中小企業とSDGs

持続可能な開発目標(SDGs)は、2015年9月の国連サミットで採択された17のゴールと169のターゲットからなる16年から30年までの国際目標だ。日本政府もSDGs達成を通じた中小企業などの企業価値向上や競争力強化に取り組んでいる。
国の機関や専門コンサルタントの活動およびSDGs達成に貢献している中小企業などの先進事例を紹介する。

第8回:新素材「LIMEX」で紙やプラスチックを代替【株式会社TBM】

山﨑敦義代表取締役

「お客様ご来社です」。受付を済ませワークスペースに入ったとたん、声がかかった。すると、デスクに向かって作業中の全員が一斉に立ち上がり、「いらっしゃいませ」と迎えてくれた。「ご来社いただいたことに対する感謝の気持ちです」と、同社コミュニケーション・ディレクターの菊田譲さん。

株式会社TBMの本社オフィスである。TBMとはTimes Bridge Managementの頭文字。「時代に橋をかける企業になりたい」と山﨑敦義社長が命名した。2011年創業のベンチャー企業はいま、紙やプラスチックの代替となる新素材「LIMEX(ライメックス)」の開発で注目を集めている。

目次

石からつくった名刺

石灰岩(手前左)が名刺や飲食店メニュー、スマホケースに

菊田さんが差し出した名刺は石からできている。一見、普通の紙と変わらないが、しっとりとなめらかな手触りで、しなやかな強度を感じる。

主原料は石灰石。炭酸カルシウム(CaCO3)を主成分とした堆積岩で、セメント原料などに使われる硬い石だ。パウダー状に砕いた石灰石と少量の樹脂を混ぜ合わせてシート上に薄く引き伸ばすことで紙の代替になるし、ぺレット状にすることでプラスチック製品の代替をつくることができる。均一の厚みで比重を軽くするのが同社独自の技術で、日米欧を含む30カ国以上で特許を登録済という。Limestone (石灰石)に可能性を示すXを加えて「LIMEX」と名づけた。

LIMEXは耐水性や耐久性に優れ、簡単には燃えないが燃やした後は石の玉になる。使用済みの紙の代替製品を裁断して再加熱すれば再び原料として活用できる。印刷用の紙代替製品として名刺やポスター、レストランのメニュー表などに活用されているほか、食品容器や碗、ショッピングバックなどのプラスチック代替製品も製造されている。碗は陶磁器より軽く、落としても割れないのが特徴だ。

海に囲まれている日本では実感に乏しいが、世界で水資源の枯渇は深刻な問題だ。国連環境計画(UNEP)の発表によると、2050年に世界人口の約40%が水にアクセスしたくてもできない状況に陥る。1㌧の紙を作るために約85㌧の水を使う紙づくりは今後困難になる可能性がある。だが、LIMEXはほとんど水を必要としない。原料の石灰石は世界中に豊富で、天然資源の乏しい日本でも数少ない100%自給可能な鉱物資源だ。原産地がはっきりしているし、地産地消にも貢献できる。

毎年約800万トンのプラスチックごみが海へ流出し、2050年には海洋中の魚の総重量を超えてしまうと懸念されているが、LIMEXが普及すればプラスチック製品の総量を減らすことにつながるだろう。LIMEXは製造プロセスがシンプルで、紙やプラスチックに比べCO2の排出量を削減できることから2050年には産業革命以前に比べ気温が2度上昇すると危惧されている地球温暖化の緩和にも寄与するはずだ。

100年後も人類に貢献を

LIMEXを製造する白石工場で

山﨑社長は中学卒業後、大工見習いに5年ほど従事した。大きい会社をつくりたいと20歳で起業し、中古車販売を手始めに様々な事業を経験した。30歳を過ぎて知人を頼って欧州へ渡り、数百年前の建造物が残る街並みを見て感動。「100年後も続き、人類に貢献できる事業を興したい」と強く想った。

