自動車部品の強度を上げる極小鋼球でシェア90%[東洋精鋼]
渡邊吉弘社長
【0.8ミリメートルの鉄線を切断し球状に】
「うちのラウンドカットワイヤーを使えば、金属部品の寿命が飛躍的に延びるんです」。ラウンドカットワイヤーが入った小さな容器を手に、目を細めながら渡邊吉弘社長は、力強く話す。
ラウンドカットワイヤーとは0.8ミリメートルほどの鉄線を小さく切断し、一つひとつを丸めて球状にしたものだ。この極小粒の鋼球を、専用の機械でノズルの先から勢いよく大量噴射し、自動車部品の歯車(ギア)やバネなどの金属部品にぶつける。そうすることで、部品の金属表面が鍛え上げられ、部品に大幅な強度向上をもたらす。
「ショットピーニング」と呼ばれる冷間加工の一種で、加工法そのものは古くからあった。だが、同社は噴射させる従来の金属片(カットワイヤー)に工夫を凝らし、丸み(ラウンド)と硬さを兼ね備えたラウンドカットワイヤーに仕上げることで、一躍、ショットピーニングの世界に新風を巻き起こした。丸みを持たせた分、従来、部品表面に付いたキズがなくなり、一段と寿命向上につながったわけだ。
国内シェアは90%。現在、国内でショットピーニングの工程で必要とされるカットワイヤーの9割が従業員わずか50人の同社の工場から袋詰めにされ、毎月500トンが全国へ出荷されている。堅調な自動車生産にも支えられ、工場は3交代でのフル生産が続く。
【トヨタと共同開発】
そもそも同社がラウンドカットワイヤーの開発にこぎ着けたのは87年の後半。トヨタ自動車から「自動車用ギアの強度を高めたい。何とかならないか」という話が持ち込まれたのがきっかけだった。すぐさま、両社は共同開発に乗り出し、開発から1年半、金属片に丸みを持たせ、硬さを増したラウンドカットワイヤーの開発に成功、特許も両社が共同で取得した。世界で5社しか手がけておらず、しかもビッカース硬度(Hv)850という高いレベルを誇る製品を製造、販売するのは同社だけである。
成功の秘けつについて、渡邊社長は「トヨタからの要望をもとに開発したので『開発は成功、販売は失敗』という中小企業が陥りやすいケースを回避できた」と分析する。ただ、理由はそれだけではない。同社は社長自らが岐阜大学工学部の学外研究者として4年間、ショットピーニングの共同研究に参加したことも成功に寄与した。
渡邊社長は基礎研究を同大学で学び、工学博士号も取得。研究開発投資を多くかけられない中小企業にあって、産学連携を有効活用することで、基盤技術を強固にしてきた。こうした努力があったからこそ、トヨタからの依頼、要求にも十分耐えうることができたことになる。
今後について渡邊社長は「現在のピーニング技術を応用し、あらゆる分野に適用範囲を広げ、もっと技術に磨きをかけていきたい」と力強く語ってくれた。
主力製品の「ラウンドカットワイヤー」
【産学連携が結実】
研究費の少ない中小企業にとって、世界に通用する技術を確立するのは非常に困難だ。だが、渡邊社長は自社技術を信じ、15年以上にもわたり岐阜大学をはじめとする大学機関との連携を強化、パイプを太め、オンリーワン技術を確実なものとしていった。さらに渡邊社長はトップセールスにも余念がない。こうした資金力に頼らない経営手法の浸透が同社の今日を作り上げたともいえる。
掲載日:2004年7月14日

