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広尾商店街支援レポート―まちの「豊かさ」再生への挑戦

レポート:油井 文江(中小企業診断士)

【第1回】「シブヤStyleプロジェクト」始動!

全国に1万8000ともいわれる商店街。その大半は小規模な近隣型で、皆、時代との大きなギャップに直面しています。まち全体の変容と商店街への集客力の低下、店主の高齢化と後継者難...。共通の問題を抱え危機感の募るなか、勇気を持って立ち上がり新たな方向へ進み出そうとする商店街と、その活動を支援する中小企業診断士の挑戦――東京渋谷の「広尾商店街」からレポートします。

商店街支援の3つの柱

全国に1万8000ともいわれる商店街。その大半は小規模な近隣型です。筆者が支援する東京都渋谷区の「広尾商店街」もその一つ。広尾といえば高級、ハイソサエティなイメージですが、当商店街はもう一つの広尾、カジュアルで庶民的な広尾を代表する商店街です。

路地裏には東京大空襲を逃れた家並みが残っています。当時からの銭湯も健在。もとは江戸時代から続く禅寺の門前商店街でした。今も縁日には露天が出ます。

この広尾商店街、最近はチェーン店系の専門店や飲食店が増えています。昔ながらの業種店がシブい魅力で頑張っていますが、売上は不振続き。店主の高齢化も進み、撤退・テナント業への転換が目立つなど、厳しいターニングポイントに立っています。

現在、商店街振興組合の会員数は152軒。ブランド感を求めた新規出店は多いですが、振興組合への加入数は増えません。広尾らしさやまちのまとまりが消えかけていると、商店街は危機感を強めています。

広尾商店街のメイン通り
広尾商店街のメイン通り

当商店街は「昭和の時代」を謳歌・繁栄した商店街です。恵まれた立地にも助けられてきました。しかし今直面するのは、時代との大きなギャップです。まち全体の変容と商店街への集客力の低下、個店の売上不振、組合活動の弱体化、店主の高齢化と後継者難など。これは、全国の商店街にも共通する問題です。

筆者は、多くの商店街と接するなかで、どのような環境対応をするにせよ、商店街問題は「ヒト」に尽きると思ってきました。一番の弱みは、店主たちが、後退し続ける局面に手段を持たず、諦めに近い気分でいることだと。

対するコンサルタントとしては、
1)個店の売る力をつける方法を『自分たち』で考える
2)商店街組織を元気にする方法を『自分たち』で考える
3)『自分たち』で地域を見直し、連携する

を柱に、支援活動を続けています。中心は「自助」と「共助」への意識転換です。これができれば地域社会も「公助」もついてきます。

具体的には、商店主の学習会開催、地域を巻き込んだネットワークづくり、もちろん個店の診断・助言、調査活動や商店街イベント、販促支援なども必須です。広尾商店街ではこうした積み重ねの結果、今新たな方向へと動きだそうとしています。

 本レポートは、3年間にわたる広尾商店街の支援活動をご紹介し、問題解決の方向性を考えたものです。大きく、次の4つの観点から考えています。
(1)支援の仕組みやツールのパッケージ化
(2)行政、支援機関、診断士チームの連携
(3)後継者育成へのチャレンジ
(4)商店街とまちづくりの展望

広尾商店街との出会い: 2005年「広尾オープンミーティング」

診断士として最初に広尾商店街を訪ねたのは、2004年の末です。テーマは広尾での地域ネットワーキング。これは東京商工会議所渋谷支部と共同ではじめたものです。

当時、東京商工会議所渋谷支部は、渋谷全区を恵比寿、渋谷、原宿等の7地域18エリアに区分し、地区コミュニティ形成のための活動「シブヤStyleプロジェクト」を構想していました。筆者に参画要請があり、中小企業診断士によるチームを編成して、共同プロジェクトをスタートさせたのが発端です。

最初のエポックは2005年7月に開催した「広尾Style研究会・2005オープンミーティング」でした。

オープンミーティングは、文字通り地域に開かれた交流イベントです。商店街を中心に、地域の住民、学校や寺社、企業、勤務者、学生などが一堂に会し、シンポジウムを実施しました。構成は、1.「コミュニティの再生と商店街の役割」、2.「地域の教育力と異世代交流」、3.「まちづくりと生活者参加型ソフトの創造」、の3セッション。商店街からもパネリストが登壇し、広尾地域での人的・組織的交流のキックオフとなったイベントです。

