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SaaS & ASP 活用術

知っておきたいSaaS&ASPサービスの基本と特徴

03.SaaS/ASPサービスの実例(2)-業務系(SalesForce)

3.3.SalesForceの使い勝手

SalesForceは一般的な営業支援ツールとしてはかなり効果的です。カスタマイズや各ページ(ビューと呼ぶ)の表示項目の変更/追加、検索条件の変更など、Web画面上からユーザが直接変更することができます。

変更の仕方や各ページの使い方には比較的丁寧なヘルプや解説がついています。したがってこれまで出張で航空券や新幹線のチケット、ホテルなどをWeb上で予約したことがある、あるいはすでに社内精算のような簡単なWebアプリケーションが導入されているなど、それらを利用経験のある人ならば、比較的スムーズに使いこなせる仕様になっています。

応答速度もインターネット・サービスとしてストレスを感じることはなく、ユーザ・インタフェースの完成度も高いレベルにあるといえます。また、予告付きのメンテナンスも定常的に深夜から明け方に行われており、通常業務の時間範囲で支障を感じることはほとんどありません。

つまり企業は、インフラとして光サービスなどある程度高速なネットワークにつなげるという準備だけで、同サービスを不満を感じることなく利用することができるといえます。

なお、http://trust.salesforce.com/というサイトを見れば、(SalesForceユーザでなくても)システムの稼働状況や安全性に対する懸念をチェックすることができます。

3.4.SalesForceのリスク

とは言え、誰でもSalesForceのサービスを購入してうまく行くとは限りません。どの会社にもその会社なりの営業のやり方や伝統があり、業種や分野に応じた営業ノウハウというものもあるはずです。 SalesForceが良くできているからといって、今までのやり方をすぐに強制的にSalesForceに合わせようとすることは非現実的といえます。

今までの取引先情報などをSalesForceに入れ直すだけでもそれなりの時間と労力がかかります。せっかく自分たちが今まで持っていた情報なのにSalesForceにはうまく格納する場所がなかったり、他の情報とのリンクが取れないかもしれません(注釈↓)。

もし営業に関する情報の一部が既存の社内システムに入っていたり、売上などの情報を社内システムに戻さなければならないとしたら、その部分で同じ情報が二重になって分散されてしまったり、情報伝達のボトルネックになってしまう可能性もあります。

また、パッケージやカスタム開発に較べれば、SalesForceのようなSaaS/ASP製品は初期コストは低くて済みますが、長期にわたって使い続ければ当然使用コストが積み上がっていきます。

また大規模になり、他のシステムとの連携などが必要になれば、SaaS/ASP製品といえどもコンサルティングの導入やカスタマイズの開発工程も必要になるかもしれません。結局、人数と使用期間も含めて考えると、パッケージやカスタム開発の方が安く済む場合もあり得ます。

信頼性や安全性については、カスタム開発やパッケージ製品にももちろん同じ問題はつきまといます。しかしカスタム開発やパッケージ製品に較べると、SaaS/ASP製品は自社でコントロールできる範囲が狭い(自分のところだけ特別扱いしてもらえる度合いが少ない)ということを周知しておく必要があります。

SalesForceが一般的な営業情報を管理する機能に長けていることは理解できたと思いますが、中小企業が実際の営業活動において、どの情報をどのタイミングで誰がどのように入力し、どのように活用するかは実際に使う側の人間、組織の問題です。

整合性のリスク 従来の業務との齟齬が生じる可能性
連携性のリスク 他のシステムや他の業務との接続がうまく行かない可能性
コストのリスク 想定した目的を達成するために予想した以上のコストがかかる可能性
安全性/信頼性のリスク 自分たちが必要とするサービス・レベル/セキュリティ・レベルが得られない可能性
学習のリスク 導入の簡便さに惑わされて、学習を重ねる余裕なく利用を強制される可能性
表3-1 SaaS/ASP製品に特有のリスク

SalesForceが持っている機能を全部使えばいい、ということではありませんし、(SaaS/ASP製品に限らずITシステムの利用は)時間をかけて現実と合わせながら、組織内で学習を繰り返しながら成熟させていくことが重要です。

SalesForceの手軽さとこれらのリスクは表裏一体の関係にあることをよく理解しておく必要があります。


3.5.AppExchange

セールスフォース・ドットコム社のようなSaaS/ASP製品ベンダも進化を止めているわけではありません。カスタム開発やパッケージ製品にない長所を伸ばし続ける一方で、カスタム開発やパッケージ製品の持つ長所をもSaaS/ASPの中に取り込もうとしています。

その一つがセールスフォース・ドットコム社のAppExchange(特にその開発環境をApexと呼んでいるようです)というものです。

Apexを使うと、SalesForceと同じプラットホーム上で、独自のアプリケーションを開発し、運用することが可能になります。ApexはWebアプリケーション開発にもっとも広く使われているJavaに類似しています。したがって、Java開発経験のある開発業者ならば、ある程度の学習でApexでも開発が可能です。

ただし、前節で述べたようなカスタマイズがユーザでも可能であるのに対して、ApexによるSalesForce上でのアプリケーション開発はソフトウェア開発の知識と経験を持った専門家が一般的には必要です。

では、従来のカスタム開発とApexを用いたSalesForce上でのアプリケーション開発はどう違うのでしょうか?

