J-Net21レポート

06.中小企業を支える「人づくり」 中小企業大学校

研修の成果が結集 経営後継者研修 論文発表会

  7月下旬、梅雨明けと同時に到来した酷暑のなか、中小企業大学校東京校は、経営後継者研修の終講式を前に、ちょっとした緊張感につつまれていました。
  それもそのはず。この日は、10ヵ月に及ぶ研修の集大成を発表する「ゼミナール論文発表会」が行われるからです。
  研修生たちは、自社の課題解決や経営戦略などをテーマにした卒業論文を制作し、終講式の前日から2日間にわたって実施される発表会にのぞみます。
  前回レポートした、研修開始から4ヵ月経った講義のときも、その成果に驚きましたが、座学や経営総合実習を終えた研修生たちの発表は、ここまでよく到達したなと思うほど内容が濃密で、ひとまわりも、ふたまわりも成長した姿に、感動を覚えました。


「ゼミナール論文発表会」の様子

「ゼミナール論文発表会」の様子

  発表会には派遣元の社長をはじめ、幹部の方も参加される企業もあり、一つ一つのプレゼンテーション終了後には、研修生仲間や、講師からのコメントのほか、社長からのあたたかい言葉が贈られます。
  発表のなかで、研修生仲間、講師、大学校の職員、そして、社長に謝辞を述べる際に、さまざまな思いが去来するのか、感極まる研修生の姿もあれば、たくましくなった研修生を前に、涙ぐむ社長の姿も見られました。
  今期の経営後継者研修、最終発表者は、自ら「トリ」を志願した、マツダアンフィニ青森の柳谷彰成さん。論文タイトルは、「幸せな経営者になれる予感」。
  自社経験もなく、また、今までの仕事も、家業とはまったく異なる業種であった柳谷さん。内容は、綿密な分析をもとに、会社に戻ってから、どのように取り組んでいきたいか、その想いをつづったものでした。これからの意気込みと、父である社長、そして、これから引き継いでいく会社とその社員に向けた熱い想いがひしひしと伝わる、まさにトリにふさわしい発表でした。
  それにしても、発表会のあとの講師の言葉には、はっとさせられるものがありました。
「ここ(東京校)で学んだことは、いったん忘れてしまうくらいでいいんです。自社に戻って、自社で大いに学んでほしい。一度、身に付いたものは、絶対に失うことはありませんから。」
「まだまだ、ほとんど使い物にならないと思います。ここからがスタートなんです。」
  最後まで、ちょっぴり辛口でありながら、これからの中小企業を担う人材に向けての心からのエールが送られました。
  発表後、柳谷さんと、社長であるお父様にお話を伺いました。


マツダアンフィニ青森 柳谷経営企画課長

マツダアンフィニ青森 柳谷経営企画課長

J-Net21編集部(以下、J-Net):10ヵ月の研修を終えて、今のお気持ちは?

マツダアンフィニ青森 柳谷経営企画課長(以下、柳谷):10カ月間準備をする期間をもらいました。心の準備ができました。これから始まるな、という感じです。

J-Net:今日の発表は、どうでしたか?

柳谷:社員を「幸せ」にする姿勢を明確にし、これを社員に伝え実践する。そして社員一人一人がお客様の「幸せ」を実現する、そういう社内にしていきたい。それには私の人間性を磨かなければならないことが一番大事なことだと思います。自社を日本一の感動するディーラーにして自分の子供に渡すこと、それを実現する幸せな経営者になれる予感を持続していきたいと思います。

J-Net:研修はかなりハードな内容とも思えるのですが、いかがでしたか?

柳谷:ハードと感じるときもありました。しかし、研修を受けている時からですが、ひとつひとつのことが自社につながることなので、量は多くても苦にはなりませんでした。

J-Net:研修の中で、思い出に残ったプログラムは何ですか?

