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2018.11.26

木のまち・南会津の挑戦
~木工職人とデザイナーが協業、世界へ売り出す~

【株式会社マストロ・ジェッペット】

福島県南西部に位置する南会津町は、森林が総面積の約92%を占め、木工所・製材所・建築業など、木に関わる産業が盛んである。この南会津町で、木に携わる職人たちと木工デザイナーが、互いの強みを生かして「子どもの木のおもちゃ」を開発、国内外に販売網を広げている。大手メーカーからの受注生産が中心であった職人たちは、販路開拓とデザインに強みをもつデザイナーと協業することで、地域産業を国内外に発信し続けている。

この記事のポイント
  1. 技術力をもつ職人とデザイナーが協業、高い安全性とデザイン性を併せもつ商品を開発
  2. 経験豊富なデザイナーが展示会出展のブランドストーリーを整理、訴求力を高めた
  3. 互いにプロ意識をもって知見を出し合い、商品開発の方向性がまとまるまで徹底的にコミュニケーションを図った
マストロ・ジェッペット・武藤佳一社長
マストロ・ジェッペット・武藤佳一社長

木工職人とデザイナーが南会津で出会う

マストロ・ジェッペットの武藤佳一社長は、1点もののような高級家具を製作する木製家具職人である。「以前は木工所がたくさんありましたが、今ではうちと数軒だけですね」と武藤さんが語るように、輸入家具の増加や住宅着工戸数の減少を背景に、木製家具の製造品出荷額は平成10年の約1兆4,427億円から、平成26年は約8,140億円と約6割弱まで落ち込んでいる。南会津町も例外ではなく、武藤さんも仲間の木工所がなくなるのを見続けてきた。

「このままでは木工産業がなくなってしまう」と危機感をもった武藤さんは、「南会津の木工産業を知ってもらえる商品を自分たちで作りたい」という思いから、地元の職人とともに木製おもちゃの生産を始めた。おもちゃにした理由は、家具製造の過程ででる端材を有効活用できることからである。しかし武藤さんは、大手メーカーなどからのOEMが売上の9割を占めていたため、大きな壁に突き当たる。「私たちにはデザイン力がなく、限界がありました」と武藤さんが振り返るように、消費者に訴求できる商品デザインができない。また、自ら販路開拓をした経験が少なかったことから、販路にも課題を抱えていた。

一方、神奈川県に拠点を置く木工デザイナーの富永周平さんは、自身に息子が生まれたことから「子どもが安心して遊べる木のおもちゃ」を作ることを決意。全国を訪ね歩く中で、武藤さんらの存在を知る。その高い技術力に感銘し、武藤さんら5人の職人とともに、2010年9月、マストロ・ジェッペットを立ち上げた。

事務所内には、おもちゃや木のボールプールが飾られている
事務所内には、おもちゃや木のボールプールが飾られている

家具製作で培った技術力を活かし、徹底した「安全性」を追求

商品開発で最重要課題であったおもちゃの「安全性」を実現するため、子どもが激しく扱っても壊れない「耐久性」を徹底的に追求した。おもちゃが壊れると各部品がバラバラになり、誤飲する恐れがあるからである。
 例えばマストロ・ジェッペットの「garage」という商品。屋根の上にある煙突を叩くと、車庫に入っていた車が飛び出す仕組み。最も難しい箇所は「車の車輪の部分」だという。車輪が絶対外れてはいけないが、部品が小さく、接着剤だけでは十分に固定されないのである。
 「車輪と棒を接着剤で合わせる直前に、棒の部分に溝を入れます。接着剤の水分を吸って木が膨らみ、穴にしっかりはまるんです」(武藤さん)。
 これは「木殺し」という、家具製作で使う技法だという。「普通なら接着剤でつけるだけかもしれません。私たちはやりすぎの傾向があるかもしれないですけど、事故が起こってからでは遅いのです」と武藤さんは語る。

屋根を上から叩いても壊れない構造
屋根を上から叩いても壊れない構造
車輪と棒を付ける直前に、細い溝を入れる
車輪と棒を付ける直前に、細い溝を入れる

おもちゃのデザインは富永さん、安全性を追求した構造設計と製造は南会津の職人たち、と役割を分担。海外市場へ販売することも鑑み、CEマーク(ヨーロッパ玩具安全基準EN-71)も取得した。

