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中小企業こそ、ワーク・ライフ・バランスを!

文:女性コンサルタントネットエルズ

【第1回】What is WLB?――ワーク・ライフ・バランスとは何か

なぜ今、WLBなのか

「ワーク・ライフ・バランス」(以下、WLB)――こんな言葉が、ここ2、3年でにわかにメディアに登場するようになりました。

「ワーク=仕事」と「ライフ=人生」の「バランス」? 漠然とイメージはできるものの、そのコンセプトと目指すところを明確に理解し、自らの職場や生活で実践している人はどれくらいいるでしょうか。中小企業を対象にしたセミナーやコンサルティングで得た私の経験からお話しすると、残念ながらその重要性は、まだまだ浸透していないようです。そこで本稿では、WLBが重視されるようになった背景とその意義について説明するとともに、中小企業にこそWLBが必要な理由について述べたいと思います。

2007年12月、政労使の合意に基づき、「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」および「仕事と生活の調和推進のための行動指針」が策定されました。

少子化の進行や平均寿命の伸長により、日本の人口ピラミッドはかなりいびつな様相を呈しています。このため、2005年に6,772万人だった労働力人口も、2025年には6,296万人になると予測されるなど、年平均18万人以上減少し続けています(総務省統計局「労働力調査」など)。また、共働き夫婦の割合も年々増加し、子育てや介護、仕事の両立は、女性だけの問題ではなくなりました。さらに、早期離職や非正規労働の多い若年層、スムーズな現場復帰が求められる高年齢層など、人生の段階によって働く側の事情や問題も異なります。

一方、世界的な大不況に見舞われ、従来の経済システムや産業構造は激変しています。その中で日本は、非正規労働者を増加させ、正規従業員は「長時間労働大国」と言われる働き方を続けながらも、労働生産性は先進7ヵ国で最下位。長時間労働に起因するメンタルヘルス上の問題も、続々と表面化してきました。

前述のワーク・ライフ・バランス憲章では、「国民一人ひとりがやりがいや充実感を感じながら働き、仕事上の責任を果たすとともに、家庭や地域生活などにおいても、子育て期、中高年期といった人生の各段階に応じて多様な生き方が選択・実現できる社会」を目指すために、以下の3点を強調しています。

  • 就労による経済的自立が可能な社会
  • 健康で豊かな生活のための時間が確保できる社会
  • 多様な働き方・生き方が選択できる社会

高度経済成長期以降、仕事が最優先という風潮が根強く残っていた日本社会ですが、政府による強力なバックアップを受け、ようやく変わり始めています。その背景にあるのは、「お金だけでなく、自分のライフスタイルに合った多様な豊かさ」を求める国民一人ひとりの意識の変化です。従来型の働かせ方や職場環境の延長では、もはや対応できない時代が訪れています。

では、多様化する働き方へのニーズに応えつつ、従業員がいきいきと能力を発揮できる職場環境をつくるために、経営者は何をしたらよいのでしょうか。

図表1 ワーク・ライフ・バランスが求められる背景
図表1 ワーク・ライフ・バランスが求められる背景

WLB=働き方・働かせ方のイノベーション

予測不可能な経済不況を前に、多くの企業が機能不全に陥っています。こうした環境下で、競争力をつけ、企業価値を高めていくには、既存システムの枠組みを超えた新しい視点から、自社のあり方を見つめ直す必要があります。

これまで述べてきた社会的・経済的状況からも、WLBは性別や年齢を問わず、すべての働き手にかかわる重要なテーマで、企業側としても決して無視はできません。目指すところは、優秀な人材確保と社内の士気向上、そしてその結果として得られる組織全体の労働生産性向上です。「企業と従業員、双方にメリットがある全社的な仕組みづくり」と言い換えれば、わかりやすいでしょうか。

まずは従業員の声に耳を傾け、働き方と働かせ方をマッチさせるところから始めてください。それが、新しい働き方・働かせ方を創造していくよいきっかけとなります。小さな創意工夫を積み重ねるうちに、組織力が強化されたり、従来にはない発想力が育まれたりと、結果的に企業変革につながるため、私たちエルズでは、WLBを「働き方・働かせ方のイノベーション」と認識しています。

経済面では成熟期を迎えながらも、これまでの日本企業の働き方・働かせ方に対する問題意識は、きわめて低いレベルにとどまっていました。昨今、"日本式労働"が限界に達し、多くの面でほころび始めている原因は、第二次産業が主流だった頃の「量で稼ぐ」体質から抜け出せていない点にあります。

