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事業承継
2018.11.19

伝統食品とモダンなデザインを組み合わせ
承継先の地元老舗企業を相次ぎ再生

【和僑商店ホールディングス】

新潟県にある和僑商店ホールディングスは、地場伝統の発酵食品である日本酒、味噌、漬け魚の老舗企業4社を含む5社を傘下に抱える食品企業グループである。老舗4社は事業承継先。このうち2社はすでに2017年12月に経済産業省「地域未来牽引企業」に選定されるほど経営改善に成功した。その老舗再生を指揮しているのが葉葺正幸さんだ。市場規模の縮小が続く伝統食品の領域の老舗企業の再生に葉葺さんはなぜ成功しているのか。その取り組みを探る。

この記事のポイント
  1. 古いイメージのある会社、商品、直売店をモダンデザインで表現し、今まで接点のなかった若い新規客の開拓に成功し、顧客層の幅を広げた。
  2. ヒット商品の「甘酒」の製造を事業承継先各社に委託、承継先各社の稼働率を高め、一方で「たくさんつくる」だけのビジネスモデルを見直し
  3. 承継先企業は斬新なパッケージの商品を開発する一方、老舗ならではの蔵のイメージの店舗開設や蔵の開放などにより、企業の知名度を高め、イメージを刷新
  4. 承継先の人員整理は行わず、経営者に若手を起用することにより、現場のモチベーションをアップし、斬新な発想を実践できる組織風土を形成

甘酒専門店が成功、老舗が駆け込み

和僑商店ホールディングスは、新潟県を本拠地とするNSGグループの伝統食品事業を束ねるため2017年に設立された。出資者の一人であり、代表取締役も務める葉葺正幸さんは、同社の前身である和僑商店の社長に27歳の若さで就任。経営者としての経験を積むとともに伝統食品の見識を深め、「伝統を今の形に」を経営理念とした事業活動に取り組んできた。
 親会社となるNSGグループは、新潟県や福島県で教育事業を中心に医療・福祉・介護・保育事業などを展開する企業グループである。傘下に53の法人をもち、総売上高は1,000億円、総従業員数は1万人に及ぶ。同グループの企業理念は、事業創造により(地元を)豊かで幸せな社会にすること。その創業者であり、代表を務める池田弘氏は、1976年に新潟市の繁華街にある実家の愛宕神社の宮司を継ぐとともに、新潟総合学院を開校した。氏子の減少で神社の先行きが危ぶまれる中、事業開発による地域発展を目指したのだ。
 葉葺さんは、1996年にこのNSGグループに入社。新規事業部門に配属されたが、入社当時から「社長になる」と公言していた葉葺さんを、おむすび専門店「銀座十石」の運営会社として設立された和僑商店の社長に抜擢する。伝統食品分野での実績が評判を呼び老舗の承継案件が増える中、NSGグループは体制を再編、葉葺さん率いる和僑ホールディングを中心に老舗再生への取り組みを強化している。

「銀座十石」の前に立つ葉葺正幸さん
「銀座十石」の前に立つ葉葺正幸さん

米糀甘酒専門店きっかけに老舗再生へ

葉葺さんが地元の老舗食品企業の再生に取り組むようになるのは、葉葺さんが伝統の甘酒の分野での新商品とその専門店の開発に成功してからだ。
 葉葺さんはおむすび店や仕出し弁当を手掛けながらお米と相性のいい具材を探求していた。その過程で、「発酵」を学び、米麹(糀)甘酒に巡り会う。市販の甘酒の多くは酒粕に砂糖を加えて作られていた。だが米糀甘酒は米に麹を加えただけで発酵する甘くて栄養がある飲料である。砂糖を使用せず、アルコールも含まない。2009年、この米糀の甘酒専門店「古町糀製造所」を新潟市に開店した。
 米麹の甘酒にショウガやユズ、抹茶などのフレーバーを加えた新タイプの飲料を揃え、ジューススタンドのようなおしゃれな甘酒専門店で売り出した。すべてが新鮮で、メディアに取り上げられ、ヒット商品になった。

若者でにぎわう甘酒専門店(古町糀製造所蔵座敷店)
若者でにぎわう甘酒専門店(古町糀製造所蔵座敷店)

葉葺さんが最初に手掛けた老舗の再生は日本酒の今代司酒造。長年経営難が続き民事再生中だったが、スポンサー企業が経営破綻したのを受けて、2008年にNSGが買収しており、2011年から葉葺さんが責任者になった。2013年に持ち込まれた味噌の峰村商店には跡継ぎはなく、すぐ近くの今代司の経営が改善に向かっているのを見て会社売却を決断した。その後、2015年に越後味噌、2016年に漬け魚の小川屋と続く。

