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インターネット上の発言と法的責任:加害者の特定(1)

テーマ:ブログ・SNS

2011年3月 3日

解説者

弁護士 石井邦尚

 前回までに、インターネット上の発言等について、名誉毀損など、損害賠償や差止等の法的責任が発生する場合を解説してきました。それでは、自分(自社)がインターネット上の発言等による被害者となったとき、どうすればよいのでしょうか。


 加害者に対して損害賠償などを求めるには、まず加害者=掲示板に投稿した人等を特定する必要があります。ところが、インターネットの特徴としてよく匿名性が挙げられています。そもそも、掲示板や動画共有サイトに投稿した人を特定することは可能なのでしょうか。


【京都大学入試事件など】

 現在、京都大学の入試などで、試験時間中に試験問題をインターネットの質問掲示板に投稿して、その解答を募った事件が波紋を呼んでいます。報道によると、警察は偽計業務妨害罪の容疑で捜査を行っているとのことです。
 この事件では、試験時間中に携帯電話などを使って、自ら直接、ネット掲示板に投稿を行ったか、あるいは外部の協力者に試験問題を撮影した映像を送信し、協力者がネット掲示板に投稿を行ったかのいずれかであろうと推測されています。


 いずれにせよ、まずはネット掲示板に投稿したのは誰なのかを特定することが必要になります。
 そして、既にインターネット掲示板への投稿に使われた携帯電話が特定され、その携帯電話の契約者も特定されたと報道されています。しかし、よくインターネットの匿名性が言われているのに、どのようにして特定したのか、疑問に思った方もいるのではないでしょうか。


 また、昨年の尖閣諸島での中国漁船衝突事件の映像がインターネット動画共有サイトに投稿されたという事件でも、間もなくして、動画サイトへの投稿が神戸市のインターネット・カフェから行われたと特定されました。この事件でも同じような疑問を持たれた方がいるのではないでしょうか。


【技術的に匿名か?】

 実は、技術的な意味では、インターネットの匿名性というのは限定的です。むしろ、電話や郵便といった既存の技術・制度を用いた方が匿名性が高いと言えるような場合もあります。


 例えば、Webサイトの訪問、ネット掲示板での書き込み、動画共有サイトへの動画の投稿などを行ったとき、それらを管理するWebサーバ側に自分のパソコンや携帯電話などのIPアドレスが送信されます。IPアドレスというのは、インターネットにつながっているパソコンなどのいわば住所を示すものです(数字の羅列になるので、よく緯度・経度に喩えられます)。これがわからないと、サーバ側ではどのパソコン等に情報を送ればよいかもわからないので、まずパソコン等からIPアドレスが送信される必要があるのです。ネット掲示板等では、このIPアドレスの記録を一定期間保存していることが一般的です。


 このIPアドレスから、投稿に使われたパソコン等の特定あるいはパソコン等がインターネットに接続した経路(どのプロバイダから接続されているのか、どこの家の回線から接続されたか、など)の特定が可能となります。これをたどっていけば、ある程度投稿がなされた経路を特定していくことが可能になります。


 京都大学入試の事件では、おそらく警察は、まずネット掲示板の運営会社からネット掲示板になされた投稿についてのIPアドレスを特定・入手したはずです。そして、現時点での報道からすると、そのIPアドレスからどの携帯電話会社の携帯電話が用いられたかが特定され、そして携帯電話会社を通じて投稿に使われた携帯電話を特定し、その携帯電話の契約者に関する情報を入手したものと思われます。


 このように、技術的にはネット掲示板への投稿等に使われたパソコンなどをある程度特定していくことが可能です。とはいえ、尖閣ビデオ流出事件のように、インターネット・カフェなど不特定の者が利用するパソコンが用いられたような場合は、そこから先で実際に誰がそのパソコンを用いて投稿を行ったのかということは、通常の事件での犯人・容疑者の特定と同じように、地道に捜査していくしかありません。もっともこれは、公衆電話が利用されたり、郵便が使われたりしたような場合でも同様で、インターネットに限られたことではありません。


 なお、できるだけIPアドレス等を通じて特定されないような方法もいろいろと考えられるところですが(例えば、インターネット・カフェの利用もその一つです)、解説は差し控えます。


【通信の秘密】

 IPアドレスにより、ネット掲示板への投稿者などを特定することができると聞いて、不安に感じた方もいると思います。
 しかし、技術的にはともかく、実際には自由にできるようなことではなく、そんなに簡単ではありません。
 京都大学入試の事件の報道をよく読むと、警察が裁判所の令状を得ながらIPアドレスの取得や携帯電話会社の契約者情報を得ていると考えられることがわかります。


 電気通信事業者などには法律によって通信の秘密を守る義務が課されており、プロバイダや携帯電話会社などは、警察などの捜査機関からの要請であっても、通信の秘密を遵守して、あるIPアドレスに関する情報等を提供することはしないのが通常です。警察であっても、裁判所の令状を得ないと情報を入手することができないのです。この通信の秘密が、インターネットの「匿名性」を制度的に担保していると言えます。


 ましてや、一般の人(や会社)からの要請に対して、プロバイダや携帯電話会社等が簡単に情報を提供するということなどは、まずありません。もちろん、一般の人は裁判所の令状を得ることもきません。
 それでは、技術的に可能であっても、一般の人はネット掲示板への投稿者等を特定することはできないのでしょうか。次回は、こうした情報を入手する法的な手段について解説します。


氏名:石井邦尚

生年:1972年生

弁護士登録年・弁護士会:
1999年弁護士登録、第二東京弁護士会所属

学歴:
1997年東京大学法学部卒業、2003年コロンビア大学ロースクールLL.M.コース修了

得意分野等:
米国留学から帰国後に「挑戦する人(企業)の身近なパートナー」となるべくリーバマン法律事務所を設立、IT関連事業の法務を中心とした企業法務、新設企業・新規事業支援、知的財産などを主に取り扱う。留学経験を活かし、国際的な視点も重視しながら、ビジネスで日々発生する新しい法律問題に積極的に取り組んでいる。

所属事務所:
リーバマン法律事務所 http://www.rbmlaw.jp/

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