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事業再生の現場から

文:鍜治田 良(中小企業診断士)

【第3回】再生への取組みと再生計画0(ゼロ)年目の結果

私は中小企業診断士資格を取得後、日本生産性本部へ転職し、企業の収益性向上のお手伝いをしてきました。これまで3回にわたって、事業再生の現場で私が考えたことや実践したことをレポートしてきましたが、最終回は再生計画から実行支援、決算結果までを報告します。

事業DDから計画策定へ

事業DDの結果を支援金融機関、再生支援協議会などへ報告し、関係者で検討した結果、事業計画を策定することが決定されました。

再生計画は以下の条件を概ね満たさなければ、認められません。

  • 実質債務超過を5年以内に解消すること
  • 3年以内に黒字化すること
  • 再生計画終了年度の有利子負債対キャッシュフロー倍率が10倍以下であること

以上の3つの条件をクリアするために、最初に経常利益、償却前経常利益を概算し、損益計算書の計画を固めていきます。その後、貸借対照表、キャッシュフロー計算書を作成します。

売上、人員のバランス

目標となる利益を設定後は、変動費、固定費を決め、最後に売上を検討し、計画の数字を組み立てていきます。それと並行して、数値計画の根拠であるアクションプランも作成していきます。どのような改善をすればコストが削減できるか、売上が上がるのかなど、具体的に詰めていくのです。まずは、人件費以外の固定費をどこまで削減できるかを検討し、次に変動費の検討を行いました。そして最後に、売上と人件費を検討しました。

A社の場合、特に重要なのは仕事量(売上)と人員数(人件費)のバランスでした。労働集約的な仕事であるため、そのバランスが崩れると、仕事はあってもやる人はいない、もしくはその逆の状態に陥ります。その結果、利益計画が成り立たなくなってしまう危険性がありました。そのため、改善も考慮したギリギリの人員数を決めなければなりませんでした。

費用関係を詰めた後は、売上計画から作成します。取引先ごとに売上見込を精査した際のポイントは、売上構成比の高いB社の売上でした。B社からは次年度の発注見込みは出ているものの、その後はまったくわからない状態。とは言え、トレンドとして減少傾向が予想できたため、議論の結果、減少の売上計画としました。それでは計画が成り立たない可能性もありましたが、幸いにも、新規取引先の受注拡大が見込まれたのです。社長や関係者が新規取引先に発注量の拡大をお願いして了承を取りつけ、最終的にB社の売上を減少傾向、新規取引先を売上増加傾向とし、全体の売上は、直近3年は横ばい、それ以降は微増傾向の売上計画としました。

そして最後に、人員削減計画を作成しました。これは、私が支援する以前に人員削減、給与のカットを行っていたため、パート化などの若干の修正で済みました。

損益計算書を作成後、他の財務諸表を作成し、中小企業再生支援協議会の金融調整の結果を待ちます。その結果、返済計画期限の延長に決まり、返済計画などを完成させて計画を仕上げていきました。

まずは小さい止血から

再生計画も無事承認され、あとは実行するのみとなりました。引き続き、私もアクションプランの実行支援をすることになりました。

最初に行ったのは、購買ルールの一本化です。これまでは、現場で勝手に購買品を注文できたため、気づくと購買費が予算をオーバーし、費用を管理できるような状態ではありませんでした。そこで、決裁者や発注書の流れなど、運用ルールを作成し、明確にすることで、購買費用を管理する仕組みを整備しました。

改善の基礎づくり

朝礼の様子
朝礼の様子

次に行ったのは、ラジオ体操、朝のミーティングの改善です。意識調査では、組織の問題としてコミュニケーションの悪さが挙げられていました。それを改善するために、ラジオ体操を1ヵ所で行い、その場で課別のミーティングを実施した後、仕事に入るようにしました。

