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中小企業診断士の仕事

広尾商店街支援レポート―まちの「豊かさ」再生への挑戦

レポート:油井 文江(中小企業診断士)

【第3回】後継者育成へのチャレンジ

2006:年間学習会がスタート

広尾商店街では、2006年度の学習会を、統一テーマを立てて進めました。テーマは、1)個店が創る広尾の元気、2)後継商人育成(広尾チャレンジプロジェクト)です。

月1回のペースで、仕事が終わった後の時間を勉強に当て、次の内容で1年間続けました。

(1)広尾の商業環境変化と個店経営の検討編

  • 広尾関係の商業データを検討=売上推移、人口動態、隣接商業地域との商業力比較、新しいマーケティング、販売促進の流れなど
  • まちづくりの考え方を検討=少子高齢化にどう対応するか、安全・安心のまちづくりなど
  • 広尾のブランディングの研究=商店街の統一コンセプトと個店のコンセプトなど

(2)売る技術力アップ編

  • 接客技術の研究=CS、接客マナー、接客トークなど
  • 店づくりの研究=品揃え、商品レイアウト、陳列など
  • 広告・販促の研究=チラシ、POPの作り方など
  • 顧客満足の研究=顧客データ管理、商店街イベント、キャンペーンの打ち方、など

2007:後継者育成チャレンジ、高齢化問題

広尾で80年の魚屋「福田屋」でのヒヤリング
広尾で80年の魚屋「福田屋」でのヒアリング
通りから見た福田屋
通りから見た福田屋

(1)広尾チャレンジ:後継商人育成へ

2007年度の広尾商店街は、前年の統一テーマである、1)個店が創る広尾の元気、2)後継商人育成(広尾チャレンジプロジェクト)をさらに進め、後継者問題へのチャレンジに大きく踏み込みました。目指す活動のポイントは以下のとおりです。

○広尾後継商人チャレンジ塾(仮称)
【目的】

  • 今後継続的に直面する後継者育成問題の、自分たちでできる解決策を探る
  • 広尾の商店主が持つ商人スキルや知識の伝承を行う
  • 広尾商店街・ブランドの広報を行う

【スタート時のポイント】

  • 商店主の後継育成に関する意識調査を実施し、活動内容に反映させる
  • 商人塾:本年度は、広尾商人の知識・スキルの伝承と、若手世代との交流に重点を置く
  • 後継可能形態の探索:チャレンジショップ等のノウハウを獲得する
  • 模擬展開等のトライアルを行う

(2)広尾の後継者問題の現状

2007年度活動のスタートとなった「商売とまちの継承に関する経営者調査」(2007年6月実施)で、広尾商店街の現状を見ると、後継者は回答者中の半数以上がいないと答える、不安定なものでした。以下は調査結果の一部です。

  • 商店主の半数が60代以上
  • 当地での戦前からの商い店舗が3割、半世紀以上で見ると4割、逆に、10年未満の新しい商店も4割と多い
  • 後継者は半数以上が「いない」もしくは「未定」
  • 後継者は現在いないが、「何らかの方法で経営を続けたい」は2割、「廃業する」が該当する店舗の4軒に1軒と多い。半数は未定
  • 「後継」について家族や夫婦で話し合うのは4割、4軒に1軒は話し合いなし
  • 全体の2割が、商店街での「後継者教育への取り組み」を希望

(3)商店街に共通する「経営者の高齢化等による後継者難」

中小企業白書(2006年版)によると、「高度成長期に20歳代から30歳代で大量に創業した経営者世代が、現在一斉に引退時期へさしかかっている」として、創業者世代の引退が中小企業経営に及ぼす影響の重大なことを述べています。

「承継アンケート」によれば、現時点で経営者が55歳以上となっている中小企業全体のうち、4.4%(予測最大値)の企業は、「財務的には経営継続可能であるにもかかわらず、最終的に後継者がいないために廃業する可能性がある」という結果です。

