J-Net21レポート

06.中小企業を支える「人づくり」 中小企業大学校

企業を支えるのは、やはり「人」。中小企業大学校は、中小企業の中核人材を育成する「人づくり」のための研修機関で、全国9ヶ所に設置されています。今回、クローズアップするのは東京校で開講されている、経営後継者研修。この研修に中小企業大学校の真髄をみることができるというのですが・・・さっそく、取材に行ってみました。

 

経営後継者研修の現場

ピピピピピー。
 演習が行われている教室をのぞいてみると、4、5人のグループで導きだした事業戦略のプレゼンテーションのまっただなか。そのプレゼンテーションのタイムアップがつげられると、それぞれにメモをとったり、考えたりしていた相手チームのグループのメンバーたちは、すぐさまに次の作戦会議に入り、白熱した議論が交わされる。

ディベートでは各々の事業戦略について競い合う

ディベートでは各々の事業戦略について競い合う

今日、見学したのは、中小企業大学校・東京校の経営後継者研修の「ビジネスリーダーに求められるスキル(5)〜構造的思考と集団的意思決定の技術〜」
 中小企業の中核人材として、後継者を育成する経営後継者研修は、中小企業大学校のなかでも、東京校でのみ開催される看板コースの一つ。昭和55年からスタートし、今年で何と30期を迎えている。
 研修期間は約10ヵ月。同期生は、中小企業の後継者として全国から集い、その業種もざまざまだ。
 研修がスタートして約4か月。今回の演習では、論理的思考力や傾聴能力、質問力など後継者に必要な能力や行動特性を高めることが目標だ。

同演習はプレゼンの方法、ディベートの進め方を競い合う形式で、2日間にわたって実施される。同期は3つのグループに分かれ、1日目は、設定されたテーマに事業戦略を立案し、2日目にその案をプレゼンする。
 プレゼンの後は、ディベートだ。Aグループ対Bグループといった形でディベートを行い、各々の事業戦略について、その主張、証拠、論拠などを競い合う。
 Aグループが、相手となるBグループの事業戦略の論理性の不備を指摘すると、今度はBグループが、それに対する意見をまとめ、反論する。反論のための作戦会議の時間は、わずか1分。グループのメンバーたちは、つぎつぎに意見を述べ、キレの良い判断とともに、手際よく意見を集約する。

また、ディベートの反論の仕方も重要で、これが、論理的展開に欠けていようものなら、講師やジャッジするグループから、「意見を述べておしまいにしない。ちゃんと反論しよう。」とか、「イメージで語らないで、論理的に説明しよう。」と厳しい指摘が入る。まさに、企業現場の真剣勝負そのものだ。

実際に、受講生たちは、この経営後継者研修についてどう感じているのだろうか。直接、話を聞いてみることにした。

関連情報

「中小企業大学校」の詳細については、こちらをご覧ください。
人材支援(中小機構)




「中小企業大学校 東京校」の詳細については、こちらをご覧ください。
中小企業大学校 東京校













東京校で実施されている「経営後継者研修」については、東京校のHPでも詳しく紹介されています。
経営後継者研修の概要(中小企業大学校 東京校)

後継者になるということ

J-Net21編集部(以下、J-Net):今日の演習はかなりハードだったんじゃないですか?

マツダアンフィニ青森 柳谷経営企画課長(以下、柳谷):今日のはハードでしたね。今まで、演習で資料を作成して、プレゼンを行うことはあったのですが、ディベートは初めてです。やってみるといろいろわかることがあって、とても刺激になるし、楽しいですね。ちょっと疲れましたけど。

マツダアンフィニ青森 柳谷経営企画課長

マツダアンフィニ青森 柳谷経営企画課長

J-Net:それぞれが、自律的に動いて、自然と役割分担ができていて、それでいて、みなさんが積極的に意見を述べる。しかもそれが1分でちゃんと意見としてまとまる。あまりのチームワークの良さにびっくりしました。

柳谷:もう4か月も一緒にやっていますから、お互いにいろいろわかりあえていることもあるんだと思います。それに、みんなの意識が非常に高い。私なんてまだまだだなんて思うことがたくさんありますよ。

J-Net:よく、みなさんと話をされるんですか?

柳谷:そうですね。私は、青森から来たので、寮に宿泊しているのですが、夜9時以降ともなると、談話室でいろんな話をします。みなさん後継者ですから、立場も似通っていて、話をしていて非常に面白いですし、参考になります。

J-Net:そもそも、柳谷さんは、どうして後継者として会社を引き継ぐことになったんですか?