斬新なデザインでイメージ刷新

葉葺さんは、おむすび専門店や甘酒専門店で培った商品開発や経営のノウハウを生かして、承継した老舗の再生に取り組んだ。
 今代司酒造の場合は、まず甘酒事業部を新設、和僑商店がヒット中の甘酒の製造を今代司に委託して全量を買い取るという手を打った。甘酒は発酵の技術と設備があれば製造できる。外注していた甘酒を内製化する形で、今代司の売上を立てていった。
 本業である日本酒の事業再生の柱は商品の見直し。中身は変えないで、デザインを刷新した。今代司の根本的な問題は知名度の低さにあった。2006年からすべて純米醸造に切り替えて品質を良くしたにもかかわらず、昔のマイナスイメージが残っていたことも課題であった。デザインの刷新により新たな商品イメージを打ち出し、2016年に発表した「錦鯉」はグッドデザイン賞をはじめ、米国、ドイツ、ベルギー、英国、フランス、ポルトガル、韓国など世界各国で受賞を重ねている。

「錦鯉」はグッドデザイン賞を受賞
「錦鯉」はグッドデザイン賞を受賞

観光蔵の開放で知名度アップ

峰村商店でも、甘酒の委託生産を展開する一方、本業の味噌については小売への展開を図った。峰村商店はもともと新潟県を代表する味噌製造会社だが、薄利多売の卸ビジネスだった。同社は蔵を改装して直営店を開設、直販を始めた。この店の隣には「古町糀製造所蔵座敷店」を開店、峰村商店の集客力を高めている。
 この峰村商店と今代司酒造は、いずれも沼垂(ぬったり)地区にある。かつては酒蔵や味噌蔵、醤油蔵、納豆蔵が立ち並び栄えた地区。両社の建物は往時の蔵のような外観である。

葉葺さんと峰村商店(右手に甘酒)
葉葺さんと峰村商店(右手に甘酒)
蔵のイメージを残した峰村商店の外観(店舗部分)
蔵のイメージを残した峰村商店の外観(店舗部分)

今代司酒造は2018年春、店舗や試飲コーナーを改装、拡充した。事業継承以降、歴史がある蔵を無料開放しており、直販部門の売上高が増えてきたが、立地に恵まれ、さらに店舗改装したことで「新潟の酒蔵のショールーム」(田中洋介・今代司酒造社長)のような存在になってきた。峰村商店も店舗の裏手部分を改装、「味噌蔵の観光を本格的に始める」(葉葺さん)という。
 峰村、今代司、それに和僑商店の3社は2016年からこの沼垂地区で「発酵・大醸し祭り」を行っている。味噌の詰め放題や利き酒など盛りだくさんの企画があり、第4回目(2018年4月)には1万5,000人のお客を集めた。地域未来牽引企業の選定を受けて、観光蔵を拡充、沼垂地区を「いわば小諸のような全国に知られるような町にすることを目指す」(葉葺さん)という。

若者の発想で、従業員巻き込み改革

越後味噌や小川屋は年間黒字が見えてきたとはいえ、まだ経営改善の途上。葉葺さんが1人で各社の経営を見ることが難しくなっていたこともあり、伝統食品事業を束ねる和僑商店ホールディングスを設立。かつては自分も若手として斬新な発想で「すべてを変革してきた」という葉葺さんは、傘下の事業会社5社のうち4社の社長に若手を起用し、若手経営者を指南する。(体制表を参照)
 また、老舗再生に際し、買収先の人員整理を一切行っていないことも見逃せない。葉葺さんにとって雇用を守ることは当然のこととはいえ、経営を託す老舗にとっても、従業員がモチベーションを維持するうえでも重要だ。現代に合わせて伝統事業を進化させていくアイデアだけでなく、社員の士気を高め、現場の協力体制を築きあげていくことも葉葺さんの老舗再生の取り組みが成功し続けている要因と言えよう。

和僑商店ホールディングスグループの体制
和僑商店ホールディングスグループの体制

企業プロフィール

会社名 株式会社和僑商店ホールディングス
代表者名 葉葺 正幸
設立年 2017年(平成29年)7月
所在地 新潟市中央区明石2-3-44
資本金 1,000万円
従業員数 210人(パートを含む)

中小企業診断士からのコメント

「伝統を今のかたちに」。葉葺さんの取り組みをもっとも端的に表現するのがこの和僑商店のスローガンだろう。伝統の良さを今の世に伝える表現手法を磨いてきたことが同社による再生の秘訣だろう。とは言え、取り組みに公式があるわけではない。窮境原因は企業ごとに異なるからだ。原因除去にあたってはそれぞれの企業の状況を把握したうえで、除去策が異なっていることを見逃してはならない。経営不振の老舗は旧態依然としていることが多い。昔ながらのやり方にこだわる社員からは変革に対する反発も強くなる。だが葉葺さんは「老舗はいつも新しい」という「なだ万」のモットーをあげた。老舗再生では変革に伴う抵抗に躊躇しない覚悟も不可欠になる。

神原 哲也

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