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こうして活用しよう 中小企業向けファンド


企業事例−IPO編−

ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ株式会社

未来の子供たちのために、最先端のメタボローム解析技術をコアとした研究開発により、人々の健康で豊かな暮らしに貢献する

事業内容:代謝物質の解析試験受託やバイオマーカーを活用した診断薬の開発等
本社所在地:山形県鶴岡市覚岸寺水上246-2
URL:http://humanmetabolome.com/ 設立年:2003年
株式公開年:2013年 市場名:東証マザーズ
資本金(2004年3月期):86百万円 資本金(2014年3月期):1,216百万円
売上高(2004年3月期):24百万円 売上高(2014年3月期):610百万円
従業員数(2004年3月期):2名 従業員数(2014年3月期):56名
ファンド事業:ベンチャーファンド出資事業
同社に投資を行った出資先ファンド名(無限責任組合員名):TICC大学連携投資事業有限責任組合(東北イノベーションキャピタル株式会社)
大阪ライフサイエンス投資事業有限責任組合(株式会社バイオフロンティアパートナーズ)

事業概要

メタボローム解析技術の実用化に向けた慶應義塾大学発ベンチャー

同社は、山形県鶴岡市の慶應義塾大学先端生命科学研究所において開発された、生体内の代謝物質を網羅的、かつ、一斉に測定するメタボローム解析技術を、医薬品開発、疾病診断、食品開発等の様々な分野で実用化するため2003年7月に設立された慶應義塾大学(以下、慶應大学)発のベンチャー企業である。

<同社事業概要図>

<同社事業概要図>

現在、同社グループは、同社とアメリカの販売子会社の合計2社で構成され、「未来の子供たちのために、最先端のメタボローム解析技術をコアとした研究開発により、人々の健康で豊かな暮らしに貢献する」ことを企業理念として、収益の柱となっている「メタボローム解析事業」の他、将来の成長事業として位置付ける「バイオマーカー事業」を主に展開している。

代謝物質を網羅的に、短時間で、しかも高精度に測定

ヒトをはじめとする生物の体内には、アミノ酸や脂質、核酸等、細胞内の化学反応で生産される代謝物質(メタボローム)が約3,000種類存在し、これらの代謝物質は、私たちのからだを形作り、活動するためのエネルギーを生み出している。そして、食生活や運動・睡眠、ストレス、疾患によって、特定の代謝物質の量が増減する等の変化が生じることから、近年、医学・医療、食品等の分野で注目を集めている。

同社は、この代謝物質を独自の技術とノウハウを用いて測定する「メタボローム解析事業」を展開。従来の技術では、時間をかけて何度も測定する必要があったが、同社のCE-MS(キャピラリー電気泳動-質量分析計)法を用いれば、今まで捉えることの難しかった代謝物質も含めて、網羅的に、短時間で測定することができ、しかも代謝物質を絞れば高精度で変化を捉えることも可能となる。現在、同社の解析技術は、製薬企業における新薬の探索や薬効の確認・副作用の予測、大学等の研究機関における疾患メカニズムの研究、食品企業における成分分析・機能性の探索等、幅広く活用されている。

代謝物質による新たな診断方法の開発

上記の「メタボローム解析事業」の他に、同社が将来の成長事業として位置付けるのが「バイオマーカー事業」である。バイオマーカーとは、“特定の疾患に対して客観的に評価できる生体上の指標”を指す。病気に罹患すると、代謝物質等の構成要素に影響が及ぶ。そこで、同社のメタボローム解析技術を用いて、疾病の“指標(マーカー)”となる代謝物質を探し出し、新たな診断方法の開発に繋げるのが本事業の狙いだ。

具体的な取り組みとして、精神障害の一つであり、睡眠障害や焦燥感、不安、食欲低下、抑うつ症状等を特徴とする大うつ病性障害バイオマーカーの診断法開発がある。同社は、(独)国立精神・神経医療研究センターとの共同研究によって、同障害の患者では血漿中の代謝物質“リン酸エタノールアミン”の濃度が有意に低下しており、治癒とともに健康基準値まで戻ることを発見した。従来は、基本的に専門医の問診によって同障害の特定や治療効果等の判断が行われてきたため、医師や患者の主観を排除しきれなかったが、今後、血液検査による“うつ病マーカー”の診断方法が確立すれば、客観的な代謝物質の数値のもとで診断・治療が行われることとなる。

この他にも、同社では、発祥の原因やメカニズムが不明で激しい痛みを全身に生じさせる線維筋痛症、飲酒習慣のない成人において、肝臓の脂肪化が起こり、肝硬変を経て肝がんにまで進行する非アルコール性肝炎等に対しても、“マーカー”となる代謝物質を特定して、新たな診断方法の開発に繋げる取り組みを行っている。