柳谷:何でなんだろう(笑)。親には、会社を継いでほしいと言われたことはなくて、むしろ、好きなことをしていいと言ってもらっていました。だから、最近まで東京で働いていたんですね。会社は、自動車のディーラーをやっているのですが、東京で働いていたときは、それとはまったく関係ない職種なんです。でも、何年か勤めて、やっぱり帰ろうかと。

J-Net:それは自然に?

柳谷:そうですね、何だろう。やっぱり、経営をやりたいっていうのが、あるんだと思います。

J-Net:でも、単に経営をやりたいっていうことじゃなくて、後継者になられるわけですよね。

柳谷:そうですね。事業をやるなら、東京じゃなくて、青森で、しかも、自動車のディーラーがやりたい。そこにはこだわりがあるんです。
 現在の会社は祖父がはじめたものなのですが、親戚みんなで同じ事業をやっていましてね。それで地域の方々には、ああ、「あの自動車の柳谷さんところの息子さん」という感じで、小さい時からお世話になっていて、そういうのもあるのかな、と思います。

J-Net:代々にわたって、地域に根差してきた会社なんですね。 柳谷さんとしては、自分を育んでくれた人々や地域に対して、何か貢献したいということなんでしょうか?

柳谷:それほど、大袈裟なものじゃないんですけどね。

J-Net:家が事業をされているから、なおさら、経営者は大変だということは、小さい時から肌でお感じになっておられると思うのですが。

柳谷:そうですね。夜中に、父が、ずーっとテーブルに向かって、ひとり考え事をしている。その姿が、今でも忘れられないんです。
 社員の生活も含め、会社のことすべてにおいて責任があって、自分が判断していかなくてはいけないから、経営者は大変だなと思うのですが、でも、だからこそ、やり甲斐があると思っていますし、研修を受けていて、その気持ちがずっと強くなりました。

大学校を選んだ理由とは

J-Net:会社を継ぐというお話をされたら、お父様は喜ばれたんじゃないですか?

柳谷:よくわからないです、そこら辺は。何も言わないので。(笑)
 でも、後継者として引き継ぐといっても、会社のことは何も知らないし、どうしようかと思っていました。そんなとき、母から、中小企業大学校の経営後継者コースを紹介されたんです。母自身が、以前、中小企業大学校・仙台校で、別の研修を受けたことがあって、内容が非常に良かったということで、話にのぼりました。

J-Net:それで東京校に来られたんですね。

柳谷:でも、ただ、母に勧められたからというだけではないんです。他の機関で実施している研修なども、パンフレットを取り寄せたりして、自分なりにいろいろ調べました。会社のお金で学ばせてもらうわけですから、きちんと学んで帰りたいと思って。

J-Net:そんななかで、大学校に決めた理由というのは?

柳谷:ホームページを見たら「自社分析をとことん行う」と書かれていて、これだったら、本当に会社の役に立つのではないかと思って。

関連情報

宿泊施設、及び、施設概要については、こちらをご覧ください。研修のための充実した施設が整っています。
宿泊施設のご案内(中小企業大学校 東京校)


受講で会社もかわる?

J-Net:実際、研修を受けてみてどうですか?

柳谷:はじめは、会社の(1)経営理念・沿革について自社分析を行うんです。その次に、自社の(2)業界や業務プロセスについての分析、(3)財務・決算書の見方、(4)市場分析・マーケティングを今までやってきました。はじめ、経営理念や沿革の分析をするとき、どうしてこういうことをやるんだろうって不思議に思ったんですね。

J-Net:でも、それに意味があると。

柳谷:そうなんです。やっぱり、はじめにこれをやることに意味があるんだろうな、とわかってきました。
 自社分析ですから、毎回、テーマごとに、自社に帰って調べて、資料を作成するんです。 はじめは経営理念や沿革なので社長に、つまり父に聞くんですけれど、経営理念と沿革を調べていくうちに、その関係性が見えてくる。ああ、こういう沿革だから、こういう経営理念になっているんだな、と。また、それが、父が歩んできた道として、父の生き方として、はじめて自分のなかで受け止められるようになってきました。
 そうしたら、はじめて父と話せるようになったんです。これは大きな変化でした。今まで、親子といえども、いや、親子だからなのか、会社のことを話すのはタブーというか、何となく話せない雰囲気があったのですが、会社のことも含め、コミュニケーションの取り方がわかってきたんです。

J-Net:それ以外の変化ってありますか?