改善前は、ラジオ体操はバラバラで、始業のチャイムが鳴ると工場内でミーティングを行い、機械の稼働音で良く聞こえない環境で、連絡事項を伝えていました。大切なことも良く伝わらない状態です。これがコミュニケーションの悪さの原因の1つと考え、改善に着手しました。

改善の本丸へ

このようにして改善の基礎を固めつつ、いよいよ改善の本丸に着手しました。生産現場の改善の最初の一手は、掃除用具の定位置化でした。整理整頓し、職場をきれいにと口では言っても、用具が身近にないと掃除はできません。そのため、掃除用具の整理整頓から始めました。

次に着手したのは、モノの削減、2S。不要品を廃棄し、作りすぎた製品を裏の倉庫へ移していきました。壁際にあった不要物を次々と廃棄し、壊れて放置していた設備も廃棄していったのです。「直せばまだ使えるし、便利だ」と言う管理職には、直近ではいつ使ったのか、長年使っていないのであれば必要がないのではないかと問いかけ、廃棄の了解をとりました。こうして、少しずつモノの削減が進み、徐々に工場内も明るくなっていきました。

最大の難関

納期の見える化
納期の見える化

次に、生産管理の最大の問題点である納期管理に着手しました。生産管理システムに投資できる余裕がないため、見える化での納期管理の実験にとりかかります。

まず行ったのは、最初の加工工程。複数あった材料置き場を1ヵ所に集約し、置き場を3つのエリアに区切ります。看板をつけ、今週、来週、再来週に着手する材料の置き場所を作りました。材料が入荷すると、加工着手日を確認し、該当する場所に置いていきます。今週着手するものは今週のエリア、来週着手するものは来週のエリア、といった具合です。これにより、その週に着手すべき材料が見える化され、納期遅れが見えるようになります。この管理を導入してからは、徐々に納期遅延が減少していきました。

現在は、この小さな成功体験の横展開の準備を進めています。

再生への手応え

再生に取り組んで半年が経過した頃、社長からの月次決算の連絡メールに次のような記述がありました。

「本日、製造部長とC社の売上計画を再度見直しました。当初予想の130万程度を180万程度まで上げます。今月のノルマを見直しただけですが、先月の30万不足がよほど悔しく、ノルマのハードルを高くしました。これで、どこまで収支に影響するか費用予測と併せて見直していますので、何とか今年最後は黒字で終わるように考えています」

月中で赤字の見込みとなり、それをどのように回避するかという内容で、C社の受注残が残っているため、黒字化のために生産計画を130万から180万に引き上げるとのこと。この中にある「よほど悔しく」の記述に、製造部長に「利益は出るものではなく、出すもの」という感覚が芽生えてきたと、再生の感触を覚えました。当然、その月の結果も黒字にすることができましたが、そのメール以降、現場の改善スピードが速まり、改善も次のステップへと進んでいます。

再生計画0(ゼロ)期の結果

事業DDに着手したのは2012年4月ですから、支援を始めて1年が経過しました。確定数字ではありませんが、今期の黒字はほぼ確定です。再生計画では、計画0期の2012年度の利益計画は営業赤字で、黒字化は2013年度からとなっていました。しかし、社長や幹部による必死の改善で、1年早く黒字化を達成することができました。

来期は、B社の生産縮小など、想定外のマイナス要素も多くありますが、少しずつ勝ちグセがついてきており、黒字が続くのではないかと考えています。

(おわり)

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松原 和枝(まつばら かずえ)
合資会社インスティル代表。中小企業診断士。日本女子大学文学部国文学科卒業後、PR会社、英国留学を経て、三菱商事(株)、(株)ジェリココンサルティングに勤務。平成12(2000)年に合資会社インスティルを設立。一貫して流通業のマーケティングデータ分析業務に携わり、かかわった流通業のデータ分析は150社以上。平成18(2006)年よりマーケティング・コンサルティング事業を開始。平成21(2009)年4月中小企業診断士登録。

会社名 合資会社インスティル
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