J-Net21レポート

06.中小企業を支える「人づくり」 中小企業大学校

最終回となる今回。中小企業大学校の魅力について、そして、実際に活用されている企業について、東京校の吉沢校長にお話をうかがいました。

ほかにはない人材育成分野の実績

J-Net21(以下、J-Net):先日、東京校の経営後継者研修と、合同研修を見学させていただいたのですが、予想以上の内容で驚きました。それにしても、自主的にOBネットワークが運営されているというのは、すばらしいですね。歴史の長さもその一つだと思うのですが、中小企業の人材育成において、これだけの基盤を作り上げられるというのが、大学校の強みであり、他にはない魅力ですよね。

中小企業大学校 吉沢隆 東京校長

中小企業大学校 吉沢隆 東京校長

吉沢校長(以下、吉沢):そうですね。現在の東京校の前身となる、日本中小企業指導センターが発足したのが、昭和37年。そこから、数えても47年。中小企業大学校に改組して、地方校として関西校ができたのが昭和55年ですが、その年に、経営後継者研修がスタートしました。それが今年で30期、30年を迎えるわけですから、本当に長年にわたって、中小企業の人材育成支援を行ってきました。その点で、蓄積されてきたノウハウには、他には真似できないものがあると思っています。

J-Net:アジア各国においては、日本の産業発展は、中小企業支援に力を入れてきたことによる影響が大きいと認識されていて、日本の中小企業支援のあり方が非常に注目されているというお話をうかがっています。大学校でも各国からの視察や研修を受け入れているそうですね。

吉沢:JICA((独)国際協力機構)やAOTS((財)海外技術者研修協会)、また、各国大使館などを通じて、タイをはじめ、インドネシア、マレーシアなどから視察や研修に来られていて、平成21年度はその数が46カ国、199名になりました。最近では、アジアで「中小企業診断士」が共通語になってきていて、診断士制度の構築のお手伝いをするということで、日本からも専門家を派遣するなど、中小企業支援分野での国際貢献がさかんになってきています。

J-Net:ですが、先進的な中小企業とはいえ、これだけ経済状況が悪化してくると、業績の悪化だけでなく、やれリストラだ、やれ倒産だ、という話が身近に聞こえてきて、中小企業が受けているダメージの大きさを感じます。

関連情報

「中小企業大学校」の詳細については、こちらをご覧ください。
人材支援(中小機構)






「中小企業大学校 東京校」の詳細については、こちらをご覧ください。
中小企業大学校 東京校

地域を支える受講企業の底力

吉沢:われわれもこういう状況にこそ、中小企業に寄り添った、本当に役に立つ支援をと力を入れているところです。
 調べてみましたところ、ありがたいことに、こうした状況にあっても、大学校を利用されている企業さんは、みなさん業績が向上していらっしゃるようです。雇用の数については、増えてはいないのですが、減ってもいないという結果が出ております。

J-Net:業績が伸びているんですか。しかも、この状況下にあって、雇用を維持しているというのは、事実上の増加ですよね。
 それにしても、昨今の地域の疲弊ぶりには、本当に胸が痛みます。私自身地方出身者なので、とても気になることなのですが、地域の企業というのは、その地域で、ある製品を作ったり販売したりしているだけでなくて、その地域の雇用を担っている。つまりその地域の住民の生活を支えているんですよね。だから、人員削減もそうですが、ましてや倒産なんてことになったら、人々の生活基盤自体が喪失してしまう。地域の命運は、地域企業の命運にかかっているといっても過言ではない。

吉沢:本当にそうだと思います。その点では、われわれは、地域の企業の「人づくり」の支援を通じて、地域活性化への貢献を目指しているのです。企業の成功は、単にその企業の発展ではなくて、地域貢献そのものなのです。ですから、いかに、地域のなかで、地域をうまく巻き込みながら発展していけるか。特に経営後継者のみなさんには、この部分のマインドとスキルを身につけていただきたいと思っています。

J-Net:ある企業の後継者問題は、実は、地域の問題でもあるんだということですね。

吉沢:そうなんです。しかも失敗が許されない。そもそも日本は、失敗したものにチャンスが与えられにくいため、経営の失敗というのは、その後のありように非常に大きな禍根を残してしまいます。しかも、地域に根差した企業が経営に失敗することは、地域の大きなダメージとなる。

なぜ、経営を学ぶ必要があるのか?

