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中小企業診断士の仕事

企業再生支援のスキルアップに取り組む

レポート:宮崎 洋一

【第1回】企業再生支援と中小企業診断士

「小売業のPB商品の自社企画などは、一見、原価の低減には無関係に見えるけど、海外も視野に入れれば、ひじょうに低コストで出来るケースも増えているんだ。再生の対象企業でも絶対出来ないってことはないだろう。」

 「改善の具体策としては、ポイントをよく整理できているけど、再生の局面で使ってもらうにはちょっと弱いんだよ。『売上原価の低減策』の項目を前に出して優先順位を明確にしたほうがいいんじゃないか。」

 「飲食店のリストラではQ・S・Cの視点はひじょうに大事だから、もうすこし丁寧に解説しようよ。」

 中小企業診断士十余名が集まり、ケンケンゴウゴウ、議論を積み重ねてゆく。日曜の午前10時から始まった会議は、すでに6時間を超えてようやく終わりがみえてきたところだ。

 今回、社団法人中小企業診断協会のプロジェクトの1つである『企業再生の新たなる診断手法』の調査・研究プロジェクトの現場を取材する機会を得た。併せて同プロジェクト代表の小林勇治さんにお話をうかがったので以下にレポートする。

中小企業再生支援と中小企業診断士

中小企業再生支援の仕組みは、平成15年にスタートした。産業活力再生特別措置法に基づいて各都道府県で支援機関を認定し、その中に中小企業再生支援協議会という組織をつくって活動するものである。

中小企業庁のホームページ(http://www.chusho.meti.go.jp/)によれば、平成15年以来、平成18年12月末までの約4年間で、窓口相談企業数の累計は10,795社。このうち、金融機関との調整を含む抜本的な対策が必要な1,248社について再生計画の策定が完了し、その結果、82,235名の雇用が確保されたという。また、439社については、引き続き再生計画の策定を支援中で、再生計画の策定が完了または支援中の企業が累計で1,687社となっている。なお、相談企業の約半数にあたる累計4,826社については、経営改善や資金繰りに関するアドバイス、適切な関係機関の紹介等、相談段階で課題が解決しているとのことだ。

このように国の制度として着実に成果が積まれていくなかで、中小企業診断士の果たしてきた役割は大きなウエートを占めているといえる。

一例として今回のプロジェクトで行った全国の中小企業再生支援協議会を対象としたアンケート調査によれば、外部専門家として中小企業診断士が再生案件に関与する比率は、56.6%で各専門家のなかでトップとなっている(次いで公認会計士45.1%、税理士28.6%、診断士以外の経営コンサルタント9.8%、弁護士9.5%)。

ただ、再生案件に関与した中小企業診断士の評価に関しては、「非常に満足」が4%、「どちらかといえば満足」が59%と、一応6割以上が「満足」という回答をしているものの、必ずしも期待に応えていないのではないか、という疑問の残る結果となっている。

小林さんは、当初、再生支援にあまり熱心には取り組まれていなかったという。しかし、知人からの依頼等で受身的に仕事をされていくなかで、中小企業診断士に対する評価が、必ずしも高くないということがだんだん分かってきた。そこで、ターンアラウンドマネジメント研究会を立ち上げたり、ご自身が理事長を務めるイー・マネージ・コンサルティング協同組合で研修会をするなどして、後進の育成に注力されるようになったのだそうだ。

なぜ、中小企業診断士の評価が必ずしも高くないのか。結局、再生支援協議会から求められているものと、診断士が身につけている今までの診断手法とでは、ちょっと違うところがあるのではないか、と小林さんはいう。

小林さん

「従来の診断手法に基づくと、『売上を多くして、それによって利益を確保するんだ』といった計画書になってしまうケースがあるんですね。そうではなくて、売上が伸びないということを前提として、そういう状況のなかで、いわゆる財務リストラや事業リストラをすることによってBS(貸借対照表)の圧縮をする。そういうことをまず基本的にやって、さらに経費も削減して、それから売上を上げるというような、本来のリストラの手法に適ったようなやり方。協議会が求めている、そういうスキームがあるにも関わらず、自分たちの過去の経験で計画を策定してしまうために、ニーズとは全く違う形のシナリオを作ってしまうケースがある。これはひじょうにまずいわけです。」

そういう問題意識から、今回のプロジェクトはスタートした。まず調査によって再生支援協議会のニーズを明らかにし、そのニーズに対応して新たなる診断手法を提言しようとするものである。

中小企業診断士は「業務リストラ」で勝負

企業再生を成功に導くリストラには、財務リストラと事業リストラおよび業務リストラがある。

財務リストラは、資産の健全化、債務の圧縮、金利負担軽減等により、貸借対照表の適正化、財務体質の強化等をはかるものである。

事業リストラは、採算事業、不採算事業を見極め、選択と集中により事業を再構築することである。

業務リストラは、経営の本質をよくすることで、まず経営者・従業員の意識改革をやり、売上原価の低減・販売管理費の低減、業務プロセスの革新によるコスト低減、売上低減策を打ち出すことである。

なかでも、中小企業診断士の場合は、いわゆる業務リストラがメインになるのだという。

「事業リストラや財務リストラは公認会計士や税理士さんがやられる可能性があるし、事業リストラの場合は、今、金融機関でもやられます。一番難しいのが業務リストラで、これはわれわれ中小企業診断士がぜひとも引き受けるべきものです。たとえば、土地を売るなりして急場はしのげても、経営の本質的な部分が良くならなければ、また何年か後に同じような状況になるんじゃないかという懸念が残ってしまいます。だから経営の本質そのものを変えることが必要になる。それが業務リストラなんです。」

「事業リストラと業務リストラというのは混同されている方もいらっしゃるんですが、本来なら全然違うんですね。B/S上にどう反映するかが事業リストラですし、業務リストラはP/L上でいかに改善をするかということです。そこが明確に違うんです。少なくともわれわれのなかでは、それを混同しないでB/S上に反映しているのが事業リストラで、P/L上に反映するのが業務リストラだという定義付けをしていったほうが、理解されやすいのではないかと言っているわけです。」

損益計算書(P/L)の改善というのが、中小企業診断士が本来得意としている業務改善の基本であり、再生支援の場合もそこで勝負すべきである。小林さんはそういうスタンスで後進の育成を行ってきた。本プロジェクトも同様のスタンスで進めている。(この項続く)

小林 勇治さん:(株)マネジメントコンサルタンツグループ代表取締役

小林 勇治(こばやし ゆうじ)/新潟県出身。1967年富士短期大学経済学部卒業後、日本エヌ・シー・アール(株)勤務を経て、1985年コンサルタントとして独立。現在は、(株)マネジメントコンサルタンツグループ代表取締役としてITシステムの導入・運用のコンサルティングを主におこなっている。イー・マネージ・コンサルティング協同組合理事長、(社)中小企業診断協会東京支部副支部長。『利益を劇的に増やす「ミーコッシュ」導入・活用の具体策』(経林書房、2000年)ほか著書多数。http://www.e-mcg.net