志を抱いて帰国後、知人の紹介でストーンペーパーに出会う。木や水をほぼ使わず、石灰石を原料としたストーンペーバーを台湾のメーカーが製造していると知り、現地に赴いてしくみを学ぶ。木材を伐採し大量に水を使って製造する既存の紙の代替となりうるストーンペーバーを日本に普及させたいと2008年に同社の輸入元になる。

だが、台湾の製品は紙の厚みが均一でなく、印刷適性が安定しなかった。ほかにも普通の紙に比べて比重が重いなど様々な問題があった。そこで日本製紙の元専務取締役で現TBM取締役会長の角祐一郎氏に相談し、自社開発に踏み切った。

2011年に株式会社TBMを設立。経済産業省の補助金の採択を受け、東日本大震災後の地域雇用に貢献できるよう宮城県白石市に工場を建設。資金難に苦しみながら開発に6年をかけ、2016年に初めての製品としてLIMEX製の名刺を発表した。

それからはとんとん拍子だ。凸版印刷と、LIMEXの特性を活かした用途拡大に向け共同開発を進めることで基本合意。アメリカ法人を設立し、米シリコンバレーでベンチャー企業を育成するアクセラレーターPlug and Playによる「世の中に最も社会的影響を与える企業-ソーシャルインパクトアワード」を受賞する。

2017年はラクスル(東京都品川区)と協業を開始しLIMEX製品を拡充。日揮、サウジアラビア国家産業クラスター開発計画庁とサウジアラビアでのLIMEXの開発及び製造活動に向けて基本合意も締結した。日本だけで製造して輸出するのではなく、海外の工場に技術ライセンスを提供し、現地の需要に合わせた製品を生み出すグローバル展開を目指す。

LIMEXを採用している企業は国内に約4000社。海外からも約500件の引き合いがあり「今後、生産体制を強化し、お客さまの要望に応えていく」と菊田さん。2020年には宮城県多賀城市に第二工場が完成予定だ。

アップサイクルも推進

取材に応じる羽鳥徳郎サステナビリティ・アクセラレーター

「自治体や企業と協業し、ただのリサイクルではなく、もともとあったものをさらに価値の高いものに再生するアップサイクルに取り組んでいます」と、サステナビリティ・アクセラレーターの羽鳥徳郎さん。SDGSを推進する同社のサステナビリティ(持続可能性)専任担当者だ。

LIMEX製のブラインドサッカー大会の横断幕を回収してスマホケースに再生し、次の大会でオフィシャルグッズとして使ってもらう取り組みのほか、福井県鯖江市では使用済みのLIMEX製チラシなどを回収し、同市の特産品である越前漆器の技法を用いた食器に加工して販売する事業を進めている。神奈川県でも県内の企業や団体などで使ったLIMEX製品を集め、新しく別のものをつくる循環型のまちづくりを目指した「かながわアップサイクルコンソーシアム」が発足。「鯖江市から神奈川県に直接連絡が行き、一緒にやれないかと話が進むなど広がりも出てきた」という。

LIMEX自体の改良も進んでいる。すでに石灰石粉末に混合している樹脂をバイオ由来の素材で代替することに成功しており、微生物の作用で分解する生分解性の製品にすれば環境への負荷をさらに減らすことができる。「トウモロコシ由来の材料を活用できるよう開発に取り組んでおり、最終製品化を目指している」という。印刷物の用途を拡大するための薄さや印刷適性の向上も今後進めていく。

山﨑社長は「エコロジーとエコノミーを両立し、持続可能な循環型社会の実現を目指すLIMEXには大きなビジネスチャンスがある。ものづくりで世界に貢献してきた日本生まれの技術や循環型の価値観や仕組みを世界に広めていきたい」と話す。そのうえで「事業で一番大事なのはお客さまへの感謝の気持ち」とも。取材後、「お客様お帰りです」の声とともに社員の皆さんに見送ってもらったのは言うまでもない。

企業データ

本社所在地 東京都中央区銀座2-7-17
電話    03-3538-6777
設立    2011年8月
資本金   107億4480万円(資本準備金含む)
従業員   116人(2019年6月1日現在)
事業概要  LIMEXおよびLIMEX製品の開発、製造、販売
URL    https://tb-m.com/company/