柳谷:自社分析にあたっては、テーマごとに内容が異なるので、いろんな社員の方とも話をしなければ資料すら作れません。サラリーマンのときだったら、相手に理解してもらえないことについては、諦めるという形で対処することもありましたが、自社のこととなるとそれは通用しない。なので、どうやったら伝わるのかということを心にとめて話をするようになってきたと思います。

J-Net:4か月でだいぶ変わってきたと、ご自分でも実感されているんですね。

柳谷:自分ではよくわからないんですけれどもね。でも、4か月前と比べたら、いろんなことが、より具体的になってきたのかなと思っています。
 ただ、同期には、もっとすごい人がいっぱいいるから、自分はのんびりしている方じゃないかな。

J-Net:そうなんですか?

柳谷:自分としては、それなりの覚悟をしてきたつもりなんですけれど、みなさん、やっぱりすごいんです。おかげでひっぱってもらえることもたくさんあって、いい仲間に出会えたと思っています。何より「みんなで学ぶ」とい意識が共有されているから、すごく励みになりますよ。

 

他社との交流

J-Net:「みんなで学ぶ」っていい言葉ですね。
そうした意識は、どこで作られるんでしょうか?

柳谷:そうですね。講義のときも勿論ですが、談話室での話を通じてもそうした意識が作られてきているんじゃないかと感じます。むしろ、そっちの方が大きいかな?
 講義のときは、自分がプレゼンした自社分析について、いろんな意見やコメントをもらうのですが、それが率直で、ズバッと入ってくるし、的確なので本当に役に立つんです。
 それから、談話室では、いろんな話をします。自分の会社の問題などに話が及ぶこともありますし、プレゼンの資料を作っていて、ここはどうなんだろうって、互いに見せ合って意見を言い合うこともあります。

J-Net:自分の会社の課題だけじゃなくて、他社の課題も学ぶことができるんですね。しかし、普通は、会社の「今」の「リアル」な課題をそこまで知ることはできないですよね。

経営後継者研修の様子

経営後継者研修の様子

柳谷:たしかに、自社も含めて会社の課題にここまで入り込んで分析することは、そうないのではないかと思います。しかも、これは、全国から集まってきていて、業種も全く違うからこそ可能なことなんですよね。やはり、地域が一緒だと話ができないこともあるし、業種が同じだと競合相手になりかねないですから、そこまで突っ込むことができない。

J-Net:業種が違っても、参考になるんですか?

柳谷:もちろんです。どんな業種でも企業として抱える課題は共通しているという面もありますし、異なる業界・業種だから非常に参考になるということもあります。何より、他業種について知る機会というのは、なかなかないですから。

 

考える軸となる「自社分析」

J-Net:なるほど。大学校の研修にかかると、同期生の会社も学ぶべき「生きた企業事例」なんですね。ところで、通常の事例研究でのケース分析と、自社分析を比べて、大きく違うところは、どんなところなんでしょうか?

柳谷:考えるための軸があるということでしょうか。常に、自社を中心に、また、自社に還元して物事を捉えられるので、わかりやすいですし、実践的なんですよね。ですから、サラリーマンだったときと比べると、いろんなことを考えるようになりました。自分の会社のことなので、気がついたら、ついつい考えているといった感じで、「考える」ということが自然と身に付いてきたように思います。

J-Net:実際に自社を分析されていかがですか?

柳谷:そうですね。また、まだまだ学ぶべきことがあるし、今すぐ取り組むわけにもいかないのですが、自社分析をすればするほど、すぐにでも、会社に戻って取り組みたいと思うことが増えてきました。早く実践してみたくて、うずうずして仕方ありません。
 ただし、こう言ってしまうと、現場主義的すぎるように聞こえるかもしれませんが、決してそうではありません。自社の分析を通じて感じとれるのは、「経営の理論」なんですよね。

J-Net:「経営の理論」ですか。それは具体的にどういうものでしょうか?

柳谷:大学校にきて思ったのは、経営の基本的なことがわかっていなかったな、ということです。財務やマーケティングなど経営に必要な一連の知識を、それも体系的に学ぶことが大事だとわかってきました。その上で、自分なりの理解ができるようになってくる。それから、経営者としての心構えということについてもじっくり学べるのですが、この点については、まだまだ自分が甘いことを実感しました。

J-Net:経営の基本を理論として体系的に学ぶからこそ理解も深まるし、自社分析もできる。そしてそれを応用した形で実践化できるということなんでしょうか。
 今日の演習は、今までの分析などで養った力を応用した、より「実践」に近いものではないかと感じました。研修がスタートしてたった4か月でここまでのレベルに到達するのは、本当に素晴らしいですね。

柳谷:7月の卒業論文提出のときには、もっと考えが深まり、ここで学んだことが実践に活かせるほどの力がついているといいのですが。

J-Net:もちろんですよ。また、卒業論文の発表のときに、うかがおうと思っています。楽しみにしています。今日はありがとうございました。

 

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