J-Net:失敗が許されないからこそ、大学校で、成功する経営、少なくとも失敗しない経営を学ぶことに意義があるんですね。

吉沢:そうです。だから、大学校では、体系的に経営を学ぶという点も非常に重要視しています。
 企業の経営というのは、本来は、企業のなかで教えるもので、企業のなかで学ぶものだと思うのです。ですが、中小企業の経営者というのは、ひとりで何役もこなさなくてはいけないので忙しい。忙しすぎて、子どもに経営を教えたり、幹部をじっくり育てる時間がない。

J-Net:なるほど。確かに、経営のことだから、経営のなかで学べばいいのでしょうけれど、中小企業規模では、なかなかそこまで手が回らない。加えて、この環境変化のスピードのなかでは、実際、経験だけでは対応しきれないのではないかと思います。

吉沢:だからこそ、大学校のような機関の役割があるわけでして、経営の基本的なところを体系的に、しかも効率的に学んでもらうことを目指しています。

J-Net:短い時間で、効率的に学べるのであれば、後継者だけでなく、忙しい幹部や、従業員にとっても受講しやすいですし、すぐに役にたちますよね。この場合、企業としては、研修を受けさせるのにどれくらいの費用を見積もっておけばよいでしょうか。

吉沢:受講料自体は、3日間の研修だと、27,000円。10ヵ月に及ぶ経営後継者コースだと1,125,000円。これに旅費、寮に宿泊する場合は、宿泊費がかかります。
 そもそも、忙しい業務のなか、3日間の研修を受講させるだけでも大変でしょうし、経営後継者などは、10ヶ月間ですから、その時間を確保すること自体が非常に難しいと思います。しかしながら、その10ヵ月間をかけた効果というのは、必ず、その後の企業の発展に大きく役立つと思います。

J-Net:その10ヵ月が、今後の企業の成長をもたらすのだと考えると、「たった10ヶ月」なのかもしれませんね。受講の効果の大きさは、「成長企業に見る人材育成」からも伝わってきます。

受講企業の現状と取り組み

吉沢:よく、こうした研修を受講されるのは、余裕がある企業だと思われます。でも、決してそうではありません。現在では大きく発展された企業のなかには、受講当時は、一番の零細企業だったという企業もあります。それこそ、受講を支援する補助金などもありますから、そうしたものもうまく活用して受講されています。そして、リピーターになられる。

J-Net:どういった形でリピートされるのでしょうか。

吉沢:よくあるのが、ご自身が経営後継者研修を受講されて、その後経営者になられて、今度は幹部の方の育成に大学校を利用される例です。
 ご自身が受講されてよくご存知でいらっしゃるので安心ですし、社内に、ご自分の言葉や考え方が通じる人が増える。特に幹部との間で、経営の基本的な考え方が共有できるようになるわけですから、単純な意思疎通をはじめ、いろんな課題を議論し、会社としての戦略を導くにしても非常に円滑にすすめられるようになります。
 また、こうした企業では、研修への派遣を、年間計画のなかに組み込んで実施しているようです。

J-Net:研修への受講が、年間の計画、業務のなかに組み込まれているのであれば、受講もしやすくなりますね。

吉沢:ほかには、大学校の受講を皮切りに、他の支援策を受ける例もあります。例えば、経営管理者研修を受講した際に策定した中長期計画を、実際に企業のなかで推進し定着させるために、専門家派遣事業を活用したりする例です。この企業の場合は、専門家派遣事業の活用から、さらに計数管理部分に課題が見えてきて、今度は、財務研修を受講されました。

J-Net:そういえば、 以前、高度化事業についてお話をうかがったときに、組合員の連携強化や、意識の共有化を図るために、年に一度、大学校の研修を受講することを運営のなかに取り入れている組合もあるという例をご紹介いただきました。これなども、大学校が他の施策と結びついて利用されている好例ですよね。