経済の中心は第三次産業へシフトし、収益の源として、戦略やアイデアといった「質」が問われるようになりました。「量」から「質」へ――この国にとって急務である働き方・働かせ方のパラダイム転換を牽引するのが、WLBへの取組みなのです。

WLBの費用対効果

<残業を減らす>
  • 残業申告制度の導入
  • ノー残業デーの導入
  • 残業免許制度の導入
<休暇を活用する>
  • 計画年休制度の導入
  • 半日休暇制度の導入
  • 連続休暇制度の導入
<労働時間の弾力化を図る>
  • フレックスタイム制度の導入
  • 変形労働時間制度の導入
  • 裁量労働制度の導入
  • 短時間勤務制度の導入
  • 在宅勤務制度の導入

すでに導入されているものもあるかもしれません。しかし、何よりも大切なのは、企業内の意識改革ありき、という点です。経営者と従業員が一丸となり、双方にメリットをもたらすような創意工夫を行おうという共通認識のないまま、制度のみを部分的に導入しても、メリットは生まれません。企業の中長期戦略に基づいた、全社的な意識づけが根底にあってこそ、制度は生きてくるのです。

では最後に、実際にWLBを導入した企業における変化をみてみましょう。

<株式会社イノス>
  • 事業内容:情報サービス産業
  • 所在地:熊本県熊本市(本社)、福岡県福岡市(支社)
  • 従業員数:104名
  • 主な取組み
    :短時間勤務と、週3日などの短日勤務を導入
    :裁量労働制度、在宅勤務制度を導入(一定能力以上の従業員が対象)
  • コスト:在宅勤務者にはパソコン購入費用(20万円程度)と通信設備費用が発生
  • メリット:
    1. 短時間勤務の導入で、人材育成コストと採用コスト(従業員の負担を含む)が減少
    2. 新人対既存従業員の比率が10~15%→5~6%へ変化し、人件費の抑制を実現
    3. 地方の中小企業だが、大卒者を毎年5名以上採用できている
<株式会社カミテ>
  • 事業内容:プレス金型設計・製作およびプレス加工
  • 所在地:秋田県鹿角郡小坂町
  • 従業員数:30名
  • 主な取組み
    :法定超の看護休暇制度の導入(1時間単位で取得可)
    :5日間の妊婦特別有給休暇の導入(通院時間について1時間単位で取得可)
    :事業所内保育施設の設置
  • コスト:事業所内保育施設について、建設費1,700万円、年間運営費400万円が発生(うち半額は、21世紀職業財団からの補助金でまかなう)
  • メリット:
    1. 不良品の発生が10万個あたり1,000個から3個へ激減
    2. 従業員が業務代替を行うことで「お互い様」意識が醸成され、職場内のチームワークが高まった
    3. 顧客から好意的な評価を受けるようになった

資料:男女共同参画会議仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)に関する専門調査会「企業が仕事と生活の調和に取り組むメリット」(2008.4)

また、WLBが企業業績と職場に与える影響については、以下のとおりです。

図表2 ワーク・ライフ・バランス(仕事と育児の両立)を支援する取組みが企業業績に与えるプラス面
(単位:%)
図表2 ワーク・ライフ・バランス(仕事と育児の両立)を支援する取組みが企業業績に与えるプラス面
資料:(株)富士通総研「中小企業の両立支援に関する企業調査」(2005.12)(『平成18年版中小企業白書』より)

図表3 ワーク・ライフ・バランスが職場に与える影響
(単位:%)
図表3 ワーク・ライフ・バランスが職場に与える影響
資料:内閣府「両立支援・仕事と生活の調和推進が企業等に与える影響に関する報告書」(2006.12)

図表2、3のいずれからも、WLBの推進がプラスの変化につながっていることがわかります。企業規模の大きい会社と比べ、優秀な人材の確保や雇用の維持が難しいのは、多くの中小企業の悩みでした。しかし、図表2が示すとおり、WLBへの着手は、そうした雇用問題を解消する効果的な手法でしょう。

また中小企業には、大がかりなコストをかけずにWLBのメリットをより早く享受できるという、小規模ならではの利があります。WLBを推進していこうという経営トップの気概が社内にきちんと伝われば、企業と従業員の双方が幸せになる仕組みを創り出すのは、それほど難しいことではないはずです。

(つづく)

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