デザイナーが「伝え方」を整理、商品の訴求力を高める

中小企業が自社商品を開発する際、立ちはだかる壁が販路開拓である。効果的な手段の一つは展示会であるが、ユーザーベネフィットや商品コンセプトがうまく伝わらなければバイヤーに理解されず、商談につながらない。
 ここで力を発揮したのは富永さんだ。ヨーロッパを中心に、自らデザインした家具を販売していた経験をもつ富永さんは、「なぜ南会津で木のおもちゃなのか」を伝えるブランドストーリーを整理した。
 商品のユーザーベネフィットは、南会津の職人たちが突き詰めた「安全性」を強調。商品コンセプトである南会津と「おもちゃ」の関連性については、会津地方の伝統玩具である「赤べこ」や「起き上がり小法師」が作られてきた南会津の歴史を背景とした。これにより、消費者が商品に求めるベネフィットである「安全性」と、その技術が地域産業である「南会津の職人たち」によって作られているという、ブランドストーリーが明確になった。

デザイナーは「見た目を整える」ことが仕事と思われることが多い。しかし、商品コンセプトを伝える「ストーリーの整理」にこそ、デザイナーが果たす役割があると言える。展示会出展を積み重ねた結果、現在は国内約170店舗で販売するほか、海外10地域に取引を拡大している。

デザイナーとの協業は、とことん「話し合う」ことが土台

このようにデザイナーは、中小企業の弱みである「伝え方」について強力なパートナーとなり得る。しかし、中小企業はデザイナーと携わる機会が少なく、「デザインのことはデザイナーに」と丸投げになることも少なくない。
 「私もほかのデザイナーさんと仕事をしたとき、意思疎通がうまくいかず、作れないデザインを提案された経験もあります」と武藤さんは言う。デザイナーと仕事をするうえで大事なことは、という問いには「両者の方向性が同じになるまで、膝を突き合わせてよく話し合うことです。現場の私たちから富永さんに、安全性や製造工程の面での要望を伝え、デザインを変更したこともあります」と述べる。

武藤さんらは富永さんに任せきりにするのではなく、地道な話し合いを重ねて「これならば自信をもって販売できる」商品を生み出すに至った。同社のように、互いにプロとして責任をもち意見を伝え合うことが、中小企業とデザイナーとの協業が成功する秘訣である。

「おもちゃ博物館をつくるのが夢」と語る武藤社長
「おもちゃ博物館をつくるのが夢」と語る武藤社長

これらの取り組みの結果、マストロ・ジェッペットは、2016年に福島民友新聞主催の「ふくしま産業賞」で金賞を受賞。商品の知名度とともに、「木の町南会津」の存在が再認識されつつある。武藤さんの夢は、南会津に木のおもちゃ博物館を作ることだ。「木工で成り立ってきた町であることを多くの人に知ってもらいたいですね」と話す武藤さん。その目線は、南会津の未来へつながる、力強いものだった。

企業プロフィール

会社名 株式会社マストロ・ジェッペット
代表者名 武藤 佳一
設立年 2010年
所在地 福島県南会津郡南会津町田島南下原66-2
神奈川県川崎市宮前区小台1-7-5-402(川崎オフィス)
資本金 250万円
従業員数 8人(アルバイトなどを含む)

中小企業診断士からのコメント

自社商品の開発には、消費者のニーズを知り、自ら販路開拓をするなど、新たな課題を解決する必要がある。その課題解決の鍵をにぎるのは、デザイナーのような他の専門性をもつ人々との連携である。マストロ・ジェッペットが成功した理由は、デザイナーに任せきりにせず、互いに強みのある分野にプロ意識をもつとともに、直接顔を合わせて理解を深めあったことにある。
地域産業を支える武藤さんら木工職人たちが、デザイナーの知見も得ながらその時代ごとのニーズに適切に対応していくことで、地域産業を次世代に継承していくことが可能となるだろう。

米澤 智子

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