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活躍中の独立診断士へインタビュー

最前線の診断士

事業承継のトップランナーを追う(3)五島 宏明さん

取材・文:鯉沼 和久(中小企業診断士)寺田 孝雄(中小企業診断士)

【第1回】自身の体験から得た教訓

2018年2月1日(取材日:2017年9月26日)

本シリーズでは、積極的に事業承継に取り組む3名の中小企業診断士の方に、その活動内容や中小企業診断士に求められていることなどを伺っています。今回は、元企業経営者の独立診断士で、現在は事業承継や事業再生の支援を中心に活動している五島宏明さんに、経営者としての経験を振り返っていただくとともに、後継者の視点を中心に、事業承継に際して意識すべきことを教えていただきました。

急ぎすぎた事業承継

―ご自身の事業承継の経験について教えてください。

私の実家は、岐阜市(岐阜県)でベビー・子ども服の洋品店をやっていました。祖父母が昭和21年に創業し、繁華街で店舗を展開していましたが、ショッピングセンターや駅ビル、百貨店への出店など、両親の代でだいぶ基盤を広げました。
私は3代目社長になるのですが、修業をかねて大学卒業後は他の会社に就職しました。勤めていたのは2年半ほどでしたが、さまざまな経験をすることができて有意義でしたね。できれば30歳までは外で働きたかったのですが、実家の商売の業績が悪くなり、戻ってくるように言われ、結局24歳の半ばで実家の会社に入社しました。
最初に配属されたのは、業績一番店の店長――花形のポストです。本来ならあり得ない話で、いまから思えばもっと下積みを経験すべきでした。その後、30歳で社長になったのですが、これも早すぎました。金融機関や対外的な信用を得るためにも、社長になるのは40歳くらい、最低でも35歳以上が望ましいですね。

―何か事業承継を急がれた理由があったのでしょうか?

創業者として切り盛りをしていた祖母が亡くなってから、事業を引き継いだ両親は業績を拡大する一方で全体をうまく回すことができず、従業員との関係などバランスが微妙に崩れてしまいました。それが原因で、何かと2人でもめていたのをいまでも覚えています。
それを見ていた私は、子ども心に「とにかく早く大人になって、早く会社を継ぎたい」という気持ちを持っていました。多分、そのことが心底にあって、私自身の事業承継を急がせたのだと思います。

3代目が会社を潰してしまったのは、「経営の承継」に失敗したから

―急ぎすぎた事業承継は、どのような問題を引き起こしたのでしょうか?

事業承継において本当に引き継がなくてはならないものは、「稼ぎ方」なんですね。それらは、しっかりと時間をかけて覚えなければいけないのに、私の場合はそれができていませんでした。
また、番頭さんや父の甥など、年齢で言えば目上の人との人間関係もうまくいかず、悩みました。やはり、「俺は息子なんだ」というプライドがあったのでしょう。子どもの頃から社長を引き継ぐ既定路線に乗り、創業者が築き上げた稼ぐ仕組みを理解しないまま、経営をしていました。社長として一生懸命に仕事をしましたが、結果的には方向性を誤り、会社を潰してしまいました。

―急がずに後継者を育成するためには、どのような事業承継が望ましいのでしょうか?

創業者は自分で一から社員を雇い、教育をします。お金も自ら、裸一貫で汗水たらして作ったものですから、本当に管理が細かい。現在、事業承継をお手伝いしている会社の創業者も、「なぜ、こんなことまで指示をするのだろう」と思うくらい細かいですが、それだけ苦労をされてきたということですよね。後継者とはスタート地点が異なるわけです。
本来は、創業者が自分で体験したことすべてを息子に引き継ぐべきですが、わが子には苦労をかけたくない。これは親心なのですが、やはり自分で体験しないと、お金のありがたみはわかりません。会計を別にした店舗を経営させるとか、資本金だけ出して会社経営をさせるとか、大きなリスクはありますが、「自分で何とかやってみろ」と突き放し、這い上がってくる息子に承継させるほうが良いですね。苦労してお金の工面をさせたり、「自分がこれを言ったらどうなるか」といった修羅場を経験させたりすることが、本当に大切だと思います。

―ご自身の経験から得られた、事業承継を成功させるポイントを教えてください。

会社経営の目的は事業継続だと思っています。そして事業継続とは、御家(おいえ)を残すことです。「真田丸」や「おんな城主直虎」などの大河ドラマを見ても、御家(おいえ)をつなぐことに最大限の努力をしています。
私の場合は、そのための「したたかさ」が足りませんでした。変えてよいものと変えてはいけないものを見極め、それを明確化することがとても大切なんです。何代も続く老舗企業の後継者の皆さんは、それをよくご存じです。何を残し、何を変えるべきか、自分が果たすべき役割をしっかりとわきまえておられます。中小企業診断士としては当たり前にも思えることですが、「自分の会社の強みが何か」と「お客様は誰なのか」を知ることが、事業承継の重要な要素である「経営の承継」の原点だと思います。

(つづく)

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プロフィール

五島 宏明(ごしま ひろあき)

1962年岐阜県生まれ。青山学院大学を卒業し、婦人服大手チェーンにて修業後、家業の子ども用品専門店の三代目社長に就任。24店舗まで成長させたが、2007年に会社は倒産。「自分と同じ経験をする人を作ってはならない」との思いから診断士資格を取得し、現在は、知的資産経営メソッドを活用したブランディングで個人事業主から中堅企業までを支援している。