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中小企業診断士の仕事

中小企業こそ、ワーク・ライフ・バランスを!

文:女性コンサルタントネットエルズ

【第3回】現場からみるワーク・ライフ・バランス支援のポイント

次世代法改正と中小企業のワーク・ライフ・バランス

2005年に次世代法(次世代育成支援対策推進法)が改正され、中小企業でもワーク・ライフ・バランス(WLB)の導入が重要な課題となってきました。

具体的には、従業員数101人以上300人未満の企業は、2011年から仕事と子育ての両立支援などの「一般事業主行動計画の策定・公表」等が義務化されます。大企業では、すでに2009年4月から法定義務として実施中ですが、中小企業では、経過措置として現在は努力義務とされているものが1年半後に義務となります。ちなみに、新たに義務化される対象事業所数は5万ヵ所前後、対象従業者数は800万人前後と考えられます(※)。

※「平成18年度総務省事業所・企業統計調査」では、従業者数100~299人の事業所数は45,769事業所、従業者数は725万人。同規模の増加率は約7%。

義務化後、最初の課題となる「一般事業主行動計画の策定」では、全社的な意識改革や経営戦略としての位置づけが必要となります。同時に、組織・人事マネジメントの改変もともないます。このため、準備にはある程度の期間と専門的なノウハウが必要で、中小企業診断士の支援が待たれる分野となっています。

現状は啓発期

中小企業のWLBへの関心は、現状では高いとは言えません。理由として、従業員施策の改善はもともと後回しにされがちなこと、女性向けの福利厚生というイメージが強いこと、法定義務化にはまだ間があると思われていることなどがありますが、特に「コスト増になる」、「利益につながらない」、「これ以上の効率化は困難」などの意見が聞かれます。

ここでは、私がWLBの普及・啓発セミナーや企業のコンサルティングで聞く声を取り上げ、中小企業のWLBについてQ&A形式で確認してみたいと思います。

◇企業の意識、導入の障害、支援者の目

Q:WLBと言われるけれど、企業にとって何がプラス?
A:

    WLBは、「働き方・働かせ方のイノベーション」です。このイノベーションが企業にもたらすプラスは、大きく
  1. 事業全体の生産性の向上
  2. 優秀な人材の確保・維持・育成
  3. 競争力を持つ創造的な企業風土づくり
  4. の3つです。

Q:何をやることなのかわからない。何から手をつけたらいいのだろう?
A:

    実施内容は、大きく
  1. 恒常的な長時間労働をなくす
  2. 多様で効率的な働く仕組みをつくる
  3. 効率的な働き方をする人材を育成する
  4. の3つです。まずは、「仕事だけ」から「仕事も私生活も」への意識改革から始めるとよいでしょう。

Q:この不況下で、WLBどころではない......。
A:

    「皆が同じ不況時」に、新たな打開策をうつことこそ生き残り策となります。WLBには、中小企業だからこそ手を打ちやすい策も多いのです。頑張る=長時間労働、問題解決=根性主義では、利益出しが難しい時代です。「業務の見直し」や「ムダ省き」に新しい視点で取り組むWLBの推進で、強い人材・企業づくりをすべきときです。

Q:WLBなんて、余計なコストがかかって経営が苦しくなる。
A:

    各種試算では、育児や介護事情などの理由で退職者を出すよりも、就業の継続のほうがコスト面で有利、とのデータがあります。基本的に、ハード投資ではないソフトな施策のため、コストは思うほどかかりません。さらに、
  1. 業務の効率化でコストを相殺
  2. コストの低い策からスタート
  3. 助成制度の利用
  4. などで負担減が可能です。

Q:休暇を増やして労働時間を短縮したら、仕事が回らなくなる。代替要員もいない。
A:

    休暇や労働時間の見直しと同時に、業務の見直しを進めます。今後は、代替要員の確保も必要です。介護・病気休業なども、これまで以上に発生するでしょう。日頃からパートなどでの一時的代替、多能工化や多職能化による欠員補充などの準備をしておく必要があります。

Q:うちには若い女性従業員がいないから、関係ないのでは?
A:

    働き方に問題意識を持っているのは、若手や中堅男性従業員も同じです。夫婦の共働きも増え、WLBはすでに男性(父親)のテーマにもなっています。今後は男女年齢を問わず、経営者も含めたあらゆる従業員が、介護と仕事の両立問題に直面する可能性があります。

Q:社内の意識を変えることが難しい。どう進めたらよいのか?
A:

    多くの企業は、長時間労働を前提にした仕事体質に慣れきっていて、変えるのは大変です。意識変革では、
  1. トップの意識改革
  2. 管理職の巻き込み
  3. 制度を含む推進システムの整備
  4. 全社向け研修の実施
  5. 広報活動
  6. などがポイントです。「長時間労働をしないで成果を出す」価値を浸透させ、同時に業務効率化の環境整備を進めます。

