J-Net21レポート

06.中小企業を支える「人づくり」 中小企業大学校

経営者マインドとスキルの習得、徹底的な自社分析が特長の中小企業大学校の経営後継者育成研修。でも、中小企業大学校の研修のすばらしさは、これだけにとどまりません。 今回は、中小企業大学校だからこそ実現できる、「経営に役立つネットワークづくり」に焦点を当ててご報告いたします。

 

OBネットワークを知る〜合同研修〜

第1回でご紹介した経営後継者研修の演習から2日後。今度は、都内にあるアジュール竹芝で行われた「合同研修」を見学しました。この研修の内容は、かつて経営後継者研修を受講したOBが現役生とグループディスカッションを行うもので、今年で18回目になります。

当初、この演習の見学の予定はなかったのだが、あえてお願いさせてもらったのは、何より、2日前に見た経営後継者研修の内容が、他に類を見ない独自性にあふれるものだったから。俄然、今回の「合同研修」への興味と期待が膨らみます。

経営後継者研修の見学と、インタビューで感じたこと。それは、やはり、こうした研修は中小企業大学校でしか実施できない。中小企業大学校だからこそ「ここまでできる」ということ。

大学校研修のこだわり

そのポイントは、

  • 徹底した自社分析
  • 経営者マインドの重視

この2つをここまで突き詰めて実施している研修は、どこにもないのではないかと感じます。

合同研修の様子

合同研修の様子

インタビューをしていても、痛いほど伝わってくるのは、後継者たちの自社に対する気持ちの強さ。そのニーズに対して、中小企業向けであることを標榜する大学校はどこまで応えることができるのか。大学校の48年に及ぶ長い歴史のなかで、培われ、導き出された答えの一つが、「徹底した自社分析」なのです。

では、自社分析だと、効果として何が違うのか。経営上の課題を見つけ出し、それらの分析を通じて、経営の理論、経営の技法を身に付けるのが、ケーススタディの良さですが、これが、自社を中心に行われる場合、結果、自社のことだからこそ、理論や技法が身に付く度合いも高く、会社に戻って、学んだことがすぐにでも実践できるという点が圧倒的に違うのです。

この「自社分析重視」は、経営後継者研修だけでなく、大学校の全研修において一貫して採られている方針。例えば、中長期研修では、自社データを使いながら、自社の課題について解決策を考えさせる「自社の課題解決研究」が行われますが、これらはゼミ形式で、5、6人程度の少人数グループで討議を重ねながら運営されます。

これら研修時の研究テーマは、自社に戻ったあとに実践されることも多く、研修時に作成した賃金体系の見直し計画、中長期経営計画などが、企業の基本計画として推進・実行されています。

実際、「実践で役に立つ」との評価は高く、研修修了1年後に実施されたアンケートでは、受講生が研修期間中にとりあげた研究課題を実際に自社内で実施したかどうかについてきいてみたところ、83%が「取り組んでいる」と回答。また、実際に実施した効果については、87%が「効果があった」と回答しています。

また、経営者マインドは、演習のなかでもかなりの力が入れられているところ。とはいえ、演習だけが「学びの場」ではありません。夜9時以降の談話室での会話、交歓会でのつながり、10ヵ月間、研修をともにし、生活をともにするなかで、培われる「マインド」があり、むしろ、演習以外で培われる「マインド」を、ひときわ重視しているのが大学校の特長といえるかもしれません。なので、研修の内容だけでなく、「談話室」や「交流室」が完備された設備、それに大学校の研修を支える職員の対応からも、「人」を育てることの重要性、「人づくり」が中小企業の発展を支えるとの想いがひしひしと伝わってきます。

合同研修を見る

さて、今回の「合同研修」。見学をする前に、もちろん、自社課題の解決や経営者マインドの重視は、重要なポイントですが、それだけではないんですよ。見学されると、もう一つの特長がよくわかりますよ、という説明をいただきました。

それほど、今回の合同研修は、経営後継者研修の目玉の1つでもあります。

合同研修会に参加されたOBは、総勢66名。そのなかには、30年前に卒業された第1期の方もいらっしゃいます。

研修の最初は、基調講演から。講師は、あの『日本でいちばん大切にしたい会社』の著者、法政大学大学院教授の坂本光司氏。第一に「社員とその家族を幸せにする」経営であれ、そして、「社員は、経営者の心と背中を見ている」とのあつい講演に、涙を拭う経営者の姿も見られました。

