となれば当事者の意思により別段の定めをすることになるので、効力が認められるのです。

 したがって、思わぬ高額な賠償責任を負うことを避けるためには、約款で責任の免除や限定(責任限度額)を定めておくことが有効ということになります。ただ、責任の免除というのはあまりに片面的であり、合理性もない(当事者間の合理的意思に合致しない)ので、実際には免責ではなく責任を限定する約款が多いようです。

3.高価品の特則

 また、紛失したものが高価品であった場合には、商法に特則があります。
 595条は「貨幣、有価証券その他の高価品については客がその種類及び価額を明告してこれを前条の場屋の主人に寄託したるにあらざればその場屋の主人はその物品の滅失または毀損により生じたる損害を賠償する責に任ぜず」と規定し、高価品の場合、客が予め種類とその価額を明らかに告げておくのでなければ、ホテル側は賠償責任を負わないことになっています。

 ホテル側にとっても、高価品であることがわかっていれば、それ相応の注意をすることができますし、高価品であることを知らない場合にまで高額な賠償責任を負わせることは酷になるので、このような規定が設けられているのです。

【故意・重過失のある場合】

 このように、商法はホテル側に対し、客の荷物について重い管理責任を課しているのですが、それは約款によって軽減させることが可能ですし、また、商法自身にも高価品の場合には責任を免除する規定があります。

 しかし、これらの約款や特則の恩恵は、どんな場合でも受けられるものでしょうか。たとえば高価品の特則は、条文だけみると、ホテルに故意がある場合でも、客側が高価品であることの明示をしていなければホテルが免責されるように見えますが、それで良いのでしょうか。あるいは、故意とまではいえないけれども重過失(ほんの少し注意すれば防げたのにその注意を払わなかったこと)があった場合はどうでしょうか?やっぱり明示がなければ一切責任を負わないことになるのでしょうか?

 同じことは約款についても言うことができます。約款で責任制限を定めていれば、損害の発生原因がホテルの故意や重過失であっても、責任を軽減されることになるのでしょうか?

 この点、さすがに故意がある場合にまで免責等は認められないのは当然であり、一般的にそのように解釈がされています。問題は重過失の場合です。
 次回はこの点が問題になった実際の判例を見ていきたいと思います。

氏名:島岡清美

生年:1973年生

弁護士登録年・弁護士会:
2002年弁護士登録、東京弁護士会所属

学歴:
1996年3月 中央大学法学部卒業

得意分野等:
多種多様な事件を手がけておりますが、基本的には、社会から理解されないことによって苦しんでいる方の手助けをすることが多いです。これまでの経験において比較的取扱いの多い業務分野あるいは特徴的な分野を挙げるとこのようになります。
 ・一般民事事件(賃貸借、請負、貸金、売買、不法行為等)
 ・企業法務(契約書作成・確認、法務相談への対応等)
 ・離婚、婚姻費用分担、DV(保護命令申立)、セクハラ訴訟
 ・刑事事件(示談交渉、刑事弁護、被害者参加)
 ・農地法関係(行政との交渉等)
 ・子どもの人権関係(体罰事件、親子関係不存在確認訴訟等)
 ・児童福祉法関係(児童相談所と親権者との関係調整、行政不服審査請求手続等)
 ・破産、個人再生、任意整理

所属事務所:
堀法律事務所 http://hori-laws.jp/

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