◇経営者が本気で取り組むWLBの成果

<従業員が辞めていくケース>

  • SE職男性(35歳) 妻の出産と同時に退職、別のIT企業に転職した。
    退職の理由:前職の給与はかなり高かったものの、仕事量が膨大で、共働きの妻との家庭生活両立は不可能だった。報酬は下がったが、家事や自己啓発の時間を持てるので満足している。
  • 金融機関総合職女性(27歳) 報酬より、自分の時間を確保できる会社を選ぶ。入社5年目、スキルアップのためにビジネススクールに通い始めたが、上司から「残業してくれ。勉強より、目の前の仕事をしろ」と言われた。
    退職の理由:上司のひと言。このままでは、スキルアップも結婚・子育てもできない。

企業側からは、「ラクをする従業員を増やすだけではないか?」という声があるのも事実です。前述の例は、仕事やスキルアップ、私生活すべてに意欲的な働き手です。かつては、会社が従業員の時間を自由に使う働かせ方が可能でしたが、終身雇用や高収益の配分が難しい今後は、従業員の働き方も会社との関係も変わります。

<従業員が「残業なし、収益増」で元気になったケース>

    次の例は、従業員の事情をよく知り、対応することで業績を上げた中小企業です。
  • 東北地方で医療器具販売を行うA社は、農業との兼業社員や介護などの事情を抱える従業員が多かった。そこで、安定した雇用と収益性確保のため、業務の効率化と残業削減を進めようと、社長自らが従業員一人ひとりと話し合った。従業員には経営情報を開示し、それぞれの事情に合わせた目標設定・目標管理を行い、自発的貢献意欲の引き出しを行った。
     このミーティングを始めてから社内の空気が変わり、残業ゼロと高い目標達成度を実現。従業員の成長スピードも速くなった。今では、全員が新しいチャレンジに取り組む風土に変化し、同業他社に比べて収益性も高くなった。

◇WLBは経営戦略

日本では、すでに多くの人が「仕事の充実」と「それ以外の生活の充実」の二者択一ではなく、両方のある社会や働き方を望むようになっています。前述のA社は、こうした従業員の多様な意識や事情に対応したケースです。

企業は、経営の効率化と付加価値生産を高めるためには、従来型の働かせ方では限界があることに気づき始めています。この限界に対する企業戦略が、WLBの推進と言えます。「ヒト」資源の新しい活用視点として、また生産性向上や付加価値創造の策として、働き方・働かせ方の戦略的イノベーションが求められています。

支援者の心得

図1 WLBへの取組み意向

図1は、中小企業の人事・労務担当者が参加者の大半を占めるWLBセミナーで、「WLBへの取組み意向」を聴取した結果です(関東地区で2009年7~8月に実施)。

「取り組んでいきたい」は22%、「取り組んでいくよう努力したい」が71%と、法定義務化を控えた環境からは、やや煮え切らない姿勢にもみえます。担当者としては、「努力したいが、できるだろうか。余裕がないし、どうしたらよいのだろう」といったところかもしれません。

図2 労働時間制度の実施状況

一方、対象別の労働時間制度の実施状況を聞いたところ、「妊娠中及び出産後の者」への実施が30%、同じく「子を養育・家族を介護する者」が30%と、いずれも法律で定められた制度にもかかわらず、実施は低い数値にとどまりました(図2)。

こうした数値の背景には、人材資源への認識が旧来型の人事・労務管理の域にあり、WLBと経営戦略の関係の意識化が不十分なことや、「小企業の現実は、倒産しないための賃金確保に必死」(フリーアンサー)という現実があると考えられます。

また、WLB実施上の障壁としても、「仕事の量が変動し、一律に改善できない」(OEM企業、下請け企業、本社と事業所の関係などから)、「管理が煩雑なため、進んでいない」といった声がありますが、一方で、「ビジネスの大きな変化点にある」、「社員のスキルや会社システムを変えるためのビジョンを掲げていく必要がある」、「経営者の意識改革が必要」、「本社にWLBを提案する」といった前向きな声も多くありました。

支援現場では、トップ層の意識の遅れや担当者レベルの問題(人事・総務担当者の多忙、知識不足、WLBに割く人材不足と社内における孤立など)、長時間労働を生む生活給の実態など、さまざまな課題が見受けられます。それだけに、中小企業が単独・自力でWLBを一定水準に高めるのは、容易なことではありません。

支援の課題は、まず「意識改革」、そのための「WLBコンセプトの普及・啓発」、そして「具体的手段・進め方の伝達」、「実際の推進に係るアドバイス」となるでしょう。支援者の適切なサポートが求められています。

(おわり)

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