吉沢:そうした点では、大学校というのは、研修を実施して人材を育成する機関というだけでなく、情報発信、情報共有の場としても機能しており、いろんな人や施策をつなぐ、プラットフォーム的な役割を担っているのではないかと考えています。

J-Net:各企業は基本的な経営、最新の経営手法を学ぶため大学校を受講するわけですが、逆に考えると、受講企業を通じて、大学校には、最新の中小企業動向が集まってくるということですよね。特に、大学校の場合は、自社分析を重視しているからその傾向が強い。それに、大学校も中小機構の中小企業支援の一つだから、他の施策に関する情報についても豊富に知ることができる。だから、受講生は、交流を通じて、新聞やネットにも載っていないような生きた情報を、受講を通じて入手することができる、ということなんですね。

吉沢:そうなんですよ。生きた情報だからこそ、経営の役に立つ。これは九州の企業の例ですが、大学校を通じて得られた情報、それは他産業、他企業、また、施策の情報など、あらゆる情報なのですが、それらの情報から、今度は新しい事業、新しい商品が生みだされまして、今回、「地域資源活用」の認定を受けました。また、支援のなかで、農商工連携などの現場を見せていただくことなどもあるのですが、最新の農業とはこういうものなのかと、感動いたしました。

J-Net:先ほど、「巻き込む力」を育てるというお話をされていましたけれど、大学校という存在自体が、研修で経営スキルを教えるという点においても、また人の交流を支えるという点においても、情報を発信し、共有させることで、中小企業をつなげて巻き込みながら支援を行っているというように思います。
 そう考えると、大学校が掲げるネットワークの形成というのは、この「つなげて巻き込む力」を身に付けることそのものですね。
 経営後継者育成コースOBの皆さんは、自主的にOBネットワークを運営されていらっしゃいますけれど、先日の合同研修で、ご自身の会社の経営も忙しいのに、どうしてそこまでできるのかと質問しましたら、経営者にとっては、そうした、いろんな情報が集まるネットワークを作ることそのものが経営なのであって、同じことをしているにすぎないというお話をされていて、「なるほど」と。

吉沢:経営後継者コースを受講された経営者が、今度は幹部の方を派遣するというのも、社内でのネットワーク形成ですよね。経営後継者コースを受講して、受講生がかわるのはもちろんなのですが、実は、もっともかわるのは派遣元の企業の経営者だと言われています。

J-Net:それ、わかるような気がします。先日のインタビューで印象的だったのが、受講してはじめて父と話せるようになったというエピソードでした。新しい仕事のネタ、新しい取引先など、新しいものや変化というのは、出会い、つまり、つながりから生まれるわけで、つながって巻き込まれると、まわりの「人」や「環境」は自ずとかわっていきますよね。
 まずは、受講生と経営者がつながる。そうすると、経営者がかわっていく。そして、社員もかわる、会社全体が次の段階へ、次の世代へと体制を整備していくようになる。どうしてかわっていくのかといえば、受講生自体が、巻き込みながらひろがっていく力を身に付けて、大学校のもつさまざまな情報やネットワークとつながっていくからですよね。

吉沢:大学校で学んだ経営者は、周囲の幹部、社員を巻き込みながら、企業を発展させ、それを他企業、ひいては地域にまで拡大させていく。幹部をはじめ、管理者、従業員が、同じように大学校で学んだことを実践し、企業を支えていく。
 そうした、まわりを「巻き込んでひろがっていく力」を、経営のスキルとして伝え、ヒューマンスキルとしても育てるのが、大学校の「人づくり」支援だと考えています。(注)今後も大学校は、ここでしか実現できない支援、中小企業を支える「人づくり」によって、企業の発展、地域の活性化につながる支援を行っていきますので、是非、うまく活用していただきたいと思っています。

J-Net:もっと、大学校をうまく活用して、事業を発展させる企業が増えて欲しいと思います。
 本日は、お忙しいなか、どうもありがとうございました。

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(注)企業の研修派遣の目的の第一位も「行動意識の変化・意識改革」となっており、中小企業の「今」のニーズに合致した研修が行われていることがわかる。

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