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中小企業診断士の仕事

埼玉の西端・秩父から日本一を目指す! 商工会議所で活躍する中小企業診断士

取材・文:同友館編集部

【第2回】終わりなき挑戦で成長を続ける

取材日:2011年1月22日

商工会議所で活躍する中小企業診断士・黒澤元国さんにお話を聞く第2回目。今回は、どのような熱いお話を伺えるのでしょうか。

走りながら成長し続ける"クロサワ流"

黒澤元国さん

― 受験生のときから、中小企業診断士の知識をフル活用していたのですね。本格的な事業計画作成のご経験があったわけではないのに、よくそれだけの計画を実現なさいましたね。

経験はなくても、事業計画作成は2次試験のテキストで学んだ考え方そのものですから。周囲に恵まれていたのも大きいと思います。BMXというアイデアを出したのも、自分ではなく他のメンバーです。「何とかして、このメンバーの夢を実現したい」という思いが強かったですし、こうした計画作成は、経営指導員で、しかも中小企業診断士を目指している自分がやるのが当然だと思っていました。「経験がないからできない」という考え方は、したことがありません。「動くのが好き、攻めるのが好き、守るのは嫌い」という性格のせいかもしれませんね(笑)。

BMXプロジェクトでの経験を通じて、これからの経営指導員に必要なコーディネート機能とは何か、また人をまとめて地域を動かすにはどうしたらよいかを学びました。BMXの取組みを経て、行政の方々などからの信頼を得られたことも、いまにつながる財産です。

― 経営革新支援も、専門家派遣をほとんど利用していないそうですが、計画作成支援はいつ頃から始められたのですか。

平成20年に最初の1件を支援しました。コンサルタントとしての勤務経験などはありませんが、BMXでの経験と同様、中小企業診断士受験で学んだ考え方を使えば、経験がなくてもできるものだと思います。もちろん、多種多様な人が相談にくる中で、1回や2回で答えがわからないことはしょっちゅうです。何度もヒアリングを重ね、その間に業界の情報などを集めながら現状を整理していきます。一番大切なのは、現状分析のための資料づくり、SWOTの前段階をいかに正確に把握できるかだと思います。そうすれば、問題点や解決策も見つけられるはずです。

― たとえば、お客さんには「これはすごくいいアイデアだ」と言われ、別の人に聞くと「そんなアイデアじゃダメだ」と言われて、判断に困るようなことはありませんか。

基本的には、お客さんの「これをやってみたい」という考えは否定しません。ただし、大きな投資やリスクをともなうものであれば、慎重な判断が必要です。事業計画をつくって具体的に数値化できるよう、支援します。また、わからないことは「調べてから解答します」と言うようにしています。大切なのは、「わからないことを、わかったフリをして済ませないこと」だと思います。

― 黒澤さんは、地域を代表するトップ企業の社長さんとのやりとりも多いそうですが、そうした"デキる"社長に対して、腰が引けたりはしませんか。

たしかに、優秀な社長さんは多いです。けれど最初は、臆さずお話を聴かせてもらえばいいし、聴きながら考えればいいと思います。最近では、従業員150人規模の優良企業の経営革新支援なども行うようになりました。

優良企業ですと、何らかの経営革新的取組みはやっています。しかし、それだけ優秀な社長さんであっても、頭の中では経営戦略を描けていても、具体的に詰め切れていないこともあります。たとえば、チャネル戦略をどうするか、誰がどうやって営業をかけるかなど、経営革新計画に落としていく中でブラッシュアップできることは多いんです。こうした取組みを積み重ね、社長さんから直接相談をいただく機会が増えてきました。不可能と思うことでも、チャレンジしてみたら案外できるものですよね。1つひとつの相談を恐れず、思い切って飛び込んでいけば、社長さんは理解してくれるし、仲良くなれると思っています。

― 仕事量も増え続けているようですが、どうしてそれだけの仕事をこなし、飲み会を重ねながら、読書や情報収集ができているのですか。

いまでは読書が好きで、インターネットのRSSリーダーを活用しての情報収集や、経済産業省や国土交通省のホームページチェックもこまめに行っていますが、中小企業診断士受験を始める前は、本を読むのが大嫌いでした。大学時代は、サッカーと麻雀ばかりやっている落ちこぼれでしたし(笑)。けれど、中小企業診断士受験に取組んだことで、自己啓発への投資を惜しまなくなりました。より効率的に情報収集することが必要と感じたからです。

今年からは、中小企業支援課長として指導員を統率する立場になりましたが、スローガンの1つに「スピード」を挙げています。たとえば毎朝、「今日の仕事をどうするか」だけを考えるのか、「今月の仕事の状況とかけられる時間を考えてから、今日の仕事を設計するのか」では、仕事の進み方がまったく違ってきます。自分の仕事のスケジューリングや方法論は、つねに考えるようにしています。中小企業診断士の得意分野ですし、受験生時代の勉強プロセスも役立っていると思います。