柳谷:研修が始まって1カ月後ほどで行った名古屋での業務プロセス実習が印象的です。鉄鋼の2次加工の会社での業務の流れを分析する実習で、夜遅くまでみんなで班ごとに作業をしました。みんなのつながりが強くなった感じです。それまでお互い気を遣うこともありました。仲間ができたことも大きな成果でした。

J-Net:これから自動車販売会社を継ぐわけですね。

柳谷:東京で6年間全く違う仕事をしていてビジネスに興味を持ち始めました。家の仕事を引き継ぐのかなあ、と父にはそれとはなしに言っていました。実は父からはまだ「継げ」、とは一言も言われてないのですが。研修の発表準備の際、少しずつ父と本音で話ができるようになった。「私の夢をかなえるために力を貸してください!」とお願いしました。

J-Net:これまで、自社の決算書をみたことはありましたか?

柳谷:見たことはありましたが、よくわかりませんでした。内容も説明もしてくれませんでしたし。決算書を見ることはできるようになりましたが、やっぱり決算書だけでは社員やお客様とのつながりなどは見えてきません。研修でそのことも認識することができました。

J-Net:これから、会社に入って何から始めたいと思っていますか?

柳谷:まず、仕事と現場を覚えること。そのときそのときに人一倍の結果を出す、それでしか社員の信頼を得られないと思います。そしてお客さまと社員の距離が近い会社、お客様に信頼される会社にしたいですね。

J-Net:これから入ってくる研修生にひと言。

柳谷:めちゃくちゃ楽しいですよ。絶対お勧めします。快楽的な楽しさでなく、充実した楽しさ。みんなが同じ土俵の中にあって、個性の違いがあったり、いろいろ勉強することがあったり、刺激しあうこともあって。悩んでいる人、不安な人ほど入ってほしい。私も自信がなくてここに入りました。後継者は自社で失敗することは許されませんが、大学校は恥かき処です。大いにぶつかって、失敗して、恥ずかしい思いをして、本当の知恵を身につけてほしいと思います。

柳谷社長へのインタビュー

マツダアンフィニ青森 柳谷社長

マツダアンフィニ青森 柳谷社長

J-Net:どのような目的で、中小企業大学校の研修を選んだのでしょうか?

柳谷社長:息子から継ぎたい、という意思表示があったので、この研修に参加を促しました。これまで社員が仙台校で研修を受けていて、この研修のパンフレットを手にしました。複雑な車の小売業を継ぐのは気合いだけではできない。労務から基礎研修をやって、学習した方がいいと思ったのです。親父の手柄話を聞いていただけではだめで、客観的なこともやらなければね。

J-Net:研修の成果を、どのようにお感じになられましたか?

柳谷社長:研修中に自社の決算書を生データとして出し、研修生のみなさんの意見をもらうことがありました。リーマン・ショックで落ち込んでいるころだったので、これは客観的に見てもらうのにいいことだなと思いました。皆さんの意見を聞き、非常に有効だ、いいことだと感じましたので、是非に、とお願いしました。また、研修生が企画したセミナーには私たちも参加して、ほかの業界の若い人たちが何を考えているのかを知る機会にもなりました。

J-Net:数字以上のものが見えたということでしょうか?

柳谷社長:様々な自社分析の課題で、息子が会社に行って調査したり、ヒアリングしたりする中で、私だけでなく直接現場や、中間管理職とのコミュニケーションをとることができました。リーマン・ショック後の2年間は、「どうなることか」というほどひどかったのですが、業界も今年の2、3月ごろから業容が下げ止まったときと重なり、会社の中で「少し風が吹きそうだ」という雰囲気がでてきました。研修中の分析レポートも送られてきて、私たちも勉強になりました。

J-Net:研修が終わって、いかがでしょうか。

柳谷社長:息子が大きくなったな、と感じました。会社としても、会社の現状を見るきっかけになりましたし、将来を考えるいい時だったのではないでしょうか。いまはまだ、本人の憧れでしかない「幸せ」の概念ではありますが、具体的に取り組んでいく強い意志が明確になったのではないかと思います。これから疾風怒濤の経営環境の中で活動していかなければならないのですが、「躍動する人生が楽しめるぞ」という言葉を贈りたいと思います。

J-Net:10ヵ月間、本当にお疲れ様でした。今後の益々のご活躍をお祈りしております。本日は、ありがとうございました。

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