 企画の背景には、商店街は住民とともにまちを支えあう存在であり、かつまちづくりの中心的な活動単位だとの認識があります。その上で、
1)都市部におけるまちづくりは、地域コミュニティの形成なしには進まない、
2)コミュニティの形成には、地域の様々な人々が「協働」する場が大事、さらには
3)個々のコミュニティ単位がネットワークすることで、安全・安心・豊かなまちと商店街の姿が描ける、
との考えがありました。

オープンミーティング以降、広尾商店街は、店舗が出展・協力をする地域交流型アートイベント「広尾Art-ON」、キャンドルナイトなどの全国一斉イベントへの参加など、コミュニティを意識した活動を進めることになります。

一例として、広尾で120年間続いた米屋を閉めた理事は、店舗を交流スペース「広尾コメカフェ」として地域に提供(自費で)。今では、近くの聖心女子大学の学生や主婦、学校関係者らが寄り合うなど、地域活動の拠点としてユニークなスポットになっています。

「診断士によるプロジェクトチーム」の役割と支援のパッケージ化

広尾の商店街支援は、まちづくり活動と連動するもので、物理的にも時間的にも1人2人で負えるものではありません。そこで、まちづくりや商店街支援に関心を持つ中小企業診断士でプロジェクトチーム「シブヤStyleプロジェクト」を編成しました。

同チームは、広尾での活動の翌年2006年には、渋谷区初台エリアで、広尾と同じ手法を用いて、「2006初台オープンミーティング」を実施しました。同時に、他の新たなエリアでのネットワーキングの下準備、また広尾や初台でのネットワークを深化させるフォロー活動もミッションです。

商店街関係者も一緒に:シブヤStyle研究会
商店街関係者も一緒に:シブヤStyle研究会

シブヤStyleプロジェクトチームは、成果物として、支援の仕組みやツールのパッケージ化を目指しています。地域や商店街に対する、支援機関との連携の形、地域ネットワーキングの企画からフォローアップ、まちづくりまで、共通する切り口や手法での実施ケースをまとめ、どこでも活用していただけるパッケージを作る、具体的なツールのフォームまで標準化しておく、これを目指すものです。ここでは専門能力の連携が必要です。

これからの時代、個別の専門性はより分化・深化し、一方、事業の遂行水準はより高度化するため、1つのミッションの遂行には専門性を集めた組織力が必要になります。中小企業診断士は個のコンサルタントとしての活動が多いのですが、プロジェクトチームとして集合で事業を推進する場合は動き方が異なります。この意味で、シブヤStyleプロジェクトは、診断士にとってのチャレンジでもあります。

診断士チームは、2006年度からは、研究活動に軸足を置く「シブヤStyle研究会」も設けました。こちらでは、未来志向のまちづくり・商店街支援の手法の研究を進めています。ソフトなまちづくり活動に付き物とも言える資金面の弱さや、そこから派生する組織性の問題など、診断士にとっても幾つも乗り越える課題がありますが、研究会とプロジェクトチームは、次の理念のもとで活動中です。


シブヤStyle研究会・プロジェクトの理念

まちと暮らしを構成する住民、商店主などの事業者、勤務者、学生が、相互に関わり合う
経済至上ではない、暮らしと経済が融和する新しい「まちと暮らしの理念」を構築する
行動目標
  • 都市部における地域社会づくりのパイロット・プロジェクトとして、シブヤStyleプロジェクトを位置づける
  • まちづくりの研究・実践活動を通じ、まちづくり専門家、意欲ある個人を育成し、そのコラボレーションを共に創出し、地域の経済・文化にわたる活力を高める
活動内容
  • まちづくりの交流支援:学習会、セミナー、交流イベント
  • まちの中小企業、NPO、コミュニティビジネス支援:経営改善、創業等
  • 地域・企業防災推進事業:地域の相互信頼関係の構築
  • まちづくりに関する広報、出版活動
  • この他、まちづくりに係わる事業の実施