― 現在の秩父商工会議所に移ってからは、まだ3年しか経っていないんですよね。1から人脈をつくるのも、大変だったのではありませんか。

実は、経営支援に本格的に取組み始めたのも、商工会議所に移ってからなんです。商工会では、やはり2名しかいないこともあって、村おこしで手いっぱいな部分がありました。いまの商工会議所では、最初から企業支援業務を中心に担当させてもらえたことにも感謝しています。とはいえ、外部から入ってきていきなり劇的な変化を起こすのは難しいものです。私の場合も、1、2年目にまいてきた種が、3年目で花開いてきた感じです。

BMXの関係などで統合前から知っていた方もいますし、中小企業診断士という肩書きのあることが、「何かできそうな人」というメッセージになった部分はあると思います。けれどやはり、秩父でのつながりづくりは、地道な巡回や金融相談への対応、セミナーの企画などを通して育てていった部分が大きいです。それに私の場合は、飲みの席での関係づくりの効果も大きいですね(笑)。昼間は弱音を吐かない社長が、飲みの席では悩みを話してくれることも多いんです。その翌日から支援が始まるようなケースは、実際によくあります。そうしているうちに、社長さんの間の口コミで、また別の社長さんが連絡をくれたりするんですよ。地元の企業から従業員研修を頼まれたりもするようになり、だんだんと関係ができていきました。

地域活性化のその先へ―地域の課題解決を包括的に考える

黒澤元国さん

― BMXプロジェクトの実現に加え、今年は2つの地域活性化策を支援したそうですね。

最初の「地域経営推進事業」は、行政から相談をいただいたもので、国土交通省の補助金がつきました。市町村合併などが進み、地域の中心部に生活機能が集約していく中、限界集落の生活をどう守っていくかは、全国的にみても大きな課題です。秩父市が認定を受けたのは、「出張商店街」の実証実験でした。私は、平成23年3月提出の報告書作成までを支援するのですが、実際にはその後の運営にも指導員としてかかわっていきますので、まさに"何でも屋"ですね(笑)。

その後、民間のタクシー会社から「地域商業活性化事業費補助金(買物弱者対策支援事業)」の支援依頼をいただいたのですが、こちらは経済産業省の補助金がつきました。実は、出張商店街の実証実験をした結果、商店街だけでは交通インフラまで手が回らず、補助金がないと事業継続が難しいことがわかってきていたのです。そういった意味で、経済産業省の補助金に採択されたことは大きいですね。今回のタクシー会社の事業内容は、出張商店街で浮かび上がってきたこの課題を機能補完する内容になっています。そこで、商店街とタクシー会社がタイアップして、買物弱者対策を実施していくことになりました。

― これも、商工会議所の従来の枠を超えた取組みですね。

やはりこれからは、「ウチは商工団体だから、商店街振興だけ」ではなく、地域全体の生活上の課題をどう解決していくかという、交通インフラや医療のサポートも含めた広い視点からみることが必要だと思います。ですから、われわれも時代の変化に合わせた支援体制にシフトしなければなりません。今回の件は、秩父市が国土交通省の補助金を見つけて声をかけてくれ、「一緒に何か考えよう」ということで進めていきました。秩父市と連携しながら、商工会議所は企画のとりまとめなどのコーディネートを行い、実行部隊は民間企業が担います。

こうして行政から声をかけてもらえるのも、日頃からコミュニケーションを大切にしているからだと思います。行政に対してもそうですし、マスコミや金融機関とも、日頃からWin-Winの関係をつくっていくように心がけています。マスコミの方と定期的に情報交換ができるようになったことで、イベントや企業支援のニュースを取り上げてもらえるようにもなりましたし、金融機関から経営革新支援を紹介されるようなケースも出てきましたから。

― 地域でプロジェクトを実施するとなると、対立関係の調整なども出てくるのではありませんか。

たしかに最初は、考えていることがバラバラです。私は、プロジェクトを進めるうえで一番大切なのは、事業の目的をちゃんと伝えられているかということだと思っています。反対していて、一見阻害要因のように見える人にも事情はありますし、頭ごなしに否定はしません。9割は反対でも、1割は取り入れられることがあるような場合も多いですからね。組織として何がやりたいのかをきちんと考え、伝える。対立の立場にある人とも、折り合える場所を探して事前のすり合わせをする。そしてそのとき、根回しはすごく大事です。だからこそ、日頃から人との関係を大切にしているのです。

(つづく)

黒澤元国(くろさわ もとくに)
秩父商工会議所経営指導員、中小企業相談所中小企業支援課長。1972年生まれ。立命館大学経済学部卒業。2007年中小企業診断士登録。経営品質協議会認定セルフアセッサー、一級販売士。大手スーパーや医療法人などの勤務を経て現在、秩父商工会議所経営指導員として創業や経営革新支援等の各種相談業務に従事。ブログ「モトログ~ある診断士の終わりなき挑戦」http://blue.ap.teacup.com/motokuni/は、2004年12月より毎日更新中。