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広尾商店街支援レポート―まちの「豊かさ」再生への挑戦

レポート:油井 文江(中小企業診断士)

【第4回】商店街支援とまちづくり

リタイア周期とまちへの姿勢

最後に、これからの商店街支援と、そこに欠かせないまちづくりの考え方を述べておきたいと思います。

商店街や小売経営は、戦後、厚い保護と規制行政に守られてきました。モノ不足から高度成長へと至る過程は、店はモノを「置いておきさえすれば売れる」時代で、現在高年にさしかかる経営者やその先代は、成長する商売の醍醐味をたっぷり味わった経営者です。それが、1980年代半ば以降の規制緩和やモータリゼーション、消費者意識の変化等による商業環境の激変で、流れが一気に変わりました。

恒例「大鮪祭」の日。にぎわう広尾商店街
恒例「大鮪祭」の日。にぎわう広尾商店街
鮪と子どもたち
鮪と子どもたち

商店街の歴史は、大規模店舗と中小小売店・商店街の争いの歴史だったといえます。それでも、高度成長期は毎年10%の経済成長を遂げ、消費のパイは拡大。1982年(昭和57年)に小売店舗数172万軒でピークに達する頃までは、商店街はまさに輝いていました。

往時はまちも商店街も個店も、建設期でありまた消費期であって、まちや地域全体が、景観整備などのハード整備を課題にしていました。しかし、一定程度インフラ整備がなった今、気がつけばまちは荒れた様相を見せはじめています。商店数は1997年には140万軒に落ち込み、その後も減少し続けるなか、ついにはシャッター通り商店街が日本全国で現出、という経緯はよく知られるところです。

この商店数の減少には、年齢構成から見て自然な側面もあります。戦後苦労して商売を立ち上げてきた先代や現役店主の多くがリタイアの年代にあるからです。問題はむしろ、「どうリタイアするか」にあるでしょう。

小売店としての役割を果たし終える場合、その後をどうするかは周辺に少なからぬ影響を与えます。自分の代で店を閉めてシャッター店舗のまま経過する、業種・業態を問わぬテナント貸しで、まちの美観や統一感が損なわれる、商店街の魅力を損なう業種構成になる、などなど。こうした容易に想定できるまちや商店街の行く先について、現経営者がどう考えていくかが大事になっています。一方では、個人商店では抱えきれぬ問題を、地域や行政がどう受け止めるかも、具体的政策の問題として今問われています。

商店街や地域の未来づくりは、時代や文化(国全体の、そしてまちの)、またそこに住む人の成熟度が大きく絡むものでしょう。ここでは、文化や成熟を創るのは誰でもなく、一人ひとり、地域や商店街、個店そのものでもあることを認識しておきたいと思います。

広尾の商店主たちの「3方良し」

―「私」から「私たち」へ、「商店街」から「地域」へ、「利益」から「豊かさ」へ

今、広尾の商店主たちは、商売はもちろん、まちの激変に危機感を持っています。代々続く地域の人々と商業環境のつながりが希薄化し、生活の「豊かさ」が失われつつあると感じるからです。彼らの言う「豊かさ」とは、経済に限りません。人どうしが温かく触れ合えるまち、昔からの文化がそこはかとなく人を包む暮らし、そうした目に見えないものが豊かさを創るのではと、考えはじめています。

中井裕之理事長はスナック「めだかのがっこう」の先生?
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花屋の哲学を...:55年まちを見てきたヒロオ花店店主
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55年まちを見てきたヒロオ花店店主

今年度の広尾商店街の店主たちが挑戦していることは、自分たちの立場からできるまちの「豊かさ」創りだといえます。花屋は日持ちの良い美しい季節の花を、魚屋はスーパーでは買えない刺身の味を、乾物屋は長年の目利きでどこにも負けない旨い昆布を味わってほしい、その愛でかた、食べ方を伝え合う丁寧な暮らしが豊かさにつながるのだと商店主は考えています。これは近江商人の「3方良し」でもあります。売り手も良い、買い手も喜ぶ、まちも良し、です。

こうしたモノを商う専門家としての喜びと技術、知識が今なくなりつつある。自信を持ってやってきた商売の「まっとうな」世界がこのままでは消えてしまう。この対策を個店だけではなく、商店街やまち全体で取り組もうとのエネルギー源は、「自分たちのまち」をなんとかしたいという気持ちです。

ここには、公(おおやけ)への新たな志向が見えます。地域をかけがえのない公共財として意識する、もう一度育てようという気持ちです。2年近くの学習会を経るなかで、「まちづくりは商店街だけのものでなく、地域社会そのもののテーマ」という意識が内部で持たれるようになりました。

こうした意識や動きの萌芽を、兵庫県立大学の中沢孝夫教授は著書「地域人とまちづくり」の中で、(日本人の)もっぱら消費だけしてきたまちに対する、新たな「意識的投資の時代」と表現しています。投資とは、「自分たちのまち」をなんとかしたいという、地域に住む人の新しい動きのことです。そして、このような意識は、「日本人にとって初めての意識」だとも述べて、これからのまちづくりへの期待を託しています。

商店主一人ひとりの胸の奥にある思いが、まちと商売の伝承、後継者問題へのチャレンジへと自らを動かしています。広尾ならではの「豊かさ」とは何か、商売と地域をどう守り育てるか、広尾商店街は自分たちの手でこのこたえを生み出そうとしています。