まず第一に、Apexでは最初からソフトウェア環境が提供されています。従来型のカスタム開発を行う場合には、そのITシステムを開発し、稼働させるソフトウェア群(例えばオペレーティング・システムやデータベース管理システム、ミドルウェアと呼ばれる中間層など)を選定し用意しなければなりません。しかしApexではこれらはすでに用意されており、開発者はその上でアプリケーションだけを開発すればよいのです。

第二に、Apexでは開発環境だけではなくしっかりしたシステム運用環境も提供されています。ここでシステム運用環境と呼んでいるのは、ハードウェアやネットワークなどのシステム・インフラのことです。それはSalesForceが動いている環境そのもので、すでに2001年以来、100万ユーザに対する運用実績があることになります。従来のカスタム開発では、インフラに対する投資は開発全体のかなりの割合を占めますし、運用開始後も経常的に労力やコストがかかる部分です。

第三に、Apexアプリケーションは簡単にインストールでき(別途統合作業などが必要なものもある)、ユーザのSalesForceのアカウントと連動して使うことができます。ただし、任意のアプリケーションを作れるわけではなく、あくまでもApexとして提供されている機能の範囲内で、SalesForceの延長上としてのアプリケーションに限られます。

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図3-15 Application Exchange図3-15 Application Exchange (アプリケーション共有サービス)

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図3-16 Apexアプリケーション市場図3-16 Apexアプリケーション市場

最後に、そしてこれがいちばん面白いところなのですが、Apexで作られたアプリケーションはSalesForceと同じようにオープンに「売買」されていることです。もともと"Application Exchange" とはそれを意味しています。SalesForceの各ページの右上には下のようなリンクが表示されています。

これをクリックして見てみると多くのアプリケーションが提供されていることが分かります。無料のものも多くありますし、有料のものもあります。

この「市場」でApexアプリケーションを売るためには、特に制約はありません。あなたの会社で必要に応じて作成したアプリケーションを、ここに「出品」することもできます。それで人気が出て売り上げが立てば、開発費用の一部を回収することもできるかもしれません。

Apexは、業務用のITシステムをまるでiTunesやAmazon、ヤフー・オークションのように売り買いする、非常に面白い仕組みです。その下にはSalesForceの基盤技術があります。ただし、いいことばかりではありません。

Apexは標準的でオープンな技術ではありません。Apexはセールスフォース・ドットコム社の固有技術であり、Apexで開発したアプリケーションは、Apexでしか動作しません。

SalesForceのようなSaaS/ASP製品は簡便に導入でき、必要な期間だけ利用すればよいというのが長所のひとつであったはずですが、SalesForceを使い続けてSalesForce上に経験やデータなどの資産が蓄積され、Apexアプリケーションが増えて行くにつれ、SalseForceというプラットホームに縛り付けられてしまうことになります。

このApexのように、SaaS/ASPベンダが持つ強力なインフラ上にユーザあるいはサード・パーティがアプリケーションを作れるような環境を提供することをPaaS(Platform as a Service)と呼ぶことがあります。今ではアマゾンも、自社が持つ強力なインフラの上にユーザがデータを保存できるようなサービス(Amazon S3)を提供し始めています。

3.6.まとめ

今回は業種や職種に特化したSaaS/ASP製品の代表例として、SalesForceを紹介しました。この分野は今、競争が大変激化しており、多くの競合製品が新たに登場し、既存製品も機能拡張や品質向上が継続的に行われています。

また、SaaS/ASPが提供するサービスはSFA/CRMだけではなく、他の分野にも広がってきています(例えば国産に限っても不動産管理、印刷/出版事業など)。非常に興味深いITシステム調達方法であると同時に、その限界も見極めつつ利用する必要があります。

次回は、すでに商工会議所会員向けにサービスが開始されているなど、現時点で中小企業がもっともSaaS/ASPのメリットを見出しやすいと考えられる会計分野のサービスに焦点を当てて解説してみたいと思います。

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知っておきたいSaaS&ASPサービスの基本と特徴目次

  1. 01.さまざまなシステム導入方法 - SaaS/ASP (1)[2008年2月22日]
  2. 02.SaaS/ASPサービスの実例 (1)-オフィス系(google、zoho)、グループウェア系(Cybozu)[2008年5月27日]
  3. 03.SaaS/ASPサービスの実例(2)-業務系(SalesForce)[2008年5月27日]
  4. 04.SaaS/ASPサービスの実例(3)-会計/財務系[2008年7月4日]
  5. 05.オープン・ソース・ソフトウェアとユーザ指向 〜SaaS/ASPの先へ[2008年8月12日]
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