事業承継・引継ぎはいま

少子高齢化の進展で中小企業の後継者不足が深刻だ。放置すれば廃業が急増して雇用が失われ、地域経済や産業のサプライチェーンが崩壊してしまう。
一方で、自分の会社が事業承継の必要な局面にあることに気付いていない経営者も少なくない。他社はいつ、どのように事業を引き継いだのか、事業承継を経験した企業を連載で紹介する。自社の取り組みの参考にしてほしい。

第1回:支援担当者に聞く

目次

事業承継の現状と課題を話しあう

事業承継の現状と課題を話しあう

中小企業の事業承継はいまどうなっているのか。企業の事例紹介に先立ち、事業承継・引継ぎを支援する中小機構事業承継・再生支援部の有木克昌・事業承継支援課長に現状や課題を聞いた。上原久和・事業引継ぎ支援プロジェクトマネージャー(PM)、宇野俊英・事業引継ぎ支援PMも同席した。

中小企業の後継者不足が深刻です

有木課長

有木課長

今後10年の間に約245万人の中小企業経営者が70歳を超えますが、このうち半数にあたる約127万人が後継者を決めていません。経営者の子息に交代できればいいのですが、家族観の変化で、父親の事業を長男が継ぐのがあたりまえではなくなっています。子供には自分の人生設計があるし、父親も大変な事業を息子に継がせたくないと思っています。統計をみると、企業の廃業数は倒産の3倍ですが、廃業する企業の半分が黒字です。優良企業なのに後継者がいなくてやめてしまうのです。

廃業は1社だけの問題にとどまりません。バリューチェーン(価値を提供する流れ)で見ると、ひとつの企業が廃業すると関連企業の経営が危うくなります。廃業で雇用が失われると地域の市場も失われてしまいます。過疎化が進み、地方創生とは間逆の方向になってしまう。何もしないでいると中小企業の廃業が急増し2025年までに約650万人の雇用と約22兆円のGDP(国内総生産)が消失する恐れがあります。経営者が80歳になってからでは遅い。早めに手当てをしないといけません。中小企業の事業承継・引継ぎは日本経済にとって待ったなしの課題です。

国など公的機関も支援に乗り出しているようですが

上原PM

上原PM

国は今後10年で、事業承継の準備段階から承継後まで切れ目のない支援を行う方針で、2019年は事業承継・世代交代集中支援事業として総額50億円の予算を組んでいます。全国48箇所の事業引継ぎ支援センターで事業承継の課題解決に向けた適切な助言や情報提供を行います。後継者が決まっている企業には承継が円滑に進むよう10年限定で対象株式の上限撤廃や対象者の拡大など事業承継税制が抜本拡充されていますし、後継者がいない企業には金融機関や仲介業者などと連携してマッチング支援を行います。その後も定期的にフォローアップを行い、必要なアドバイスを提供します。

中小機構はどのようなことをするのですか

宇野PM

宇野PM

今年7月1日付けで内部組織を変更し、これまで個別に活動していた関連部門を統合し「事業承継・再生支援部」に格上げしました。支援部を司令塔に、機構は各都道府県に設置された事業引継ぎ支援センターの全国本部として助言や研修などを実施します。

事業引継ぎ支援センターには企業の売り買い情報が今年5月末時点で約3万6000件データベース化されています。この内、相談者にご了解を得られた先について企業が特定されない情報に加工してノンネーム化し、今秋をめどにノンネームデータベース(NNDB)にバージョンアップします。NNDBには金融機関や税理士、M&A仲介会社などの登録機関が直接、企業情報を入力できる機能を加えて第三者承継のためのマッチングを強化します。日本政策金融公庫や日本貿易振興機構(ジェトロ)など公的機関とも連携して情報量を増やし、全方位マッチングをしていきたいです。相談者増加に向けた広報PRにも力を入れていきます。

中小企業の経営者が後継者を選ぶときのポイントは何でしょう。

事業承継支援に意欲を示す中小機構の担当者

事業承継支援に意欲を示す中小機構の担当者

20年前は約8割が親族内承継だったのですが、いまは全体の4分の1に落ちて、従業員承継と第3者承継が増えています。後継者は誰に引き継げば会社が伸びていくかという視点で選ばなくてはなりません。

事業承継では「人」だけでなく、自社株、設備・不動産などの事業用資産、運転資金などの「資産」の引継ぎが必要になります。さらに経営理念、得意先の人脈、顧客情報、特許・ノウハウなど「知的資産」の引継ぎも必要です。個人の資産と事業用の資産が混在している中小企業も少なくありません。後継者を決めても引き継ぎが完了するまでに5年から10年の時間がかかります。2015年のデータで中小企業の経営者の平均年齢は66歳でしたから、いまの経営者の平均年齢は引退年齢である70歳前後であることが推定されます。急がなくてはなりません。

引き継ぐ相手が見当たらない場合はどうすればいいですか。

後継者がいるかもしれないが未定という場合と、明確に後継者を見つけることが難しい場合の2パターンあると思います。事業引継ぎ支援センターではまず、課題を整理します。親子喧嘩をしたけれど、やはり戻って来なきゃいけないなと思っているご子息もいらっしゃいます。もう一度、ご子息と話し合いをしてみて、親族に引き継ぐ可能性はないかどうか考えていただく。その次に従業員さんに引き継ぐ可能性はどうですかと提案します。

それでも後継者がいらっしゃらない場合は2つしかありません。第三者承継の相手先を探すか、廃業です。全部ではなくても経営資源の一部をほしいというところもありますから、金融機関、士業、M&A仲介会社などと連携して相手を探します。廃業は最後の手段と考えています。

支援担当者として中小企業経営者に向けたメッセージをお願いします。

まず身近な支援機関に相談に行ってください。事業引継ぎ支援センターに、よろず支援拠点、商工会議所など地域にはいろいろな支援機関があります。各機関は連携しているので、行きやすいところで悩みを相談して頂けば、そこからしかるべきところにつなぎます。

まだまだがんばれると考えている中小企業経営者もいらっしゃると思います。そういう方は、従業員、取引先を含め、自分の会社が10年後にどうなっているかを想像してみてください。統計をみると社長の年齢と業績は連動していてピークは65歳です。これを過ぎると体力が落ち、ご自身の事業意欲も落ちていきます。今年の中小企業白書をみると、40代半ばで引き継いだ後継者が多いですが、どの時点で引き継ぎたかったかと聞くと、5歳くらい前に引き継ぎたかったと答えています。5年前に引き継いでいれば業績をもっと伸ばすことができたというのです。生産性向上の面からみても早めの引継ぎが肝要です。