現役生とOBのディスカッション

現役生とOBのディスカッション

続いて、現役生とOBが一緒になって討議するグループディスカッション。「先代とのかかわり方」「経営者としての心構えについて」というテーマは現役生自らが選んだものです、それぞれ10名程度、8つに分けられたグループには、現役生が2名ほど。各経営者の意見をききながら、ディスカッションの進行をつとめます。グループには、各期のOBがズラリ。さすがに当初は、緊張した面持ちだった現役生も、OBの方々の興味深い意見に、どんどん引き込まれている様子。話がひろがりすぎて、OBに進行を修正してもらう一幕なども見られましたが、最終的には、各グループがまとめた意見を報告。報告された意見や感想は、グループごとに特徴があり、それぞれが補完し合うような形で、全体として非常に有意義となるディスカッションでした。

本物のヒューマンネットワーク

それにしても、今回の合同研修、現役生にとって有益なのは疑うべくもないのですが、こんなにもOBが集まるのはなぜなんだろう。みなさん忙しい経営者たち。単にボランティアというわけでもないだろうと不思議に思い、ディスカッション後に開催された懇親会でたずねてみることに。

同期同士の互いに「学び合う」つながりが、横のつながりならば、30期、30年に及ぶOBネットワークは、同期だけでは得られない「縦」のつながり。

そこにあるのは、経営者として、誰しもが直面せざるを得ない困難な課題と向き合ってきた「先達」のネットワークなのです。

経営においては、どんな場合であれ「正解」というものはない。だからこそ、経営者として進むべき方向を迷った時に、同じように課題を克服して歩んできた経営者の忌憚ない、直截な意見は何より参考になるのだといいます。

もちろん学ぶべき先輩経営者は、書籍の中にも、地域の集まりの中にも、あらゆるところにいます。しかしながら、書籍では、直に話をすることができない。地域の集まりでは、しがらみや、会社の経歴や規模等の制約のなかで、率直に話すことがかなわないことも多い。

でも、大学校のOBネットワークならば、地域、業種にとらわれず、むしろ、地域・業種が幅広いからこそ、遠慮なく話ができるのだといいます。たしかに、こうしたネットワークを持つ研修をほかに聞いたことがありません。ちなみに、これらOBネットワークは、大学校が主催しているものではなく、OBの独自運営によるもの。そういう気風が醸成されるのもまた、大学校の特長なのです。

なるほど、今回の合同研修も、現役生だけでなく、OBにとっても現在進行形の課題であり、先輩経営者に学ぶ「学びの場」であったのです。

無論、こうした研修という名の集まりで学ぶのは、経営課題の克服の仕方だけではありません。集まっているのは、多種多様な地域・業種の経営者。だから、ここで目にし耳にするのは、生きた企業の事例そのもの。情報感度の高い経営者の集まりなのです。

そのほかにも、OBの皆さんに、経営後継者研修について、いろいろな感想をうかがいました。なかでも、「なるほど」と納得したのは次のこと。

多くの研修は、なんとなく中小企業にとっては敷居が高い気がして、内容を見ると、うちの会社はそんなに規模が大きくないし、そんなにすごいことやっていないし、と尻込みをしてしまう。でも、大学校の研修は、中小企業のみならず、小規模企業にも照準が合わせてあるから「うちみたいな小さな企業でも大丈夫」といった安心感がある。

これは、決して受講内容のレベルが低いということではない。中小企業、多くの小規模企業の実態にも寄り添っているということ、そして、そこに親近感があるということなんだろうと思います。

ネットワークの拠りどころ

東京校・東大和寮に並ぶOBの記念写真と寄せ書き

東京校・東大和寮に並ぶOBの記念写真と寄せ書き

懇親会では、現役当時(26期)にインタビューをさせていただいた興津貨物自動車運輸株式会社の遠藤さんともお話ができました。大学校を卒業してから、なんと10日後には、経営者になられた遠藤さん。だいぶ御苦労されたんじゃないですか?との質問に、「それはもう、大変なんてものじゃなかった。毎日、毎日、必死ではいつくばっているようなものでした。」と。「でも、そんな中でも、やってこられたのは大学校のおかげ。ここでの経験、ここがあるから、やってこられたんです。」

現在、遠藤さんは、忙しい業務の合間をぬって、大学校の講師もつとめておられ、そこで学ぶこともまた多いのだと言います。

卒業してからよりも、むしろ、卒業してからのほうが、その拠り所としての本領を発揮する大学校の研修とOBネットワーク。

今回の研修では、文字面ではない、本当の「ヒューマンネットワーク」のありようを見た気がしました。

関連情報

「中小企業大学校」の詳細については、こちらをご覧ください。
人材支援(中小機構)





東京校で実施されている「経営後継者研修」について、詳細はこちらをご覧ください。
経営後継者研修の概要(中小企業大学校 東京校)

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