創業からVCに出会うまでの経緯

VCが音頭を取り創業

同社の創業は、山形県と鶴岡市が鶴岡市をライフサイエンスの拠点とするために、慶應大学を誘致したことが始まり。そして、2002年、同大学先端生命科学研究所の曽我朋義教授が、画期的なメタボローム解析技術を開発。この技術を事業化するため、ベンチャーキャピタル(新興企業等に投資を行う会社や組織、以下VC)の(株)バイオフロンティアパートナーズが音頭を取り、同研究所の冨田勝所長、曽我教授を中心に、慶應大学のアントレプレナー支援制度を用いて、2003年に同社が設立されることとなる。

当時はまだ、DNA・RNA、タンパク質等が研究や起業化の中心で資金も集まっていた一方、メタボロームは言葉さえ出てこない時代ではあったが、創業からVCとの深い繋がりを得た同社は、(独)中小企業基盤整備機構が出資する大阪ライフサイエンス投資事業有限責任組合(運営は、(株)バイオフロンティアパートナーズ)やTICC大学連携投資事業有限責任組合(運営は、東北イノベーションキャピタル(株))等から、適宜資金を調達して、「メタボローム解析事業」と「バイオマーカー事業」の両事業の展開を目指そうとした。しかし、大手企業との共同研究等の進展等はあったが、当初目論んでいた通りには売上高を伸ばすことができず、研究開発費の増大もあって億単位の赤字が続く状況に陥ってしまう。

そのような中で、2008年2月、菅野隆二氏が代表取締役社長に就任(現任)。その経緯について、菅野社長は、「元々、メタボローム解析技術を開発した曽我教授とは古い付き合いで、前職の会社で私が社長を務めていた当時、上司と部下の関係だった。そのため、同社の生い立ちも外からではあるがずっと見守り、機器類の取引にも発展したが、ある時、マネジメントや海外展開等の経験から同社の社長就任を望まれて決意。周りからは、“年収を大きく削ってまで、なぜベンチャーにいくのか”といった事も言われたが、私自身は、メタボローム解析技術の可能性を感じていたし、何より、名も知られていない鶴岡市という地で生まれた日本発の革新的な技術を世界トップにするという夢を抱いた。」と振り返る。

VC等を活用した事業の拡大と成長

資金調達により事業を軌道に乗せる

菅野社長が就任した当時、同社は研究開発費等も含めて年間5億円の費用が発生しており、2億円以上の純損失を計上していた。そのため、まず菅野社長が行ったのは、メタボローム解析事業の仕組みをドラスティックに変えること。それまでは、大手企業や研究機関等との数千万円以上の大口の取引を目指していたが、数百万円単位での小口の取引でも収益を上げられるように商品を設計。積極的に営業を行っていくための人員も採用した。

一方で、赤字が続く中での改革でもあるため、同時に資金調達を模索。2009年9月には、事業の再構築や“うつ病マーカー”の特許出願等を示して、東北イノベーションキャピタル(株)を含むVCから約1億円の資金調達に成功した。菅野社長は、「銀行からの借り入れは赤字なので難しく、VCからの投資に頼る他なかったが、リーマンショックの影響からどこも消極的。しかし、そのような中でも東北イノベーションキャピタルは、他のVCに声をかける等して、我々の資金調達を成功に導いてくれた。もし、この調達が不発に終わっていたならば、きっと今の我々の姿にはなることはできなかっただろう。」と振り返るように、それ以後事業を軌道に乗せ、2011年3月期には黒字化を果たす躍進をみせる。

地場のVCや銀行からの“熱い”支援

創業の段階からVCと深い関わりのある同社は、資金面以外でも様々な支援を得ることができた。設立時においては、VCからの役員派遣もあり、社内規程や帳票類の他、解析受託や共同研究における契約書面の整備等、会社の基礎を形作るためのサポートを、営業面においても、VCのネットワークを通じて、大手企業から国の研究機関まで幅広く紹介を受け、“うつ病マーカー”開発のきっかけともなった。

東北イノベーションキャピタル(株)からは、山形県を地場とする銀行の常務執行役法人営業本部長(当時)を社外監査役として紹介され、営業面での体制や管理等における的確な助言を受ける他、銀行経由での販路開拓にも繋げることができた。また、上場時の市況によっては調達できる資金額が大きく異なることから、上場のタイミング、主幹事証券とのやり取り等のアドバイスも重要であったという。

菅野社長は、「我々が東北で生まれた技術をベースとしたベンチャー企業であったことから、特に東北を盛り上げようとする地場のVCや銀行から“熱い”支援をして頂いた。数々の支援は大変心強く、心から感謝すると共に、産学連携や地方活性化の一つのモデルになれればと思う。」とその思いを語っている。

IPOによる経営効果と今後の展望

上場によって会社の基盤を強固に

2013年、東証マザーズへの上場を果たして、約13億円を調達した同社。その上場の目的については、設備投資やアメリカでの事業の立ち上げもあるが、一番大きかったのは、人材の採用にある。「非上場のときは固定費を上昇させると、何かあった時にキャッシュが枯渇して会社が倒れるリスクを背負う。しかし、上場によってキャッシュを得られたことで、安心して将来へ向けて人への投資ができるようになった。また、非上場の時でも、メタボローム分野は、近年注目を集めていることから、ある程度、技術者を採用することはできる。しかし、管理系の人材を集めることは難しく、上場するかしないかでは全く異なる。上場すれば、IRや経理・財務、労務等をしっかりと整備する必要があるため、管理系人員を厚くする必要があるが、それが会社の基盤をより強いものとしてくれる。」と菅野社長は語っており、上場によって社内体制をより強固にして、さらなる成長を目指す。

