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中小企業診断士の仕事

企業再生支援のスキルアップに取り組む

レポート:宮崎 洋一

【第3回】「企業再生の新たなる診断手法に関する調査研究」報告書について

単なる報告書では終わらせない

本プロジェクトの成果としてまとめられた『企業再生の新たなる診断手法に関する調査研究』報告書については前々回にも少し触れたが、ここでその概略をご紹介したい。

本プロジェクトには、企業再生支援の経験者を中心とした中小企業診断士十余名が参加し、十数回にわたって議論を重ねてきた。その目指すところは、企業再生のマニュアルとなりうるような実務的な内容であり、再生支援の現場で活躍する中小企業診断士の育成にも役立てられるような内容である。

プロジェクトの会議に同席、取材するなかで、単なる報告書では終わらせない、という高い志をひしひしと感じることができた。

報告書の「はじめに」には、以下のように執筆の狙いが記されている。ここからもプロジェクトの意気込みが感じられるだろう。

「...(前略)...財務リストラの支援ニーズよりも、事業リストラや業務リストラに支援の要請が強い。よって支援ニーズにこたえるべく執筆のウエイトを事業リストラ・業務リストラにおいた。とくに業務リストラについては、支援する個人の力量によるところが大きいが、それらを普遍化して、中小企業診断士の質の向上を図れるよう配慮した。」

報告書の全体は次の8つの章で構成されている。大きな流れとしては、支援ニーズの調査結果を整理し(第2章)、そのニーズに応えることを意識して、第3章以降で企業再生支援の実務が解説される。

メインとなる調査は、全国の中小企業再生支援協議会を対象としたアンケート調査および首都圏の中小企業再生支援協議会を対象としたヒアリング調査である。また、第3章以降の実務は、東京都再生支援協議会のスキームに沿ったかたちでの解説となっている。

 第1章:企業再生の動向とこれからの方向性

 第2章:中小企業再生支援協議会の診断士に対する期待

 第3章:企業再生イメージの策定(一次対応)

 第4章:企業再生戦略の策定(二次対応)

 第5章:デューデリ・リストラの基本ツール

 第6章:デューデリ・リストラの補完ツール

 第7章:業務リストラの具体的な展開(製造業、建設業、流通業、宿泊・サービス業、飲食業)

 第8章:再生計画のモニタリング

*デューデリ=デューデリジェンス:事業の内容、財政状態あるいは債務の状況など企業の現状を把握すること

中小企業診断士への期待と課題

本報告書のなかで、読者の多くがいちばん興味を持たれるのは、手法の部分もさることながら、やはり中小企業診断士へのニーズについての調査結果であると思う。

ここでは、ヒアリングにより生の声を聞けているのが興味深い。たとえば、「求めている診断士像」として、以下のような意見があげられている(報告書より引用)。

  • 事業再生は一人の力でできるものではない。チームを組んで、調整できる能力が必要。また、信頼できるパートナーを数多く持っていることが必要。
  • 基本的にはP/Lの改善ができることであり、本業の利益をあげていく計画を作れることが重要である。併せて、診断士の活動領域を広げるためにも、DDS、会社分割などB/Sを改善する手法を身に付けて欲しい。
  • 全体的な企業再生のシナリオを理解し、それに沿って、企業の実態調査を行い、個々の業務リストラ計画を立案できる人材。

さらに、調査結果のまとめとして、中小企業診断士への期待と課題が整理されている。少し長くなるが、以下に引用してご紹介したい。

(1)期待

1.再生可能性の分析

...(前略)...当該企業の実態を明確にして、再生可能である根拠を適確に示すことや、場合によっては再生困難であるという判断を行う分析力が必要となる。

2.再生マスタープランの作成

現状分析(事業別、取引先別、商品別)に基づいた、実行可能な再生支援計画の策定をしなければならない。

...(中略)...いつまでに誰が何をどのように行うかを具体的に示すことができる企画力がなければならない。

3.経営戦略策定支援

当該企業が再生を実現し、変化する環境に適合して将来にわたって存続し成長し続けるための経営戦略を策定することである。企業経営を局所的に見るのではなく、総合的な戦略構築力が求められる。

4.事業リストラ

...(前略)...採算事業と不採算事業の選別を行い、事業の選択と集中を行わなければならない。そのためには様々な角度から経営を診ることができる診断力が必須である。

5.業務リストラ

P/L(損益計算書)の営業利益を向上させていくために現場で何を行ったら良いかを示し、経営者や従業員に対して分かりやすく伝えることと、自らの手足を動かし率先して行動する実行力がなければならない。

(2)課題

1.『改善』提案でなく、『再生』の提案

単なる経営を改善するアドバイスでは、病気である企業は再生しないことを認識し、企業を健康にするプランを提示しなければならない。

2.財務知識

最低限の財務知識はあって当たり前である。それに加えて金融検査マニュアル、リレバンの内容、金融機関の施策、保証協会・政府系金融機関の商品内容などの知識を有していなければならない。その上で企業に対してのアドバイスを行わなければならない。

3.実務能力

企業の社員と一緒になって現場を飛び回れる行動力と、当該企業の業種に精通した専門能力を発揮しなければならない。具体的にいかにして利益を上げていくかを提案しなければならない。

4.プレゼン力

(省略)

5.P/Lの改善とB/Sの仕組みの認識

(省略)

このような期待と課題に対応することを意識して、報告書の後半で、実務を「新たなる診断手法」に落とし込んでいく。

後半の山場は第7章で、「業務リストラ」についての実践的解説である。そこでは「業務リストラの進め方6段階と注意点」を示すとともに、製造業、建設業、流通業、宿泊業・サービス業、飲食業、それぞれの業種別の業務リストラの具体策が、おもに以下の各項目を中心に展開される。

(1)業務プロセスと個別業務の革新

(2)売上原価(製造原価)の低減策

(3)販売費・一般管理費の低減策

(4)売上維持・向上策

再生の局面でマニュアルとして使えるものを目指した意欲的な内容となっている。

なお、本報告書は、社団法人中小企業診断協会のホームページ(http://www.j-smeca.or.jp/)で公開が予定されている。(この項続く)

小林 勇治さん:(株)マネジメントコンサルタンツグループ代表取締役

小林 勇治(こばやし ゆうじ)/新潟県出身。1967年富士短期大学経済学部卒業後、日本エヌ・シー・アール(株)勤務を経て、1985年コンサルタントとして独立。現在は、(株)マネジメントコンサルタンツグループ代表取締役としてITシステムの導入・運用のコンサルティングを主におこなっている。イー・マネージ・コンサルティング協同組合理事長、(社)中小企業診断協会東京支部副支部長。『利益を劇的に増やす「ミーコッシュ」導入・活用の具体策』(経林書房、2000年)ほか著書多数。http://www.e-mcg.net