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電子商取引と錯誤無効〜丸紅ダイレクト19800円PC事件を参考に〜

テーマ:自社HP・eコマース

2004年5月13日

解説者

弁護士 土谷喜輝

10月31日、丸紅ダイレクトがネット上で販売する198,000円のパソコンを誤って19,800円と1桁少なく表示してしまったという事件が起きました。担当者がミスに気づいて金額を訂正するまで、約1000人から1500台の注文があり、丸紅ダイレクトは、当初は、注文を取り消す旨のメールを送っていました。しかし、申込者らからの反発もあり、結局、誤表示の19,800円で販売することになりました。
丸紅ダイレクトは、「社会的信用を優先せざるを得ない」として、誤表示の価格での販売を決断したようですが、これにより2億円以上の損害が生じており、また、この事件以降、丸紅ダイレクトのサイトは閉鎖されたままになっています。今回は、このようなネット上のミスが法的にはどのように解釈されるのかを検討したいと思います。


錯誤無効の対象となる意思表示

売買契約は、一方が申込の意思表示を行い、他方がこれに対する承諾の意思表示を行うことにより成立します。そして、契約当事者の真意と異なる内容の表示がなされて契約が締結された場合、錯誤として、成立した契約を無効にすることができます(民法95条)。すなわち、錯誤を主張するためには、契約締結のための意思表示つまり申込か承諾に錯誤があることを主張する必要があります。では、電子商取引においては、どの行為が申込や承諾に該当するのでしょうか?


ウェブサイトの表示行為自体を契約の申込と考えた場合

丸紅ダイレクトのサイトは、消費者からの申込があれば、自動的に確認のメールを送信するシステムになっていたようですが、その場合、19,800円でPCを販売するとサイトに表示する行為自体が申込で、消費者の購入申込がこれに対する承諾であると解する余地があります。このように考えれば、消費者が申込行為を行った時点で契約が成立しますが、サイト側は、当初の19,800円でPCを販売するという表示行為は、本来は198,000円と表示するつもりであったと主張して、錯誤無効を求めることができると考えられます。


ウェブサイトの表示行為は申込の誘因に過ぎないと考えた場合

しかし、一般的な電子商取引用のウェブサイトにおいて、ショップ側がウェブサイト上に商品と金額を掲載する行為自体は、申込ではなく、申込の誘因と捉え、消費者がこれを見て、その商品の購入申込を行う行為を申込と捉えられる場合が多いと考えられます。この場合、ショップが確認メールを流す行為が承諾であると考えられます。
このように考えると、丸紅ダイレクトがPCの値段を19,800円と表示した行為自体は、契約の意思表示ではないので、本当は198,000円と表示すべきところを誤った(錯誤だった)と言っても、売買契約を無効とすることはできません。無効とするためには、購入申込に対して、確認のメールを流した行為(承諾行為)が錯誤であったと主張する必要があります。すなわち、「19,800円ではなく198,000円であると思って承諾した」として錯誤無効を主張する必要があります。


錯誤無効が認められる可能性

ウェブサイトの表示行為を申込の誘因と捉えるか申込と捉えるかにより、錯誤の対象となる行為が異なりますが、いずれにせよ、錯誤無効を主張することができる可能性は高いと思われます。担当者が19,800円と入力ミスした過失も問題にはなり得ますが、「重大な過失」とまでは言えないだろうと思われますので、錯誤無効の主張は可能でしょう。
また、19,800円は入力ミスだと気づきながら申込をした人も結構いたようです。このような場合は、そもそも契約自体が成立していないと言える余地もあるでしょう。
このように、丸紅ダイレクトは、19,800円でPCを販売する義務を負わないという可能性が高かったのですが、訴訟になった場合に、対応する費用・リスク等も考慮して、19,800円で販売することにしたのではないでしょうか。


ショップ側の対策

電子商取引が活発化している現在、同じようなミスは、どこの企業でも起きる可能性があります。丸紅ダイレクトのように2億円以上を負担することができる企業というのは稀でしょうから、そのようなミスが起きた場合でも、可能な限り責任を免れることができるようなシステムを検討しておくことが必要となります。
1つの対策としては、注文を受けた後の確認のメール送信を自動化しないことです。これにより、当初のウェブサイトの表示行為は、申込ではなく、申込の誘因と考えられる可能性が高くなり、錯誤無効などと言わなくとも、確認メールを送るまでは、承諾していない、すなわち契約が成立していないと主張することができます。また、このようなミスは、早期に発見される場合が多く、発見される直前に大量の申込がなされることが多い(大量の申込によりミスが発見されるとも言える)ので、承諾メールを送るまでにミスに気づく可能性を高めることができます。ただ、承諾メールを自動化することによるメリットも大きいので、注文数が多いサイトではこのような対応は難しいかもしれません。
その他としては、注文数が異常に多くなった場合には、警告が出る、または承諾メールの自動化を止めるといったシステム上の対策があります。


土谷喜輝
   ニューヨーク州法曹資格
   
主要著書
 『個人情報保護法Q&A』
  <部分執筆> (中央経済社 2001)
 『インターネットをめぐる米国判例・法律100選<改訂版>』
  <共著>(ジェトロ 2001)
 『ビジネスマンのためのインターネット法律事典』
  <部分執筆> (日経BP社 2001)
 『米国弁護士によるビジネスモデル特許事例詳説』(ジェトロ 2000)   等

このコンテンツは「法律情報メールマガジンLIMM」より提供されております
e-hoki.com LIMMにおける掲載時点(2003年12月16日掲載分)での執筆物であるため、その後の法改正等により、情報が古くなっている場合も、あり得ます。

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