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広尾商店街支援レポート―まちの「豊かさ」再生への挑戦

レポート:油井 文江(中小企業診断士)

【第2回】行政、支援機関、診断士チームの連携

パンを用意するか、パンの焼き方を提供するか

前回は、支援の仕組みやツールのパッケージ化について述べました。 ここで、中小企業診断士が、地域や商店街を支援対象とする場合の、企業をクライアントにする場合と比べた一種の困難もあげておきたいと思います。時間がかかる、コストがかかる、成果の評価がしにくい、の3点です。

企業は営利追求の組織体ですが、地域社会は生活の共同体で、営利要素は基本的にありません。商店街はどうかというと、商店は営利を追求しますが、同時に地元に根ざした生活者であり、商店街組織は福祉重視の"ゆるい"仲間組織でもあります。営利のための行動水準は、企業体と比べて一定程度低位です。マーケティングやマネジメント水準も決して高いとはいえません。

するとどうなるか?

コンサルタントとの二人三脚は一直線にいけば素晴らしいですが、そうやすやすとはいきません。地場で長い商売をする商店街に落下傘のごとく降り立つ中小企業診断士は、商店主たちと互いの脚を結び合うだけでも時間がかかります。

相手の商店主はというと、浮かぬ顔ですが動きません。どう動いたらよいかわからない、というのが実態でしょう。この背景には、困る前に時の政治・行政が助けてきた歴史があります。「中心市街地等、商店街の衰退あるいは空洞化の原因の一つは、政策が無かったからではなく、逆にありすぎたからだ」と、中小企業支援に長く携わった兵庫県立大学の中沢孝夫教授は指摘しています。長い依存が「いざ逆境」に用いるべき頭・足腰を弱めたとも。

公的支援のパラダイムが自助努力へと変わった今、お手伝はこの「人頼み」の遺伝子解除からはじまります。しかし、「遺伝子解除なんて余計なお世話」が商店主の基本的態度です。それをなぜ必要か、どのようにできるか一緒に考えることから支援はスタートします。これは急いでできることではありません。

実はコンサルタントが最初にできることはほんの少しだと考えています。それは知とスキルを紹介して元気を煽ること。商店街弱体化の原因には、ハード重視で主体の力=ソフトを軽視した歴史がありました。そして今、時代は「目の前にパン」より、「パンの焼き方」を身につけることを求めています。自らマーケティングやマネジメントのソフトを手にし、やる気を自覚した商店街になっていただくことが大事です。商店街の自律的で主体的な活動が、生産性を高め、社会的コストの低減につながります。

外部講師を招いてのオープン講座:シブヤStyle研究会
外部講師を招いてのオープン講座:
シブヤStyle研究会

さて、地域や商店街を支援対象とする場合の困難として、時間がかかる、コストがかかる、成果の評価がしにくい、の3点をあげました。シブヤStyleプロジェクトをはじめ、診断士チームの活動では、さまざまな支援機関や支援策を活用することで、克服を図っています。

東京都中小企業振興公社の専門家派遣制度、渋谷区商工観光課のイベント支援制度、同区経営相談員からの支援、東京商工会議所渋谷支部のまちづくり事業支援等の公的支援、また、(社)中小企業診断協会東京支部の地域支援事業の補助、同支部の関連する研究会からのバックアップ、等々です。単年度で終わる活動ではないため、年度ごとに支援策の活用の検討をしています。中小企業診断士の支援活動では、こうした公的支援策の活用が大変重要です。今は意識改革がテーマの段階ですが、今後はまちづくりの進展とともに、支援機関や制度との連携が一層必要になってきます。

広尾商店街の学習作戦:専門家派遣のスキームを使った支援

2007年、広尾商店街は自ら考え、行動をはじめています。これは、2005年~2006年の2年間にわたる学習活動を経てたどり着いた地点と考えています。

2005年の「広尾オープンミーティング」の後、商店街理事長から相談を受けました。「街頭放送で各店舗の宣伝放送を流しているが、(宣伝文句の)原稿が集まらない」というのです。宣伝部長にヒアリングをしたところ、各店主が「何を言ったらよいかわからない」、また、「言いたいことを原稿に表せない」ということがわかりました。

そこで、東京都中小企業振興公社の専門家派遣制度を活用して、PRの勉強会をしようということになりました。

勉強会は3回、夜仕事を終えてからの2時間。組合事務所での勉強は、次のプログラムではじまりました。


ワークショップの内容
 1回目
  ○月○日
 20時~22時

お店のセールスポイントをつかむ、表現する
―お客(人口)が減る、競争が激しくなるなかで、自店を捉えなおす、表現するポイント
 2回目
  ○月○日
 20時~22時

キャッチコピー、POPの基本を身につける
―広告宣伝コピーを書いてみる
―顧客志向、顧客満足が大事な理由
 3回目
  ○月 ○日
 20時~22時

広尾での店づくり、販促のポイントを考える
―こうありたい店、こうありたい広尾、実現のためのPRのポイント

この学習会では、自店の強み弱みを出し合い、参加者間で意見交換をしながら実際のコピー作成に取り組むという、体験型のワークショップで進めました。ワークショップでは、参加者が、表現の技法以前に、自店経営の把握が不十分であることに気がついたこと、が収穫でした。また、日ごろ商店街活動への参加が少ないメンバーも顔を出すこと、組合活動のアピールにもなることなど、3回の学習会は好評でした。

この学習が呼び水となり、次年度・2006年度の年間を通じた学習会につながることとなります。こちらも東京都中小企業振興公社の支援事業と、(社)中小企業診断協会東京支部の地域支援事業などを活用したものです。

コンサルタントにとって驚きだったのは、広尾商店街では、こうした集合研修が初めてだったことです。学習すればそれだけの効果は上がるのですが、マーケティング等の研修は商店街には意外なほど浸透していなかったことがわかりました。念のため付け加えれば、広尾商店街は、都内でも活発な商店街活動への評価を得ており、街並み整備や販促活動にも積極的に取り組んできた商店街でした。

それでも、ソフトなマーケティングへの取り組みは、長く不在でした。一般的にも、商店街や個店は大手流通企業に比べ、マーケティングとの距離は大きいようです。

マーケティングの不在はどこからきたのか?どうするか?

商店街は、戦後、商業環境の変化はありながらも、行政の手厚い支援も受けて、バブル経済崩壊までは安泰だったといえるでしょう。しかし、安穏な時代が長すぎたのか、いつの間にか商売の基本である「誰に何を、どのように売るか」を失い、失ったことの重大性に気付かぬまま、今を迎えているようです。元気のある一部を除き、多くは、"マーケティングの離れ小島"の姿です。

売れなかったら売れる方向を考える力。それがマーケティングの主眼です。商店街自身の自律・自尊は、マーケティングに自ら向かう「意識」から生まれると考えています。

中小企業診断士を中心とする外部の専門家は、「誰に、何を、どのように売るか」の大事さを繰り返し伝える必要があります。今さらと思うような基本中の基本、顧客情報や売上内容をノートすること、顧客ともっと話すこと、仲間から情報を集める価値なども同様です。失ったものは大きく、"離れ小島"からの脱出には時間を要します。

また、商店街への外部からの支援では、"点"としての接触では非効率かつ難しいのが経験則から明らかです。行政や支援機関においても、政策効果をあげる上で、一定期間継続する"面"的サポートの仕組みが望まれるところです。