これを商店街で見ると、中小企業庁が実施した「平成18年度商店街実態調査」によれば、商店街の大きな問題点は、「魅力のある店舗が少ない」36.9%、次いで「商店街活動への商業者の参加意識が薄い」33.4%、「経営者の高齢化等による後継者難」31.4%、となっています。

平成12年度の調査までの大きな問題は「大型店との競合」でしたが、今は「個店の改善」や「参加意識の向上」、「後継者不足」が主要な問題となっていることがわかります。

若手診断士チームの登場

広尾商店街の後継者問題の解決策をと、経営者の意識調査からはじめた2007年の活動では、若手診断士たちの活躍が特筆されます。

「後継者育成チャレンジ」のスタートに当たり、診断士に向けて、「商店街支援」、「後継者問題へのチャレンジ」、「調査活動とワークショップ」のキーワードで希望者を募ったところ、すぐさま10名のチームが成立しました。その多くは、診断士登録後間もない企業内診断士でした。

実施側には、サンプル調査にはマンパワーが必要という事情もありましたが、それよりも、商店街や小売商人を知ることは、中小企業診断士の専門能力を磨く機会、平たく言えば「勉強になる」絶好の機会と考えたからです。こう考える背景には筆者の体験もありました。

広尾商店街振興組合事務所でのワークショップ
広尾商店街振興組合事務所での
ワークショップ
調査の集計・分析をする若手診断士チーム
調査の集計・分析をする若手診断士チーム

中小企業診断士のほとんどは大手企業出身者かあるいは現在勤務する者です。加えて、中小企業診断士の約95%が男性ということもあり、小規模小売商業や近隣の商業集積とは接触が少なく、実態を「知らない」診断士も多いと思われます。筆者も4年前に診断士登録をした時は、商店街の知識は受験対策で得た内容程度であり、店舗の奥や組合組織の内部はブラックボックスでした。それが診断士ノウハウだけで飛び込み、揉まれるうちに、中小企業や中小小売を体感し、認識できたという経緯があります。

中小企業の抱える課題は、製造業、小売業を問わず共通性を持ちます。ヒト、モノ、カネ、ノウハウのマネジメントとマーケティング力に係わる脆弱性です。筆者は、商店街支援で、中小企業への見方を得ることができましたが、より大きな成果は、特に中小小売の場合、診断ノウハウだけ持っていても仕事はできないと知ることでした。

商店主たちは自負も誇りもある一国一城の主です。売上の調子が悪いからといって、すぐ本音を開陳するとは限りません。本当のことを知るための信頼関係づくりには、企業内の一種合理的な人間関係とは異なるコミュニケーションが必要なことも、実際の体験が教えてくれたことです。

こうした背景もあってか、「後継者育成チャレンジ」は、ボランティアワークを含む活動スキームでしたが、集まった診断士の関心とモラールは大変高いものでした。

今、若手診断士は旺盛な関心を持って広尾商店街に通っています。
以下は、診断士チームがやっていること、これから予定することの一端です。

  • まちを見る、ヒアリングする:通りの裏・表を診断士の目で何回も見てヒアリングをすることで、生活の場としての最寄型「商業」を新発見しています。
  • 商店主との交流:ワークショップで、商店主から悲喜こもごもの話が出ます。聞き入る診断士に、夜10時になって商店街から缶ビールが差し入れられたことがあります。双方の感情・意識交流が一気に進んだシーンでした。
  • 商店経営・後継問題に関する調査票の設計:商店街チームとともに、調査内容を設計します。調査票の印刷、各組合員への配布、回収は、商店街側のチームが担当です。
  • 調査票の集計・分析:商店街に関する1次データの収集と合わせ、集計・分析の工程に入ります。生データの面白さに集計作業の負荷を忘れ、問題解決のブレーンストーミングが盛り上がりました。
  • これから進める内容:調査結果を検討するための商店街とのワークショップ、後継問題への提言、個店への助言を含む具体的行動のサポート、後継者候補や商店街の若手経営者とのミーティングなどなど。どうすれば問題解決するか、支援施策の紹介も含め、診断士チームのコミットメントは深くなりそうです。