“バイオマーカー”による病気の早期発見や的確な治療に向けて

同社の今後の展望について、まず、「メタボローム解析事業」では、既に国内で絶対的なシェアを有していることから、引き続きマーケットの拡大に合わせて売上を伸ばしていくと共に、アメリカを中心に海外でのシェアの獲得も積極的に狙っていく。また、「バイオマーカー事業」についても、“うつ病マーカー”の診断システムの確立を早期に目指すと共に、他の疾患についても“マーカー”の探索・開発を行っていく。

そして、同社の目指すさらなる先は、“バイオマーカー”によって病気の早期発見や的確な治療に繋げていくこと。菅野社長は、「遺伝子を解析することによって、“将来、自分がどのような病気にかかりやすいか”が、分かるようになってきた。そして、“今、自分の身体がどのような状態であるか”は、代謝物質の状態を捉えることで、把握することができる時代に入る。今後、様々な“バイオマーカー”を組み合わせることによって、“どのような病気の兆候が表れているのか”“病気の治療がどの位進んでいるのか”等を定量的に掴むことができれば、病気を予防する取り組み、あるいは、病気になったとしても無意味な投薬を防ぎ的確な治療へと繋げていけるだろう。我々はそこに辿り着きたい。」とその思いを語っており、山形県鶴岡市から生まれたメタボローム解析技術による“人々の健康で豊かな暮らし”に向けた挑戦は今後も続いていく。

代表者プロフィール

代表取締役社長 菅野 隆二
代表取締役社長
菅野 隆二

1950年3月23日生まれ。1974年、横河・ヒューレット・パッカード株式会社(現日本ヒューレット・パッカード株式会社)に入社。その後、横河アナリティカルシステムズ株式会社の代表取締役社長、アジレント・テクノロジー株式会社の代表取締役副社長を経て、2008年2月に同社の代表取締役社長に就任(現任)。

起業家を志す方へのアドバイス

事業を行っていく上で重要なこととして、まず一つ目は、自分たちの価値を正当に認めてくれる本当のお客様が誰であるかを特定すること。お客様が誰であるかをしっかりと定義できなければ、正当な対価を得ることのできる商品開発や販路開拓には繋がらないと思います。仮に、最初は成功しても、長く続かないのではないでしょうか。当然、お客様が誰であるかを特定することは難しいので、トライ&エラーで取り組んでいく必要があります。二つ目は、上場して感じたことですが、取り組む事業について社会的な意義や価値を表現できるかということ。短期的な視点ではなく、長期的に社会貢献していけるモデルを描けるのならば、投資家を含むステークホルダーから応援してもらいながら、事業を展開していけるものと感じております。

ベンチャーキャピタルの声

同社に投資をするに至った判断のポイント

同社のリードVCは独立系の(株)バイオフロンティアパートナーズ(大滝義博社長;以下BFP)であり、東北イノベーションキャピタルのファンドからの出資は2006年3月から開始し、計3回の投資を実行している。BFPは同社設立前から支援を開始するとともに、大滝社長自らが同社社長も兼任した珍しいケースである(菅野現社長は2008年2月就任)。初回投資は同社設立後2年半を経過した頃で、すでに(1)大手企業との共同開発、(2)メタボローム解析の受託、(3)バイオマーカーのビジネスモデルを確立しつつある段階であった。

足元の収益を確保しながら、バイオマーカー事業での飛躍を狙うビジネスモデルを評価し、最初の投資決定を行った。菅野社長が就任された後も投資を継続し、同社が上場前に行った増資での資金調達額1,051百万円の内、30%は私ども自身のファンド+他VCへの投資依頼で実行されている。

VCの視点からみた同社の成功要因

慶應大学曽我教授の卓越した技術はもちろんであるが、魅力的なビジネスモデル、BFPおよび事業に携わった方々のネットワーク、慶應大学・鶴岡市・山形県のバックアップ等、様々なことが成功要因に挙げられるだろう。東日本大震災後売上があまり伸びない中で、IPOの決め手となったのは、やはり大うつ病のバイオマーカーでシスメックス社と提携できたこと、「C-Scope」というがん研究向け解析サービスを開始したこと。VCとしては代表取締役の菅野社長、経営管理本部長の村上取締役とお話をすることが多かったが、両者の真摯なビジネスへの取り組みには好感を覚え、上場時期に対する我々からの数々の(適切な?)助言をお聴き頂いたことには非常に感謝をしています。

東北イノベーションキャピタル株式会社

2014年度取材事例
掲載日:2015年5月14日

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